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久しぶりに長編書くね。誰か見てるといいな。
第一章「笑顔の形、忘れたくせに」
中学2年、春。
4月の風が、廊下のカーテンを揺らす。
暖かくも冷たくもない空気の中で、私は“ちゃんと笑って”教室にいる。
「すごーい、また1位じゃん」
「部活も推薦出るんじゃない?さすがだわー」
声をかけられたら、笑う。
「やば、嬉しい!でも勉強つらいよー」
なんて、言葉を添えておく。
それが正解の返し方。
本音なんて出す意味がない。
だって、誰も“本音の私”なんて求めてないから。
私は「橘 心羽(たちばな・こはね)」、14歳。
名前の響きが可愛いってよく言われる。
実際、中身も“可愛い子”として振る舞っている。
学年順位はずっと一桁。
学級委員も、なぜか毎年やらされる。
バレー部では副キャプテン。
SNSには、「#優等生」「#推し活」みたいなキラキラした日々をのせてる。
だけど、帰り道はいつも独り。
笑顔のスタンプが並んだLINEの通知を消して、私はイヤホンを耳にねじ込んだ。
街の音も、雑音も、現実も、何もかも遮断してしまいたくて。
それでも、脳内にまで入り込んでくる声がある。
──心羽ならできるでしょ?
──あんたが手抜きしたら他の子どうすんの?
──うちの子はほんっと、いい子でさ〜!
誰かに褒められるたびに、私の中の“私じゃないもの”が膨らんでいく。
ほんとの私は、
めんどくさがりで、ぐうたらで、朝も起きたくなくて、
本当は、何かに一生懸命になるのが苦手で、
だけど、それを見せるのが怖いだけ。
家に帰ると、母の声がする。
「おかえり〜。心羽、今日も先生に褒められたって連絡きてたわよ」
……そう。
「さすが、うちの子!よくやってるわね。ほんと助かる〜!」
私の顔を見ずに、スマホを操作しながら、
そうやって“褒めてる風”の言葉を、母は毎日投げてくる。
私は言う。
「うん、ありがとう」
そう言うと、母は満足そうにうなずく。
私の“優等生な返事”が欲しいだけなんだ。
夕飯を終えて部屋に戻ると、ドアを閉める瞬間だけ、心がホッとする。
でも、次の瞬間にはベッドに倒れこんで、ぐるぐると頭の中が回る。
明日も、ちゃんとしなきゃ。
ちゃんと、“優等生”でいなきゃ。
じゃないと、自分の居場所がなくなる気がするから。
……なんで、こんなに苦しいんだろ。
スマホのライトがぼんやりと天井を照らしてる。
その光をぼんやり眺めながら、私は思う。
明日、誰かに言ってみようかな。
「疲れた」って。
でも、ダメだよね。
そう思ってる時点で、もう“弱い子”になってる気がする。
わたしは弱っちゃいけない。
ずっと、ずっと、“強くて、できる子”じゃなきゃいけないんだ。
ぎゅっと抱きしめた膝の奥で、笑い方を忘れた顔が、