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夜風に当たりながら自宅アパートまでの道のりを歩いていると、ふと後ろから足音が聞こえてくる。
初めは同じ方向なのかなと思っていたけど、私が止まれば足音も止み、歩き始めると聞こえてくる。
距離は多少あるようだけど明らかに尾けられている、そう確信した私は勢いよく走り出した。
「……はぁ、はぁ……っ」
足にはあまり自信の無い私はすぐに息切れ、飲んだ後だし、今にも足が縺れそう。
しかも、尾けられたまま自宅に帰る訳にもいかないので、アパートのある方角とは別の方角へひた走る。
走りながら《痴漢注意》《変質者多発!》なんて看板を目にした私はとにかく人が居る場所まで向かおうと走り続けていたのだけど、
「――っ!?」
曲がり角を曲がって少し行った先にコンビニがあるというところで追いつかれたのか誰かに腕を掴まれた。
「た、助けて――」
恐怖で思うように声が上げられなくて、か細い声しか私の口から出て来なかったものの、
「――和葉!」
聞き覚えのあるその声を聞いた瞬間、パニックになりかけた私は我に返って声の主へ視線を向けるとそこに居たのは、
「……やま、と……?」
バーで別れたはずの大和だった。
「なんで……」
「何でって、俺、このすぐ近くに住んでるから……ってそんなことより、お前どうしたんだよ? そんなに息切らせて……。それに今、助けてって……」
「――っ! わ、私、誰かに後尾けられて、走って逃げたら、追い掛けてきて……、それでっ」
大和に会ったことで一瞬忘れ掛けていたけれど、誰かに尾行されていたことを思い出した私はそのことを口早に説明すると、
「……今は、誰も居ねぇみたいだな。多分、俺がお前に声掛けたから姿消したんだろ」
私から話を聞いた大和は辺りを見回しながら怪しい人が居ないか確認してくれた。
「つーか、こんな時間にこんなとこ一人で歩くなよ。あの男はどうしたんだよ?」
「先輩は……送ってくれるって言ったけど、断ったの。駅までは来てくれたし、アパートまでは本当にすぐだから大丈夫だと思って……」
「――はあ。お前変わってねぇのな、そういう強がりなとこ。本当は暗いとこ怖いくせにさ」
「…………」
大和のその言葉に、ドキッとする。
「……別に、強がってなんか……ないもん」
「そうか? ま、いいけど。つーかあの男も気が利かねぇよ。断られても送るだろうが、こんな夜中ならよ」
「…………」
大和は、まだ覚えていたらしい。
私が暗いところが苦手なことを。
確かに大和の言う通り、私は暗いところが苦手でこんな夜中に一人で帰るのは怖かった。
でも、もし楠木さんに部屋の前まで送ってもらってしまったら、そのままさよならという訳にはいかなかったと思うから一人で帰るのは仕方無かったの。
「まあいいや、行くぞ」
「え?」
「送るよ。こんなことの後じゃ、一人で帰れねぇだろ?」
「え、……でも……」
「つーか、俺がお前を一人で帰せねぇっての。まだ後尾けて来た男だって居るかもしれねぇんだしよ。行くぞ。アパートどっち?」
「…………あっち」
バーでは酷い態度を取った私のことを心配して送ると言ってくれた大和。
本来ならば断るべきだと思うけど、状況が状況なだけに断る選択肢が無かった私は大和と共に歩き出す。
先輩の申し出は断ったくせに、元カレの申し出を受けた私って……。
そんなことを思いながら、来た道を戻って行く。