「君の代わりになる…?」
「あぁ…絶対に疑われたり、正体がバレてはいけないよ」
「がんばるね」
彼女は何年、何百年にも渡る、劇を演じる筈だった、ソリストとして
_______________
「ねぇ」
「どうしたんだい?」
「僕が君を演じきって、ここが救われる時、
君もいるんだよね?」
「…え?」
「その、初対面みたいなものなのにこんな事を言うのはおかしいかもしれないけど、私…その、君の事がす、好きなんだ…」
恋愛的っていうか、なんだろう…?でも僕は、君の事が好きだよ…?
「…」
驚いた
まさか僕に対して好意を抱いているなんて
想像もしていなかった
どうして僕に対し好意を抱いているなんてよく分からないけど、これが人間ってやつなのかな?
…僕の計画を実行するならば、前提として僕は死ぬ
僕の片割れ
僕が望んだ完璧な妹
そんな大切な君が僕と一緒にいたいだなんて…
僕だってそりゃ、死ぬのは怖い
まだ実感は湧かないけど、いざその状況になったら怖くて涙を流しちゃうのかもね
もちろん彼女と一緒にいたい
けど、これから歌劇を演じ切ってもらう貴方が
歌劇が終わった後精神を保てているのかは分からない
でも、もし、貴方が心から望むのなら
君と一緒に…
「…うん、出来る限りの事はするよ」
「!本当かい?僕、君と一緒に居たいんだ!」
「うん、僕もだよ」
「嬉しいな!」
「…いいかい?僕と君が一緒に居れるように最大限で努力はするよ。プレッシャーをかけるようで申し訳ないけど、もし僕ではない事がバレてしまえば無理かもしれない」
「…!」
「だから、絶対にバレてはならないよ」
「…うん、分かったよ!僕、頑張ってみる!」
「それでいい、頑張ってね」
「勿論さ!」
そうして、何百年に渡る途方もない歌劇の幕が上がった
「あなた、あいつなんかじゃないでしょ?」
「…え?」
少し前にここに来た子
僕の歌劇を邪魔するとは思わなかった
だがみんなは僕の事を信じてくれるはず!
大丈夫、大丈夫だから
きっと…大丈夫だから
そう思っていた
「 信じてくれ…」
ねぇお願い、信じてよ!
どんな事もやったし
500年、ずっと救う為に耐えていたのに…
「判決を言い渡す」
待って
「被告人は彼女を演じ皆を騙した」
違う、わざとじゃないんだ
話を聞いて
お願いだから…!
待って
「…有罪」
「…ぁ」
体に力が入らなくて思わず椅子に座り込む
もう、終わりだ…
僕のせいで、
お姉ちゃんと約束したのに
ごめんなさい…
謝ろうと声を出そうとしても上手く出ない
その代わりに涙がポロポロと流れていく
ごめんなさい…皆
皆の話し声が聞こえる
「ずっと皆を騙していたなんて…」
「最低な人間だ!」
「有罪で当たり前だろう」
有罪の僕の判決は
死刑だった
「死刑…!?」
「そ、そんな!死刑だなんて…」
「居なくなってしまえばまずいんじゃないか…」
「なんて事だ…」
僕は
演じ切れなかった
皆んなを守る為
お姉ちゃんとの約束を、守る為
お姉ちゃんと一緒にいる為
頑張ってきたのにな…
あぁ、最後だけでも
会いたかったな
「そこまでだよ」
民衆がざわつく
まあ当たり前だろう
ステージの上そっくりな少女がいきなり現れたのだから
彼女は民衆を冷ややかな目で見つめると、審判官の方へと振り向き言い放った
「残念だよ。」
審判官の顔が歪み悲痛な表情へと変わる
何故そうなったのかは彼にも分からない
誰にも分からないだろう
彼女は審判官をまた冷ややかな目で見つめ、フッと消えたかと思えば妹の元へと訪れていた
「…お、お姉ちゃん?」
「あぁ、よく頑張ったね」
「…ぁ」
妹は目を見開き、そのお陰で止まりかけていた涙がポロポロと零れ落ち、目の前の存在へと手を伸ばし思い切り抱きついた
とっくに正しい泣き方なんて忘れているのだろう
彼女はあまりにも長く辛い苦しみに満ちた
声にならない泣き声を上げながら抱きつく
そんな妹を慈悲の、いや。愛情に満ちた目で見つめ抱き締め返し、姉はこう言った
「ねぇ、あの約束を覚えているかい?」
「…ぅう、当たり、前だろっ!その為に、ぼっ、くが、どれだけ頑張ったか!」
「うん。本当にお疲れ様
でも僕は今から死んで、真実を教えないといけない」
「…え?」
「だからお別れ…なんてことは言わないよ」
多分ねと呟いた後、コホンと咳払いをしある選択肢を提示した
「よく考えてね」
「僕と一緒に死んで、一緒にいる事を選ぶか」
「君だけでもちゃんと生きて、皆と幸せに暮らすか」
彼女が目を見開く
「君はどっちを選「そんなの決まってるだろ!」」
食い気味に叫んだ妹の顔は悲痛に満ちていた
「僕は君と一緒に、居たいんだよ?鏡の中の僕… 置いてったりしないでよ…君まで僕を泣かせるのかい?」
姉は一瞬悲痛の表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻った
「うん…そう、そうだよね。僕も嬉しいな」
儚げに笑いこう言った
「ねぇ、またお願いをしてもいい?」
僕と一緒に踊ってくれないかい?」
「…!勿論さ!」
彼女は久方ぶりの笑顔を見せて答えた
姉は微笑み、未だ固まっている民衆へと言った
「さようなら。どうか君達に幸あれ」
そして姉は審判官の方向へと向き、あまり大きな声でないにしても芯のある、でも何処か儚げな、威厳に満ちた声でさよならを言った
「じゃあね。」
「…!」
また審判官の表情が歪んだ
「…君は、あいつなのだな」
「あぁ、そうさ?もうじき跡形も無く消える神だけれどね、 もう時間も無さそうだし、話せるのもここまでみたいだね」
そう呟いた直後
2人は向かい合って微笑むと罪人の円舞曲を踊り出した
歌を口ずさみ、ゆっくりと踊る一一
小さくジャンプし、回りながら
その踊りはとても美しく、残酷で見ている人の目を心を奪った。
しばらく踊り、2人が微笑み最後お決まりのカーテンコールのお辞儀をする
そして剣が振り下ろされた
最後まで分からなかった
首が落ちた時も
遺体が消えた時も
真実を知ったあとも
ここを救ったあとも
何も
ただ、姉に踊りに誘われた時の妹の笑顔が
自分らに向ける笑顔よりも美しく、優しく、暖かく、幸せそうだったいや。幸せだったという事だけは分かった
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