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用具倉庫は細長い換気窓はあるものの、なんだか薄暗かった。
マットレスの酸っぱい匂いがする。
脇にある大きめの掃除用具入れを開け、モップをかけると、右京は小さく息を吐いた。
――永月に、キスされた。
その事実が今さらながら自分の心臓を締め付ける。
――あのキスは何だったのだろう。
“つい”とはどういう意味で言ったのだろう。
「ーーーーー」
つい勢い余って?
つい緊張して?
つい―――。
いつも女にしてるようにしてしまって―――?
「………永月って彼女いんのかな…」
思わず呟く。
自分が転校してからの約半年間、浮いた噂は聞いたことがなかったし、特定の女子と一緒にいるのも見たことがなかった。
しかし、あり得ない話ではない。
少なくとも、何の経験もない童貞―――ではない気がする。
あの手が――。
自分の腰を引き寄せたあの手が、誰かを抱き寄せたことがあるのだろうか。
自分の頬に添えられたあの手が、誰かの肌を撫でたことがあるのだろうか。
「―――無事、自爆」
右京は項垂れながら掃除用具入れを閉めた。
と――。
パチパチパチパチパチパチ。
やけに響く拍手が聞こえてきた。
慌てて振り返るとそこには、換気窓から射す日差しに、赤い髪の毛を反射させた蜂谷が立っていた。
「コングラジュエーション、会長さん」
蜂谷は馬鹿にするように拍手を続けた。
「congratulations(コングラッチュレーションズ)だ、馬鹿!もっと勉強しろ!」
右京が睨むが、蜂谷は動じずに笑った。
「練習の甲斐があったね。キス、うまくできた?」
距離を詰めてこちらを見下ろす。
「アホか。キスくらい、もともと上手にできるんだよ!」
数日前までキスに上手い下手の概念がなかったくせに、得意気に言う。
「ほら、ホームルーム、始まるぞ!さっさと戻れよ」
「えー?」
蜂谷は笑いながらセーラー服の襟を強めに引っ張った。
「あ……馬鹿!これ、諏訪の姉ちゃ……んンッ」
唇が押し付けられる。
「………ッ?」
ここ数日、毎日されているせいか、その変化が嫌でもわかる。
いつもより、厚くて、熱い。
「―――?」
違和感を覚えて瞳を開ける。
「なんかお前、唇、腫れてんぞ?」
口を塞がれたまま無理やり言うと、蜂谷はふっと笑いながら唇を外した。
「さっきちょっと、噛んじゃって」
「……ぷっ」
今度は右京が吹き出した。
「唇噛んだって!ガキかよ…!」
「――っ!」
笑ったところでぐいと引き寄せられた。
「ッ!んだよ……?」
「会長さん。おめでとうございます。キスはコンプリートです」
耳元で言われると、勝手に体に力が入る。
「次のステップに進みます?」
蜂谷が囁くように言う。
「――なんだよ、次のステップって」
身体を引いて蜂谷を睨もうとするが、その身体はぐいと引き寄せられてしまった。
「あ……!おい……!」
抱きかかえ、右京の身体を固定した蜂谷の両手が、後ろ腿のセーラー服のひだを手繰り寄せる。
「はは。スカート似合うね、会長さん」
言いながらまくり上げると、後ろ腿を直に触りだした。
「やめろって…!」
「なに。足触ってるだけでしょ?」
蜂谷が笑う。
「それとも――感じちゃうのかな?」
言いながらセーラー服の上衣をたくし上げる。
「あれ。中に下着つけてねぇの?」
すぐに触れた肌の感触に蜂谷が覗き込む。
「柔道着から着替えるのに、時間なくて……」
腹を滑る刺激に集中しているのか、問いに素直に答えた右京が息を乱す。
ゆっくり手を差し入れると、後ろ腿にビクンと力が入った。
「次のステップって―――」
白い肌にふさわしく、色素の薄い唇が、不安げに動く。
「………具体的に何すんの……?」
◇◇◇◇◇
―――正直言って意外だった。
余興の中でとはいえ、永月という本命にキスされたことで、右京は正気を取り戻し、てっきり蜂谷との行為に疑問をもって拒否するかと思っていたのに。
どうやら彼は、“次のステップ”に進む気でいるらしい。
「いいの?続きしても……」
耳元で囁くと、身体がまたビクンと跳ねた。
「……馬鹿らしいと思うかもしれないし、俺自身が馬鹿らしいと思ってんだけどさ……」
右京は自嘲的に笑った。
「なんか、“練習”がんばったから、“本番”があったのかなって―――」
「……………」
――そうか。
永月と次のステップに進むために、
踏み台に使おうって言うのか。
この、俺を―――。
蜂谷は内心ほくそ笑んだ。
――いいね。そう来なくちゃ。
そういう高みにいるお前だからこそ―――。
引きずり落してやりたくなるんだ。
蜂谷は腹を撫でていた手で、制服を掴むと、それを一気に鎖骨までたくし上げた。
「はは。綺麗な色…」
自分以外の男の胸をこんなに凝視したことなんかなかった。
でも右京のそれは、白い肌にふさわしく色素が薄くて、それはそれは綺麗な桜色で、まるで幼子に悪戯をしているような背徳的な興奮があった。
突起を掬い取るように指で撫でると、ふらついた右京が、閉めたばかりの用具入れに背中を付けた。
後ろ腿を触っていた手を引き抜くと、用具入れにその華奢な身体を押し付けるように距離を詰めながら、両手の人差し指で、両の突起をさらに弄る。
円を描くように刺激すると、顔を背けた右京の唇から、息が漏れた。
「……気持ちいい?」
弄りながら身元で聞くと、右京は両手で蜂谷の腕を頼りなく掴みつつ、言った。
「気持ちいい……わけねぇだろ。女じゃあ、あるまいし……!」
どうやら自分の声に色気が滲んでいることに自覚がないらしい。
「―――へえ。そう」
蜂谷は言いながら両の突起を親指と曲げた人差し指で挟んだ。
「んん…ッ」
擦らずに挟んだままこねるようにクリクリと刺激すると、突起はたちまち痛そうなほど硬度を上げた。
「……アあ…!」
脚の力が抜けてしまったのか、その場に座り込んでしまった右京に、寸分の遅れもなく蜂谷も膝をつく。
逃げ場がなくなり倒れる右京を押し倒すと、蜂谷はその突起に唇を這わせた。
「―――お、い……!」
さすがに右京が蜂谷の顔を両手で突っぱる。
「―――イヤ?」
聞くと、
「………汗、かいてるから……!」
右京の指の隙間から、真っ赤に染まった彼の顔が見える。
―――どこが狂犬だ。こいつ……。
湧き上がる笑いを何とか飲み込むと、蜂谷は優しくその手を取り、左右に分けた。
解放した途端、その指はたくし上げたセーラー服を握る。
どうやらこの行為もちゃんと耐えるらしい右京に、蜂谷は微笑みながら、顔を寄せた。
舌で嘗め取るように、硬くなった突起を刺激する。
「んぐ」
声を我慢しようとしているのか、無理やり閉じた口のおかげで、鼻から変な声が漏れる。
構わずに唾液で十分に湿らせた舌を左右に往復させると、右京は腕を自分の顔に被せ、口を塞いだ。
だんだん舌の動きを早くしていくと、それに伴い自分が跨いでいる腰が動く。
ちらりと下半身を確認すると、スカートがめくれ上がり、中のボクサーパンツが見えていた。
「はは。えっろ……」
笑いながら突起に視線を戻すと、全体を口で包み、一気に吸い上げた。
「あああッ!!」
熱い息を含んだ声が漏れる。
細い腰が浮き、少しでも吸引による刺激を和らげようと仰け反る。
しかし――。
もっと、強く吸い込む。
その突起が内出血するくらい。
見る人が見れば、誰かに愛されたのだとぴんとくるくらい、
酷く、吸う。
「ああ……!千切れるって…!」
右京の手が蜂谷の肩に触れる。
――いっそのこと千切ってやりたい。
蜂谷は口の中で腫れてきたそれに、歯を立てた。
◆◆◆◆◆
「―――ったく…!」
右京はセーラー服の埃を払いながら、倒れている蜂谷を見下ろした。
「加減をしろよ、加減を…!」
言いながらため息をついている。
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
蜂谷は右京を見つめながら笑った。
「あんたのその華奢な体のどこからそんなパワーが出てくるんですか?今世紀最大のミステリーなんですけど」
言うと、
「今世紀は始まったばかりだ。こんなところで最大を使うなよ」
右京は腕時計を見下ろした。
「っと、やべ!ホームルームどころか1限が始まっちまう…!」
言いながら再度こちらを振り返る。
「お前も授業さぼらないで出ろよ!あとでちゃんと確認しに行くからな…!」
言いながらこちらにビシッと人差し指を向ける。
「それはいいけど、会長?」
蹴られた痛みが少しだけ引いた腹を撫でながら蜂谷は頭を上げた。
「その格好で授業受けるの?」
「……………」
右京は自分のセーラー服を見下ろし、顔をゆがめると、舞台脇の控室に向けて全速力で駆けて行った。
自分も起き上がろうとして腹部に鋭い痛みが走り、蜂谷はまた用具室の綺麗とは言い難い床の上に突っ伏した。
控室から自分の制服を持ってきたらしい右京の走り去っていく足音が聞こえ、やがてそれは、チャイムの音に吸い込まれていった。
―――もし。
もし、もっと時間があったら。
もし、もっと優しく丁寧に愛撫を重ねていたら…。
右京はどこまで、自分の侵入を、許したのだろうか……。