足音が近づく。最初は軽やかな足音に思えたが、次第にその音は重く、確実にアレクシスの背後へと迫っていた。アレクシスが酔っ払った様子で顔を上げると、ふと何かが違うと感じる。
その違和感が、足音の持つ微かな緊張感に気づかせた。彼の目線が、わずかにその方向に向けられる。
「お前か。」
声は低く、まるで反応するかのように響いた。アレクシスは、今まで自分に気を使わずに話していたのとは打って変わって、あからさまに警戒の色を見せる。
部屋の扉を開けたのは、他でもない異魚天だった。
「久しぶりだな、酔っ払い。」
異魚天の声は冷徹だが、その目には何かを見透かすような鋭さがあった。彼は一歩一歩進むたびに、その足音が響き、アレクシスの意識がそれに引き寄せられる。
「まさか、こんな夜に出くわすとはな。」
アレクシスは酒のグラスを持つ手を止め、視線に捉えられる。その表情には、余裕がなく、次第に普段の顔が浮かび上がる。
「お前、どうしてここに?」
異魚天は答えず、歩み寄る。彼の目がじっとアレクシスを見据える。その視線に、アレクシスは何も言えなくなった。
「あんたが王国を操るつもりなら、その前にひとつだけ確認しておきたいことがある。」
異魚天の声は低く、鋭い。
「あんたがやってきたことは、決して許さねえぞ。」
アレクシスの顔に、微かに緊張の色が走る。それでも、彼は冷ややかな笑みを浮かべる。
「許されない? そんなことを言うのは、もはや何も知らない者だけだ。」
異魚天は目を鋭く細め、立ち止まった。
「だからこそ、俺が来た。」
その言葉が空気を震わせた。その瞬間、部屋の中の温度が一変した。アレクシスと異魚天、二人の間に張り詰めた静寂が広がり、時間が一瞬止まったかのように感じられた。
異魚天は刀を抜くことはない。だが、その目からは、すでに戦いの気配が漂っていた。
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(ㆁωㆁ*)