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6.黒名蘭世は勘がいい
「…なんであいつの名前を呼んだ。」
「離せックソ兄貴。認めてやるよ、俺にとってあいつは特別だ。俺はあいつがッッんッ兄…」
「黙れねぇのか愚図が。」
冴の手がもう一度振り下ろされる。
咄嗟に目を瞑るが時間が止まったのか手は降りてこない。
目をそっと開けると冴の腕は空中で掴まれていた。
手の伸びる方向を見るとそこには黒名がいる。
「…そこまでにしといたほうがいいんじゃない?人殺しなんかサッカーどころじゃない」
「…人殺しなんか人聞きの悪い言い方だな。」
冴は手を払い除けて足を振り上げる。
黒名はすかさず腕をクロスさせて冴の蹴りを止めた。
「…喧嘩に自信があるほうじゃない。今選んでよ。凛。俺に着いてくるか兄を信じるか。」
黒名は赤くなった手の甲を振りながら俺の方を見てくる。
冴は下を向いたまま動かない。
「凛がサッカーを続けるのは多分だけどこの人を見返したいからだろ。ならこんなところで負けてどうするんだよ。立て。」
黒名は手のひらをしゃがみ込む俺に差し伸べた。
迷う気持ちと兄に同情する気持ちがある。
でも黒名の言うことに間違いはなかった。
黙って黒名の手を借りると立ち上がり、手を引かれるようにして会場へと戻った。
「凛ちゃん!潔が探してたよ〜!」
「…潔には警戒したほうがいい。糸師冴のあの行動は忠告だぞ。」
蜂楽に聞こえないような声量で耳元で話す黒名。
「あ、凛ッ!!これからヨガ??」
「…うるせぇ。邪魔すんなよ。」
「俺もやるよ。やっぱ着いて行きたいし。」
「…チッ。」
強く断るべきだろうか。冴が今どこにいるか分からない中、2人きりになるのは危ないかもしれない。
でも潔の目的は違う。俺に本気で近づこうと努力している。そんな期待を裏切るような行為、潔に対してできるはずもなかった。
「条件がある。黒名を呼べ。」
「…へ?…いいけど。」
数分経つと個室のドアが開いて潔と黒名が入ってくる。
黒名は状況を把握して俺が呼んだ意図にも気付いたのか「なるほど。納得、納得」と頷いた。
「んで、黒名が居たら俺もやっていいってこと…?」
「勝手にしろ。」
「俺筋肉痛なんだが…。」
渋々黒名が俺の体勢を真似し始める。
潔も顔を歪めながら足を伸ばしている。
「暑ッ…こんなん毎日、よく、やる、よな…」
「うん、あちぃ。帰りたい。」
「着いてきたのはお前だろ。耐えろ。」
「当たり前だろッ」なんか意地張って体を無理矢理伸ばす潔。
その後ろで黒名が口を開く。
声は出さずに口の動きだけを読み取れば良さそうだ。
(と、う、ち、よ、う、き…盗聴器?)
黒名の口を目を凝らしてよく読む。
(こ、し…腰。)
黒名の言葉の意味を把握した瞬間、すぐに目線を腰に向けた。
そこには薄くて黒い盗聴器があった。
(黒名が声を出さなかったのは潔が居るからじゃなかった…これは多分兄貴の仕業だ。)
「黒名、潔、帰れ。」
「え、今日終わるの早くない?」
「疲れてんだろ。一日中走ってたし…帰ろう潔。ほら。」
「え、あ、うん。じゃあな、凛ッ!」
戸惑いながらも黒名の後ろをついて歩く潔。
いつも帰る時には俺に向かって手を振ってくる。
あの笑顔を奪う為に冴は何でもしてくる。
どんな手でもあいつは使える人間だ。
いい。その話に乗ってやる。
俺も動かないといけない。俺の人生を狂わせたあいつをサッカーだけじゃなくて全てを終わらせてやる。その覚悟はもうできた。
盗聴器らしきものを手で握りつぶす。
騙されたふりをするのも手だったがこれはあいつに対しての宣戦布告。
「あー、壊された。反抗期か…?」
昔は可愛かったのに。
俺の後ろをいっつも着いてき回って。
何をするにも俺がいないと不安そうで、俺を見つけた途端安心したように泣き出して。
今でも変わってないだろ。
潔世一よりも俺の方がお前を知ってる。
要らないんだよ、こんなプロジェクトも。
⚠️これから冴ちゃんヤンデレ化していきます
→ちょいR-18になってきます😥