出会いは突然。
高校二年生にして、ボーイズラブオタクであるこの俺──中松優也は、学校帰り、いつものように、本屋に立ち尽くしていた。
「お、今日は珍しく、BLコーナーが空いているな」
最近では、BLコーナーに、腐女子の方々が沢山いて、こんな地味な見た目(少し短い前髪の黒髪マッシュヘアーに加えて、高校の目立ちにくい制服)の奴には、とても近付きがたい環境になっている。そのせいか、買い逃した新刊は山ほどあり、毎日のように買える瞬間を伺っている現状。しかし、今日だけは、いたちごっこをする心配などいらない。
何故なら、今日は空いているから────。
ようやく巡り会えたこのチャンス。絶対に逃すわけにはいかないと、優也は疾風のように、BLコーナーに飛び込んでいく。そして、コーナーに入ってすぐさま、買い逃した新刊を発見し、小声で歓喜した。
「おぉー! 今まで買えなかった愛しの新刊ちゃん達がこんなにぃぃ!! 」
あまりの愛おしさに周りが見えていない優也は、早速、その新刊に手を伸ばす。
その瞬間のこと──。
「あっ」
何か固めな手にぶつかり、耳には中性的で、萌え系のカワボが。優也が視線を向けると、同時に、相手もこちらに視線を移した。そして、目を見つめ合わせること、約一分。
遅れて謝罪の言葉が飛んでくる。
「ごご、ごめんなひゃい! 」
「──ん……?」
その女──というより、女装をした男は、焦っているのか、頭を下げると同時にウィッグを落とした。その姿の変わり様は異常。
先程まで、黒髪ショートの超美少女だったのに、今では黒髪を靡かせ、整った顔立ちをした超超超好青年に変身しているではないか。正直、とてもタイプ。そう思い、優也が独りでに頷いていると、その男は反抗をするような勢いで現実を否定し始める。
「ちちちちち、違うんです! こここ、これは普段からやってるとか、そういうんじゃなくて、ぇええーっと! 」
「あ、そう! コスプレ! コスプレをしているんですよ! 」
必死なその姿。周りの人達は蔑むような目で見つめ、店員からは舌打ちが。流石にこの状況はまずいだろうということで、一旦二人で外に出ることに。
「ちょっと君、こっち来ようか……」
「んぇ? ど、どうしてですか……!? ま、まさかゆうか」
「良いから──!」
疑問ばかり投げ掛ける青年。このままでは話が進まないと思い、手を引き、無理矢理、外へ連れて行く。
「ちょ!? い、痛いです! は、離して! 」
可哀想にとは思うが、心を鬼にし、無言のまま、先程のウィッグを持った好青年を外に連れ出した。ウィッグは、いつ拾ったのかは分からない。
「ちょっと、あなたさっきから何なんですか!? じょ、女装するのが、そんなに変なんですか!? 」
強めな言葉。事情を説明していなかった自分も悪いが、あそこは静かにするべき場所。それを伝えたかっただけなのだ。
「別に、変じゃないけどさ。周りのお客さん、引いてたし」
「それに、本屋さんとかそういう場所では静かにするべきだよ?」
優也が事情を説明すると、自分の失態に気付いたのか、青年は表情を暗くして、謝罪の言葉を発する。
「……そう、ですね、ごめんなさい。何も見えてない僕が悪かったです。やっぱり、こんなことで人に迷惑を掛けるくらいなら、女装なんてやめた方が……」
「──やめなくて良い」
今にも泣きそうな不意の発言。優也は間髪入れずにそれを否定した。
「え……」
青年の弱々しい声。その声に、優しく言葉を掛けようと、優也は下手くそな笑みを作る。
「別に、やめる必要はないと思う」
「だって、自分が好きでやっているんだろう? 一回やらかしたくらいで諦めるなんて、勿体ないと思わない? 」
何の根拠もないこの言葉でも、励ましになってくれていると良いのだが。優也は、試しに青年の顔色を伺ってみることに。すると、目を麗せ、頬を赤らめながら、こちらを見つめてきていることに気が付いた。
「? だ、大丈夫? 」
その後、返答が全く返ってこず、心配になり声を掛けてみると、小声で青年が喋っていた。
「──ます」
「え?」
上手く聞き取れなかったので、もう一回聞き返す。何と言っているのだろうか。
「──思います、本当に」
小さい声での返答。相変わらずの声の可愛さに胸がザワつく。
それにしても、様子が変だ。この青年。
何かに見取れているように黙り込んで、うんともすんとも言わない。だけれども、優也の顔ばかりをじっくりと見つめてくる。これ以上考えるのは何か、ラインを超えてしまいそうな気がしたので、優也は用事を思い出したことにして、その場を立ち去ることに。
「あ、ごめん。このあと、予定入ってて……」
空を見れば、夕焼け雲がわんさか。それに、新刊もまだ買えていないし、家にも帰らねばならない。正直、やりたいことが多すぎて、いても立ってもいられない。
「それじゃあ、もう行くね」
「──待って」
優也がその場を去ろうとしたその時、青年に服の裾を掴まれ、足止めされる。
「ど、どうしたの──? 」
優也の問いかけに青年は一回の頷き。頬だけでなく、顔全体が真っ赤になっていて、完熟トマトのようだった。
「お、お兄さん……」
「な、なに……? 」
続けて、一言。優也が困惑していると、青年が驚愕の一言をぶつける。
「僕と、付き合ってほしいです── 」
いきなりの告白。
優也は現状、何が起こっているのか理解できない。というか、何故告白なのか。
「え?」という間抜けな声を漏らしながら必死に考えた。
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