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夢見るくらいがちょうどいい
好きだ。
絹糸のように柔らかくて、濡鴉のように黒い髪。琥珀をそのまま閉じ込めた瞳。桜の恩恵をたっぷりと受けたような唇。
光に当たるとすぐに消えてしまいそうなくらいに白い肌。なにより誰に対しても清らかなその心。私は全てを好きになった。私は女。あの子も女。でも関係ない。好きという気持ちを性別なんかで抑えられるわけがない。告白したい。この気持ちをあの子に思い切りぶつけたい。その瞳に私を映してほしい。頭の中に私の情報だけが流れてきてほしい。実際には目線をそらしてるかもしれないし早く帰りたいと思っているかもしれない。でも、恋なんて夢見るくらいがちょうどいいと思う。あの子は覚えていないと思うけど小学校の頃、男の子に虐められていた私を庇ってくれた。その頃からあの子を意識してたんだ。そう考えながら公園隣の歩道を歩く。ツツジ。ユリ。アジサイ。スイレン。綺麗に咲き誇ってる。そうだ。ただの告白では味気ないし花でもあげよう。小学校の頃育てたチューリップ。可愛いし花言葉も素敵だ。よし。これにしよう。そう思いながら花屋によってピンクのチューリップを買う。チューリップをしっかり持って家に帰る。次の日。学校に花をこっそり持ってきて告白することにした。気づくと鐘は鳴っていて野球部の大きな足音が響いていた。教室にあの子はまだいる。鞄に教科書を入れていた。今だ。今がいい。そう言ってつま先を扉のレールに入れる。「おーい!」低い声が耳に割り込む。あの子は見たこともないような顔で笑いカツカツと音を立ててかけていく。2人は笑い合う。男のほうがあの子の肩を抱いてあの子の鞄を手に取る。「やっぱ――か――いいね」男が声を掛ける。あの子は照れたように頬を染め、私に一礼する。気にせず男はあの子の肩を抱く。私を軽く一睨みする。廊下を歩いていく。その様子をボーっと眺めていた。違う。あの2人は友達なんだ。仲が良い。それだけだ。――――――――――ううん。あの子と男は付き合ってる。もう分かってる。でも、告白もできないなんて思わなかった。あんなに威嚇されちゃったらね。すごく勘がいいんだな。私は恋をしてた。してるんじゃない。してたんだ。〝夢見るくらいがちょうどいい〟と達観してる感じに言いながら告白できてる場面を夢見てた愚かな娘。それが私だ。階段側を向く。固く握りしめていたチューリップの花びらが1枚落ちる。――やっぱり
好きだなぁ…