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救急車のサイレンが鳴り響く、午前二時三十四分。彼は11時から寝付けないまま辺りを見回していた。救急車の行く先ははたして、病人の元か自殺者の元かはたまた殺人の被害者か。物騒な音のせいで、心音だけがこの真っ暗な密室に響いた。違う、そう感じただけで、きっと誰もこの音を聞くことは無い。それくらい小さな音。
今日、誰かが死んだとしても、彼が祈る義理は無いし、悲しみさえも浮かばない。朝のニュースで有名なミュージシャンが死んだと知って、きっと彼にとっては知人の朝飯がパンかご飯かくらいには興味のないものだろう。
ああ、体が沈んでいく。重たい。苦しい。もう明日なんて来なければいいのに。それでも死にたいほど思い悩んじゃいないし、彼より生きずらい人は何万といるだろう。
声が出ない。貴方達が傷つくかもしれないから。体が動かない。自分が傷つくかもしれないから。何も見たくない。ただ幸せに生きていたい。彼はそこまで苦しい生活をしていないから、 多分これ以上を望むと天罰が下るんだろうけど、それでももっと求めている。
何故人は定義を求める。何故人はその人自身を理解しない。何故人は___
そんなこと考えても仕方がない。
彼はおもむろにスマートフォンを取り出し、誰かにメッセージを送った。高校で知り合った、タナコウという男だ。もちろんあだ名である。タナコウとは五年の仲だが、未だに飲みに行ったことは一度もない。
『明日めし行こ』
その後、正確には分からないが、十秒の間もなく返信が来た。
『きょうでしょ笑笑』
『り』
彼は少しだけ声を上げて笑って、それからスマホの電源を切った。電源が着いている時と、部屋の明るさは変わらなかったが。