「…やはりか、貴様。」
「…っ!」
緊張感が部屋の空間を広く囲む中、2人は向き合って座っている。瑠美が細くさせた目でユーミンを見つめ、ユーミンはあちこちに目を泳がせている。本来ならば、この時間。ユーミンによる授業が行われているのだが、一向に始める気配はない。
「貴様…アホだな?」
「うぅ…そこまで言わなくてもいいじゃん!?い、一応成績は上がった方なんだよ!?」
「教え方が下手な上に、先日カタハッシーに呼び出されたのを見たのだが?」
「え!い、いつのまに!?」
「…ハッタリだったんだがなぁ。」
瑠美がさらに険しい顔になり、ユーミンはカタカタと唇を震わせ始めた。ピリピリと皮膚を焼くような空気が漂い始め、教室内が暗くなった様にすら感じられる。そんな中、瑠美は一つ大きなため息をつき、重い口をゆっくりと開く。
「まったく、この調子では教師に頼んだ方が早いぞ。」
「ダメダメ!うちの学校って昭和人しか居ないから、変な昭和グッズ教えられるよ。」
「ほう…?」
やはり物を教えるというのは、なかなかに困難なようで。ユーミンの授業開始2日目にして、お互いに心が折れかけていた。というか、瑠美が折れていた。それもそのはず。ユーミンの教え方はあまりに酷かった。単語をパパッと並べたと思えば、ヤバいだのエグいだの、説明が意味不明。さらにはユーミンが教えるべき物を知らない場合もあるときた。
「うー。こうなったら最終手段だよ!」
「なんだ?辞書でも持ってくる気か?」
「あ、その手もあんじゃん。」
「…………。」
ユーミンが言う最終手段は正直言って不安要素しかないため、奥の手としてとっておく事となり、結局授業スタイルを変えただけとなった。瑠美は最新の辞書で沢山の物を知識として詰め込み、ユーミンがその物の画像をスマホで見せる。シンプルだが、効率は良かった。スルスルと入力するかのように瑠美は物を覚え、1週間も経つと辞書の内容を3分の1まで覚えた。
「ルルミンの記憶力まじパナいんだが。超能力?」
「んな訳ないであろう。超能力を信じるのは小学生の頃に辞めた。…らしい」
「なんて?」
体の記憶の片隅に残っていた断片的なものを、瑠美は他人事のように話すので、ユーミンは思わず聞き返す。兎にも角にも、2人の授業は進みに進み、月末には、辞書の内容を丸暗記した。
「ぬおー!終わったぁ!」
大きく伸びをし、思い切り開けた口で言う。辞書には、たくさんの付箋や目印のマーカーの跡・メモ書きがビッシリと並んでいた。瑠美も同様に、背中を伸ばして骨を鳴らす。
「やったねルルミン〜疲れたぁ…。」
「ご苦労であったな。これで山ちゃんのプレゼントを準備できる。」
「いんよいんよー♪…で、結局なんにするの?」
「良きものを思いついた。おそらく笑い転げるか、大喜びすることになろうぞ♪」
いつもの悪い顔をするので、ユーミンは目を輝かせた。なに?なに?と瑠美に答えを迫ったのは、言うまでもない。すると、瑠美はまた悪い顔をし、ユーミンの耳元でコソコソと話す。
「ひ・み・つ♡」
と。瑠美はサプライズが好きになっていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!