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5.糸師凛は混乱している。
「…休みはたった2日かよ。」
2日ぶりに戻ってきた自分の部屋。
荷物はもう揃えられていて私服も家に置いてきた。
ブルーロックでは私服は必要ない。
服は用意されるし第一服なんてなんでもいい。
(潔、何してんだろ。)
ふと頭に浮かんだ想いに自分でも驚く。
この前からやっぱりおかしい。
昨日の夕方頃、潔から電話がかかってきた。
電話の内容はこの前絵心が言っていた3人組の話だった。
予想通り潔は俺を誘ったが断った。
こんな曖昧な気持ちのまま一緒に組んで勘違いだけはさせたくない。
完全にサッカーなんて無視した自分の私情だ。
「それで僕たちを選んでくれたってこと…?嬉しいけどやっぱり荷が重いね、、」
「オシャな選択だが理由がノットオシャだ。」
「理由なんてどうでもいい。さっさと動け。」
結局のところ潔たちよりも先に誘いを受けて返事を遅らせていた時光と蟻生に再び連絡をしてチームを組むことにした。
「これよりネクストステージを行います。3人でまとまって会場へとお越しください。」
アナウンスに従い見覚えのある部屋へと通された。
「あ、凛!やっぱりその2人と組んだんだ」
「…誰だこいつ。」
会場に一足早く来ていた潔は俺と目が合うと駆け寄ってきた。
その後ろに続いて着いてきた潔の同グループには2人、見覚えのない顔があった。
「氷織と黒名だよ。ほんとは蜂楽と組みたかったんだけど國神と千切は固定だから譲ったんだ。」
「一位の人やろ。よろしゅう…ッ」
氷織と呼ばれた青髪のやつが握手を求めようと手を伸ばしてきたが振り払った。
驚いた顔は氷織だけではなく潔もだ。
「馴れ馴れしいんだよ。俺らは敵だ、友達作りに来たんなら帰れ。」
別に氷織という奴に特別嫌な雰囲気を感じ取った訳ではなかった。
ただ潔がこいつと組んで楽しそうにこれからサッカーの話をしていくのかと考えると後悔と深い嫉妬でおかしくなりそうだった。
何よりも腹が立ったのが潔が氷織たちの味方についていることだ。
さっきから氷織と俺の間に立って守るような軽蔑する姿勢を見せてくる。
「凛、俺が嫌いなのはわかるけどこいつらにまでそんな態度見せなくても…」
「待てよ…俺がいつお前のこと嫌いだなんて言った。」
「俺のことなんか初めから何とも思ってねぇんだろ。俺ばっかり空回りして悩んで…馬鹿みたいにじゃんか。」
寂しそうに悔しそうに下を向く潔を氷織は心配そうに抱き寄せた。
潔は俺に背中を向けて氷織の胸に頭を埋めている。
氷織は少しだけ俺らに頭を下げると潔を連れて行ってしまった。
もう1人のチームメイト、黒名は俺の耳元まで近寄ると小さな声で呟く。
「好きな子も大事にできない奴がサッカーなんてできる訳ないと思うけど。」
潔たちの後を追って黒名も行ってしまう。
「大丈夫?凛くん…なんか揉めてたみたいだけど。」
「…お前らに心配されるほど落ちぶれてねぇよ。」
時光の言葉を冷たく切り離す。
さっきから頭が回らない。
「やぁやぁ、才能の原石どもよ。U20代表戦、ひとまず良くやった。また世界へと近づいたな。」
潔たちを目で追っているといつのまにかステージ上には絵心の姿が見えた。
「そこで、本人が志願した。これからネクストステージ、特別強化訓練を行う。」
絵心の合図をきっかけにステージに出てきた人物に目を疑った。
同時に会場全体がざわめく。
「あの人って凛くんの…だよね。」
「まさかここで出てくるとは、登場の仕方までオシャだな。」
「今回、お前たちの指導を行う特別ゲスト、糸師冴だ。」
俺の実の兄でありライバルでもある糸師冴の姿が今目の前にある。
潔のほうに目を向けると潔も同じ思考をしていたのか俺の方を見ていた。
「…潔。」
冴の話が終わり各自自由時間が与えられた時、少し先で氷織と居る潔を見つけて走った。
すると途中で後ろから腕を掴まれる。
「誰だ…よ、ッッ!! 」
「潔世一に会いにいくのか。昔はあんなにも俺の背中ばっかおってたのに。」
「ほんとになんだよ。離せッ。」
強引に手を引かれ俺は冴に連れられて会場の外へと出される。
そのまま乱暴に壁に投げられると壁と挟むようにして冴が立つ。
「…やめろ。俺は潔に話があるんだ。」
「……黙れ。お前は、俺だけ見てりゃ良いんだよ。」
冴が口を近づける。恐怖に混乱して反射的に目を瞑ってしまった。
「いさ…ぎ。」
寸前で冴の動きは止まった。
その代わりに手を振り上げて俺の頬を思いっきり叩いた。
「黙れッ…」