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「――――う」
「……………」
「――ちょう」
「……………」
「会長ってば!!」
結城の声に我に返った。
「……何だよ!」
「なに切れてんの!マイクの撤去、終わりましたよって!」
言いながら生徒会用の予備マイクが入った籠を両手で持ち、こちらを睨んでいる。
大反響のうちに決起会は終わり、右京は他の生徒会メンバーと一緒に、会場の後片付けをしていた。
「ぼーっとしちゃって!決起会であんなことするからですよ」
「――――!」
たちまち顔が熱くなる。
「あんなことって何だよ!?」
「慣れてないことするから―――」
「―――な、誰が慣れてないって言ったよ!俺だってそういう経験の1つや2つくらい…!」
言うと、結城はきょとんと右京を見つめた。
「――え、マジ?会長、経験あんの?」
「な、ないと思うか?この年でっ!」
ふんぞり返ると結城は首を傾げながら言った。
「いや、年齢とかは関係ないと思うけど。ホントにあんの?柔道と野球と、サッカーとチアの経験」
「…………は?」
「――え?」
二人は見つめ合った。
「ないでしょ、チアはさすがに」
固まった二人の間を、モップをかけながら清野が通過する。
「―――もしかして、会長、あれじゃないですか?永月からキスされて、まだポーってなってんじゃないですか?」
馬鹿にするように振り返りながら、柔道部の畳の跡がついた床を拭いていく。
「そうなの?右京君、かわいいとこあるね!」
加恵が笑いながら延長コードを丸める。
「ば、馬鹿言うんじゃないよ、あんなおふざけのキスなんか…!」
慌てて言うと、
「まあわからんでもないけどなー」
結城が笑う。
「だってあの整った顔に、小麦色の肌、筋肉はついてるのにしなやかな体、さわやかな笑顔、輝く白い歯。男だってちょっとドキドキするもんね」
―――傍からみたら、あいつはそういう感じなのか…?
右京は眉間に皺を寄せた。
「おまけに気さくで男女ともに優しい。部長としての統率力もあり、教師からの信頼も厚いらしいです」
言いながら清野がただ突っ立っていて、後片付けも掃除もろくにしなかった会長にモップを押し付ける。
「―――それって」
右京は大まじめな顔で、3人の顔を見つめた。
「まるで、俺みたいじゃないか…」
一瞬フリーズした3人はそそくさと自分の荷物を持つと、
「さ。ホームルーム始まるぜ」
「急ぎましょう」
「あ、それ私が後から生徒会室に持ってくからいいよ、預けて」
「かたじけないっ!」
わざとらしく会話をしながら出入口に向けて歩き出した。
―――なるほど、ね。
容姿端麗。
成績優秀。
運動神経も良くサッカーは国体レベル。
男女ともに優しく気さくで、
統率力があって、
教師からの信頼も厚い。
―――そりゃ、モテるわけだ。
右京は受け取ったモップを滑らせながら用具室に向かった。
「―――右京」
振り返ると、そこには諏訪が立っていた。
「あんまり無理すんなよ」
諏訪は呆れながら言う。
「俺がいつ無理をした…!」
言い返すと諏訪はまだセーラー服を着ている右京の胸に触れた。
「―――?!」
「はあ」
ため息をつきながらペタペタと触っている。
「………お前、まさか、そういう趣味が……?」
恐る恐る顔を上げると、諏訪は心底うんざりしたようにカクンと首を項垂れた。
「……怪我、してねえか?」
「怪我―――?」
右京は自分の身体を見下ろした。
「してないと思うけど…」
「ちゃんと点検しとけよ、後ででいいから」
諏訪はまたため息をつくと、自分も出入り口に向かって歩き出した。
「そうだ。その制服、姉貴のだからちゃんとクリーニングして返せよ。今は夏服着てるからいいけど、早めにな」
「わかったよ。サンキュ」
言いながら諏訪の後ろ姿を見送ると、右京はモップを持ち直し、用具倉庫へ走った。