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「そ、そう……ですか」
今の方が好みだなんて、面と向かって言われると何だか照れてしまう。
「けどさ、和葉ちゃんの元カレ、よっぽど別れたこと、後悔してるんだろうね」
「え?」
「だって後悔してなきゃ、あんな風に追いかけては来ないでしょ。和葉ちゃん一人で居たならまだしも、連れがいるのにさ」
確かに、楠木さんの言う通りなのかもしれない。
けど、
別れる原因を作ったのも、
それを受け入れたのも、
全て大和だ。
さっき言ってたことだって、
あんなの絶対、本心じゃないに決まってる。
今はきっと、丁度いい女の子が傍に居ないんだ。
そこへ私が現れて男の人と一緒だったから、
悔しくて、あんなことを言ってきただけに決まってる。
大和は昔から調子が良いんだ。
私のことだって、
ちょっと良いこと言えばまた付き合えるとか思ってるに決まってる。
もう絶対に、大和になんか落ちたりしないんだから。
「違いますよ、あの人は昔からああなんです。一途そうなところを見せてるけど、ちょっと言い寄られたりするとすぐにフラフラ。良い顔しいだから調子良いことばっかりだし。さっきのだって、久しぶりに会った元カノの私が男の人と一緒だったから、悔しかっただけですよ」
まるで自分に言い聞かせるように大和を下げる言葉を口にしていくと、
「ふーん、そうなんだ? っていうか、もしかして別れた原因って、彼の浮気……とか?」
話を聞いた楠木さんが私と大和の別れの原因を聞いてくる。
「はい、そうなんです。浮気されたんです。何度も。されるたび調子良いことばかり言ってきて、それを信用してた私も馬鹿なんですけど、何度もそういうことをされたので、別れてやりました」
笑いごとではないけど、もう今となっては過去のことだと自虐気味に答えると、
「和葉ちゃんみたいな魅力的な子がいるのに浮気なんて、彼の思考は理解出来ないなぁ、ホントに」
楠木さんはサラリとそんなことを言ってきたのだ。
「……私なんて、そんな……」
「そういう謙虚なところもすごく良いと思うな」
「……ありがとう、ございます」
そんな風に言われるとは思わなかったから、どんな反応をすればいいのかちょっと困るけど、悪い気はしない。
それから別の店に入って飲み直した私たち。
さっきの出来事もあってか、初めの頃よりも会話が弾む。
気付けば時間もだいぶ過ぎていて、閉店時間になったのでお店を後に。
「あの、本当に良いんですか? 一軒目も出していただいたのに……」
「良いんだよ。誘ったのは俺だし」
「……すみません、ご馳走様です」
結局二軒目も楠木さんが奢ってくれて、何だか申し訳ない気持ちになる。
「それにしてもごめんね、こんなに遅くまで付き合わせて」
「いえ、そんなことないです。寧ろすみません、わざわざ最寄り駅まで送ってくださって」
「当然でしょ? 本来なら自宅まで送りたいところだけどね?」
「ここからすぐ近くなので、大丈夫です。ありがとうございます」
「そっか。分かった」
「あの、今日はすごく楽しかったです」
「本当に?」
「はい」
「それじゃあ、また誘ったら――飲みに行くの、付き合ってくれる?」
楠木さんが私に気があるのは分かってるし、今日はこのまま帰る流れだけど、次にまた飲みに行くことになれば、それだけじゃ済まないかもしれない。
それを分かった上で私は、
「……はい、私で良ければ……また誘ってください」
楠木さんの言葉にそう笑顔で返して、駅前で別れた。