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猿飛佐助とイズガを求めてスキーズブラズニルの艦内を駆ける重成の鼓膜に異様な衝撃音が鳴り響いた。
超絶的な腕力で振るわれる超重量の金属武具同士がぶつかる音とそこから生じる衝撃波が空気を切り裂く音である。
(また山の巨人族同士が争っている?この状況で・・・・?)
最悪の状況が出現していることを重成は覚悟した。
「やめろ、爺様、父様!やめてくれ!」
巨人の若者の絞り出されるような悲壮な声が重成の足を止めた。
「これは・・・・」
重成は想像だにしていなかった異常な事態に思考が働かず、その四肢も硬直した。
イズガは墜落の時負った傷と祖父と父が振るう武器で切り裂かれ、その若々しく雄大な肉体は血に染まっている。
そしてその祖父である長と父であるグラールは完全に正気を失った状態で闇雲にその武器を振るい、実の孫であり息子である者の生命を刈り取ろうとしている。
指輪の魔力で正気を失っていたはずのイズガが理性を取り戻して悲憤の表情を浮かべながら防戦一方の状態で、誰よりも理性的だったはずの長、グラール親子が狂気に支配されて殺戮の刃を振るっている。
「どうしてだ、一体何故・・・・」
「おい、そこのお前、爺様と父様を止めてくれ!」
イズガが必死の形相で叫ぶ。その声に打たれて硬直していた思考と筋肉が動き出した重成は三人の山の巨人の元に走った。
だが、空気を切り裂き飛来する武器の気配を感じ、重成は後方に飛びつつ剣を振るわねばならなかった。
「今まさに巨人共の滑稽劇が盛り上がっているところだ。貴殿は観客なのだから、特等席のそこで黙って見ておるがよい」
スキーズブラズニルの艦内の廊下に影のように佇みながら猿飛佐助は言った。
「猿飛・・・・!これは貴様の仕業か・・・・」
「いかにも。先程ブリュンヒルデにかけた術は愛欲貪染の術と申してな、瞬間催眠をかけてその者の深層意識から最も愛する者を呼び起こし、魅了する術だが、今さっき巨人共にかけたのはそれを反転した術よ。愛する身内の者を最も憎悪する敵だと錯覚させるのだ」
佐助の重瞳が底知れない悪意によって、妖しく煌めく。
「その若造は指輪の呪力による支配から脱していないせいで、我が術にかからなかったようだが、それがかえって良かったな。祖父と父からは侵略者ムスペルと錯覚され、己自身は相手が愛する肉親だと正しく認識しておる。見ろ、あの必死な顔!並外れてでかい図体の巨人の若造が涙を浮かべて死にもの狂いで肉親からの攻撃をしのいでいる。お互い生きて日の本にいる時はこんな見ごたえのある愉快な見世物が見れるとは、想像も出来なかったなあ、木村殿よ!」
「貴様・・・・!」
憤激で我を忘れ猿飛佐助に斬りかかろうとした重成だったが、すぐに鳴り響いた肉を切り裂く不快な音が聞こえてその動きを止めた。
「ああ・・・・」
悲痛なうめき声がイズガの喉から洩れた。彼の持つ戦斧の刃が長とグラールの頸部を切り裂いたのである。長とグラールは鮮血の噴水を中空に描きながら、ゆっくりと沈んでいった。
絶命する寸前、猿飛の術が解けて両目に理性の光を取り戻し何故と問うような表情でイズガを見た。
だがそれはまさに一瞬に過ぎず、すぐその両目から光が失われて虚無の闇となった。
「違う、違うんだ・・・・!俺はそんなつもりは無かった。爺様と父様をこの手で殺すぐらいなら、いっそ殺される方がましだと覚悟を決めたのに・・・・!体が勝手に動いてしまった・・・・」
イズガは悲憤の涙を滂沱と流しながら、己が身に着けてしまった黄玉の指輪を睨み付けた。
「こいつのせいだ!この指輪が俺の体を勝手に動かして、爺様と父様を殺したんだ・・・・。こんなもの!」
イズガは顔貌を朱に染め上げながら渾身の力でニーベルングの指輪を己の指から引き抜こうと踏ん張る。
だが指輪は微動だにしない。そこでイズガは指輪を破壊しようと戦斧の刃を幾度も叩きつける。
遂には戦斧の刃が欠け、その手が血に染まったが、指輪には傷一つつかないようである。
「な、何てことだ・・・・。俺はこの指輪から逃れることは出来ないのか・・・・」
指輪によって失った理性を取り戻したように見えるイズガの若々しい理知的な顔貌が絶望に覆われた。
「俺がこの指輪をはめたせいで山の巨人族同士を争わせ、さらにはムスペル共をこの地に招いてしまった。そして遂にはこの手で爺様と父様を・・・・。俺は到底許されるはずのない罪を犯してしまった。そしてこれからも罪を犯すことになる・・・・。そんなことにはもう耐えられない。ならば、もういっそ・・・・」
イズガは戦斧の刃を己の首筋に当てた。巨人の若者が罪の意識と絶望しかない未来から逃れる為に何をしようとしているのか、一目瞭然だった。
「止せ、イズガ殿!」
重成はイズガを止めようと猿飛佐助の存在を無視して走る。だが間に合わず、巨人の若者は一気に己の首を刎ねた。
首の皮一枚残した状態となってイズガは地響きを立てながら地に沈んだ。
「イズガ殿・・・・」
「はっはっは、巨人の若造めが、自分で首を刎ねおったか。蛮族の分際で、随分と粋な真似をするではないか」
失意と無力に打ちのめされる重成とはまさに正反対の態度で猿飛佐助が弾けるように哄笑した。
「それにしても巨人共は随分と操りやすいな。じじいと親父の方は俺の術にあっさりとかかったし、術が効かなかった若造はあっさりと指輪に操られて己の手で祖父と親父を殺しおった。山の巨人は体の方は恐ろしい程デカく立派だが、比べて脳みその方は小さいのかもなあ。そうは思わんか、木村殿」
「・・・・」
「そうだ、今からこいつらの頭蓋を叩き割って脳みその大きさを確認して見よう。俺は取り合えずジジイの方をやるから、木村殿、貴殿は若造の方を確認してくれよ」
「・・・・!」
「なあなあ、貴殿だって知りたいだろう?巨人の脳みそとはどんな具合なのか。はたして俺たちよりでかいのか、小さいのか。お互い人間ではなくなったが、好奇心と探求心は忘れてはいかんぞ」
そう言って猿飛佐助はのけぞり、腹を抱えて笑い転げた。