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目の前にある一切れのショートケーキ、ケーキに立てられた一本の赤い蝋燭の火を吹き消す。
「懐かしいな…」
静かな空間が落ち着かなく呟く。
「何が? 」
数少ない誕生日を祝ってくれる友達の1人、ラブかが聞く。ラブかは幼馴染だ。
「孤児院暮らしの時の、あの不味い手作りケーキを思い出したんだよ」
昔暮らしていた孤児院では、誕生日の子にケーキを作ってくれた。だが、その手作りケーキが信じられないほど不味いのだ。
クリームがどろどろで、砂糖が少ない。苺の数が少なく、スポンジも最悪。この世で3番目に嫌いな食べ物があのケーキだ。1番と2番は知らない。
「あー、懐かしいな。俺直接いらないって言いに行ったら殴られたよ」
「え?馬鹿じゃないの…」
孤児院には、1人すごく厳しい女性がいた(今はきっと老けていて誰か分からないだろう)。
俺はその人に目をつけられたくなかったので、目立たないようにしていたのだが、ラブかは問題児だったのでよく怒られていたのを覚えている。怒鳴り声はよく響いていた。
普段から厳しく、礼儀には特にうるさかった。そんな人に「いらない」と伝えるラブかの気の強さに引いてしまう。
「あの時は馬鹿だった、今のお前よりもな」
「俺誕生日なのに酷くない?」
ラブかが早く食べろとケーキを指差す。ラブかは甘いのが苦手なので、自分用のケーキを買っていない。
「一口あげようか」
フォークで一口分取り、ラブかの前に差し出す。1人で食べるケーキよりも2人で食べた方が美味しいだろう。
「……一口だけな」
「ちょろいね」
「うっせ」
今年も誕生日を祝ってもらえて、俺は幸せだ。