彼には理解ができなかった。
いや、できるはずがなかった。
別世界のことを ある程度
把握していたとしても
理解なんて、できるはずがない。
『 …..なんで昔の俺が 。 』
それしか言えなかった。
彼にとって、昔の自分がいることは
とても奇妙なことであった。
そのせいなのか、
彼の表情は険しいものとなっていた。
当たり前であろう。昔の自分がいきなり
目の前に現れたら
うろたえるのが普通の反応だ。
『 さあな、オイラにもわからないぜ 』
一方で 彼が言う 【 昔の自分 】は
呑気な顔でそう述べている。
しかし、決してこの状況を深刻に思っていないわけでもなさそうだ。
少しだけ冷や汗をかいている。
『 ….なぁ? 、
アンタ名前なんて言うんだ?
オイラはサンズだけど 』
少しの沈黙が続いた後、もう一方…
いや、【 original 】の方が少し気まずそうに
口を開いた。
彼も少し気まずそうに 【 original 】を
見た後にこう言った 。
『 ……. そうか 。
俺も同じ【 サンズ 】だ…
だが、アンタとは違う道を進んできた 。 』
独り言を呟くような声だった。
冷たく、暗く、重い声 。
今では この薄気味悪い静けさが
ありがたく感じる。
この静けさがなければ、彼の声は
到底聞こえなかっただろうから。
『 なるほどな、オイラもアンタも
同じ 【 サンズ 】 なのか 。
なんとなくは理解したぜ 』
彼の発言を聞き終わると 【 original 】は、
苦笑しながら上記を口にした後、
彼の姿を見つめる。
普段の自分とほとんど変わらない服装だった。
パーカーに塵がついていることを除いては。
視線を地面に下ろした後、【 original 】は
溜息を ついた。
『 ….アンタも色々苦労してるんだな 。 』
何も見なかったかのように
彼と関わることもできたが、
どうしてもできなかったらしい。
何故、そんなことになったのか事情は
訊かなかった。ただ、苦労したことだけは
彼の表情を見るだけでもわかった。
『 ….まあな。 アンタも色々と大変だろ? 』
彼は、【 original 】の目をじっと
見つめた 。話し方は、何か探りを
いれるかのようなものだった。
〈 もしかしたら、
コイツがクソガキの居場所を
知っているかもしれない 〉
…と、思ったのだろう。
彼にとって、【 昔の自分 】と話すのは
ただ情報を集めるため。それだけである。
『 heh 、そうだな。…ところで、
アンタ 別の呼び名とかってないのか?
ほら、同じ 【 サンズ 】だからさ。
何かと呼びにくいだろ ? 』
【 original 】は、
返答に悩んだ。故に話題を逸らした。
此処で返答を間違えれば 後々 面倒なことに
なるかもしれない。そう感じ取ったのだろう。
〈 ….思っていた返答とは違うが、
まぁ、いい 。 〉
『 俺の呼び名か 。
…たしか、マーダーだな 。 』
そう述べた途端、風が吹き
彼のフードが少しだけめくれ
赤と青が混じった目が少しだけ見えた。