──夜の海上、戦艦 「アトラス号」 甲板。
「クソッ……逃げやがったか」
主は肩で息をしながら、逃げ去った葵の方向を睨みつけた。
「お前、大丈夫か?」
低く響く声。
振り返ると、そこにいたのはバルド。全身を分厚い黒鉄の鎧で包み、片手には巨大な戦斧を携える屈強な男。
主をこの船に連れてきた男だ。
「……バルド、あいつを追うぞ」
「いや、今はやめておけ」
バルドは斧を肩に担ぎ、冷静な目で主を見下ろした。
「幻覚の影響が抜けきっていない。今のお前じゃ、また嵌められる」
「……でも……」
主は拳を握りしめる。悔しい。さっきまでの自分はまるで無力だった。
バルドはふっとため息をつき、主の頭をガシッと掴んで乱暴に撫でた。
「焦るな。お前はまだ弱い。だが、お前には力がある」
「……」
「だからこそ、オレがスカウトしたんだ」
バルドは言い切った。
「お前が覚悟を決めるまで、オレが戦ってやる」
──その時だった。
ザシュッ!
何かがバルドの胸を貫いた。
「……なっ……!?」
主が見たのは、血に染まるバルドの鎧。そして、その背後から現れた葵の微笑み。
「うふふ♡ 油断したわねぇ、バルド」
バルドの背中に突き刺さるのは、幻の刃。
「この剣、痛いかしら? それとも甘美な夢でも見えた?」
「……この……クソガキが……」
バルドは膝をつき、血を吐いた。
「ちょっとねぇ、あんたが邪魔だったのよ♡ だって、主ちゃんを連れ去るつもりだったんでしょ?」
「……チッ……」
主は恐怖で身体が動かない。
「やめろ、葵……!」
「やめろ? ふふ、無理よ♡」
葵はくるりと回りながら、バルドの胸に突き刺した幻の刃をさらに捻る。
「ぐっ……!!」
バルドの体が震える。
「大丈夫よ? あなたが死ぬ瞬間に会いたい人の夢を見せてあげる♡」
「……やめろ……! やめてくれ……!」
バルドの瞳が揺れる。
「さあ、お眠りなさい♡」
葵が指を鳴らした瞬間、バルドの表情が安らかになる。
「……母さん……」
バルドは微かに微笑んだ。
「……久しぶりだな……」
そして──
ズドォォォン!!!
巨大なバルドの身体が、戦艦 「アトラス号」 の甲板から転げ落ちる。
──海へ沈む、屈強な戦士。
──消えゆく、主の唯一の味方。
「……嘘だろ……」
主の声は震えていた。
「……バルド……?」
葵はクスクスと笑いながら、手を振る。
「じゃあねぇ♡ 次に会う時は、もっと強くなっててね? じゃないと、つまんないもの♡」
葵の姿が闇に溶けるように消えた。
残されたのは、主と、血の染み込んだ甲板。
夜の海は、静かに波を打っていた。
【コメント】
10話までに全キャラ出す予定だったけどごめんね〜
無理でした(((
コメント
2件
あふ ないすだわんよんはあるらやまやり 葵たん最強説が上がります ご注意ください 離任式やりたくな
今回も最高です!!!学校前に見れて良かった…(帰ってきたらまたイラスト描きます!!((((