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松が岬署は、本物のチンピラたちと、チンピラまがいの高校生たちで溢れていた。
その一室の取調室で事のあらましを説明し、迎えに来た保護者にそれぞれが会えたときには、時刻はすでに22時を回っていた。
取調室の前で迎えに来た雅江と抱き合う右京を見て、蜂谷は廊下の壁を滑り落ちるように座り込んだ。
「よう。お疲れ」
その隣に大きな身体が並ぶ。
「危機一髪だったね」
反対側の隣に長い脚が投げ出される。
「くっつくな。暑苦しいよてめえら」
蜂谷はうんざりしてため息をついた。
「お前さ。一人で乗り込むなよ。焼け石に水って言葉を知らないのか?」
諏訪が蜂谷を睨む。
「火に油、ともいうよね」
永月がヘラヘラと笑う。
「うっせえな」
蜂谷は二人を順番に睨んだ。
「でも―――」
諏訪がこちらを見下ろす。
「あいつを助けてくれて、ありがとな……」
「…………」
「あーあ」
永月が振り返る。
「ヒーローも代替わりかー」
「…………」
3人同時に、泣き崩れる雅江の頭を撫でる右京を見上げる。
「――結果的にさ」
永月が口を開く。
「多川ってやつも拉致監禁・暴行容疑で逮捕だしさ。奈良崎ってやつも殺人未遂で逮捕だし。赤い悪魔によって、宮丘の悪は一層されたよね……」
「――それが、よくわかんねぇんだよな」
蜂谷は首を捻った。
「奈良崎が右京の顔を見ても、ピンと来てなかったんだよ。あいつ、本当に赤い悪魔だったのかな?」
諏訪がこちらを見下ろす。
「…………あいつは」
ポツリと言った。
「確かに俺の弟を助けてくれた」
「そりゃ聞いたよ」
蜂谷は諏訪を見上げた。
「その異常な強さから、やられたやつらから、赤い悪魔の噂が流れ出して」
「―――」
「あいつが本格的に宮丘に引っ越して来たらやばいと思って」
「――うん?」
「噂の拡散と攪乱を図ろうと……」
「――ん?」
「俺が赤いウィッグを被って……」
「―――え……!?」
蜂谷が目を見開く。
「諏訪が赤い悪魔?」
永月も口をあんぐりと開ける。
「ついでに、あいつが来る前に目につくヤバい奴らを一掃してやろうと。あはは」
笑いながら諏訪が頭を掻く。
「ーーーーー」
「ーーーーー」
二人は茫然としたまま、一人笑い続ける諏訪から、右京に視線を戻した。
「みんな!じゃあな!ありがと!!」
右京が手を上げる。
「おお!気をつけて!!」
両手をブンブンと振る諏訪の隣で蜂谷と永月は、まだ狐につままれている気分で手を上げた。
雅江が泣きながら頭を下げる。
祖母と孫は2人寄り添うように警察官にならって踵を返すと、松が岬署の廊下を歩いていった。