ウィリアム・カーネギーの黒馬が轟音と共にスタートを切る。
その瞬間、船の甲板が完全に競馬場へと変貌し、砂煙が舞い上がった。
葵は静かに笑った。
「へぇ……私の幻を上書きするなんて。面白いじゃない?」
詩音は舌打ちする。
「クソが……馬に乗って逃げるとか、コイツ本気で”レース”する気かよ。」
ウィリアムは笑いながら馬を疾走させる。
「競馬は戦争だ。スピードこそが勝者の証。」
主は絵筆を構え、一歩前に出た。
「なら、”レース”じゃなく”狩り”にするだけだ。」
彼が筆を振り上げると、衝撃波が地面を裂き、砂塵が舞い上がる。
だが――
「遅いねぇ、嬢ちゃん」
ウィリアムは黒馬の手綱を軽く引いた。
その瞬間、馬の体が空間を歪ませるようにブレ、一瞬で数十メートル先にワープした。
主が目を見開く。
「……え? 今の、なに……?」
ウィリアムは余裕の笑みを浮かべながら振り返る。
「俺の”ナイトメア・ダービー”はただのレースじゃない。」
「”悪夢”に支配された競走馬は、理を超える。」
詩音が鼻で笑う。
「ふぅん? だったら……」
彼女は葵のポケットから小瓶を取り出した。
「こっちも”理”なんてブッ飛ばしてやるよ。」
一気に薬を流し込み、詩音の瞳がギラつく。
「よーし、じゃあ”レース”してやろうぜ。」
次の瞬間、彼女の体が残像を引きながら駆け出した。
まるで人間離れした速度で。
ウィリアムが目を細める。
「面白い……なら、君たちも参加してみるか?」
彼が指を鳴らすと、船の至る所に”競走馬”の幻影が現れた。
その全てが黒馬の化け物。
「君たちに馬をくれてやろう。ただし――”悪夢”を乗りこなせるなら、ね?」
三つ巴のナイトメア・ダービーが、ここに始まる。
コメント
2件
新しい人…強そう(続き楽しみです!(ちなこれかなめんめのサブ垢です)