閲覧注意
🇺🇸「い……だ…嫌…だ……」
目に涙を浮かべて怯えるアメリカは
さながら逃げ場を失った兎のよう。
自然と”あの頃の姿”を重ね合わせた。
🇺🇸「助…け………テ…」
僅かな言葉を絞り出し、無理矢理シャッターが下ろされたように、堅く目を閉じた。
🇬🇧「お帰り…なさい、アメ…リカ……」
感情がぐちゃぐちゃに絡まり
笑顔で迎えるはずが、 口角を上げるのに時間がかかってしまう。
🇬🇧「でも、貴方を…手に入れたこと。この上無く…嬉しいですよ」
目から溢れる水、意図されない痙攣が、
言葉を投げる邪魔をする。
親子が再会する感動物語に
明白な障害物を置かないでほしい。
淡々と秒針が走る。
バラバラに散らかった記憶の本棚を
一つ一つ丁寧に並べる。
抑えきれない心臓を
胸に手を当て温めた。
ほんのり赤色に染った目で
貴方をじっと見つめる。
🇬🇧「大きく…なりましたね」
成長した我が子を喜ばない親は居ない。
深い眠りに襲われ、小さな呼吸を繰り返すアメリカ。
私の手に収められた空の注射は
優しく握り締められ、
何も無かったかのように
我が子を安心させるために
偽りの微笑みを見せた。
アメリカに背中を向け、ベットにゆっくり腰かける。
ミシッ…と鈍い音を立てた。
長い間使い古された薄いマットレス。
隅に残った返り血のシミが、当時の面影を沸々と感じさせる。
🇬🇧「この空間で、貴方と一緒に、夜を過ごしましたね…」
幼い我が子を子守唄で寝かしつけるように、 アメリカの胸を等間隔に叩く。
手を添えると、ドク…ドク…ドク…と一定の速度で心臓が鳴いている。
🇬🇧「……」
私の機嫌を取るべく無理矢理に引き攣らせた笑顔
短い指で私の服を掴み必死に許しを求める姿
今にも水が溢れてしまいそうな瞳で「ごめんなさい」と謝る姿
私を見た瞬間に肩を震わせる姿
腹を抑え過呼吸になって助けを呼ぶ姿
死んだを目と共に壁に寄りかかる姿
何かに怯え小さな手で頭を抱える姿
大粒の雫を流し可愛く喘ぐ姿
無邪気で穢れのない黄色い声
無力で華奢な身体
白く透き通った肌
枝の如く細い足
甘く柔らかい唇
女子のような長い睫毛
絵に描かれた端麗な顔立ち
貴方の幼少期を最後に、私の記憶はぷつりと遮断されている。
それでも貴方はどこまでも、私を夢中にさせたら
気が済むのか。
🇬🇧「……貴方のことを愛しています」
親としても、恋人としても。
私とアメリカは”血液”で繋がれている。
世間はそれを「親子」と呼ぶ。
ありきたりな関係だと片付けられてしまいがちだ。
側で眠るアメリカには、私の血液が隅々まで流れている。
脳、肺、心臓、肝臓、賢臓
ありとあらゆる器官を通り、循環し続けている。
私の血液が無いと、この子は生きることが出来ない。
私がいてこその、アメリカなのだ。
アメリカの体の内を細密にまで侵入しているという事実
私はどうしようも無く興奮状態に陥ってしまう。
私とアメリカには、切っても切れない
何千もの鎖で縛られている。
🇬🇧「貴方の親で、本当に良かった…」
我が子を恋愛対象と見ても「親子」として処理されやすい
曖昧な境界線の中
炙り出され好奇の目を向けられることは恐らく無い。
底知らずの愛を、部外者に邪魔させるものか。
🇬🇧「しかし、貴方と私の鎖は呆気なく切れてしまった」
13歳の誕生日を迎えて間も無い頃、貴方は忽然と姿を消した。
あの日の朝、恐ろしく部屋が静寂に包まれていた。
次第に過呼吸になる。
途轍もなく嫌な予感がした。
🇬🇧『私の…私の子……何処に……』
息を殺してドアを開けると
そこに我が子はいなかった。
脳が覚醒し、理性が効かなくなる。
クローゼットにバスルーム、キッチン、リビング、屋根裏部屋…
部屋を何十回行き来しても一向に見つかりやしない。
気づいた時には、泥棒が頻繁に出入りする廃墟のように部屋が荒れるに荒れていた。
私の心に大きな穴が、ぽっかりと開いていた。
アメリカがいない
飲み込みたく無い事実に、暫く食事が喉を通らず、心身共に疲弊。
痩せこけた体を持ち上げ、向かった先は
🇬🇧「ここの部屋でした…」
かつての空間で、私は自慰行為に耽りました。
貴方が使っていた本
机
椅子
服
縫いぐるみ
ベット
染み付いた貴方の匂いを頼りに、性的欲求を満たしました。
でもそれらは所詮、虚構に過ぎない。
偽物に包まれた部屋で、私の本質的な心を満たしてくれるはずが無い。
ふと、私の中で沸々と煮上がった。
絶対に”アメリカを取り戻す”
そうと決まれば早い。
私は探偵を複数人雇い、貴方を探させた。
だが其奴らは無能な事に、何年経っても見つけることができなかった。
あれから3年後、無能共はようやく貴方の写真を手に入れた。
私は写真を目にした途端、自分の目を疑った。
アメリカとフランスが
仲睦まじく歩いている姿が
そこにあった。
あぁ…しくじった。
3年前のあの日、血眼になってアメリカを探し、周りに目すら向かなかった。
私は心底絶望した。
長きに渡って信頼していた相手に裏切られた事
深く愛していた我が子を奪われた事
砕けそうなくらい歯を食い縛り、力強く拳を握りしめた。
写真は呆気なく原型を崩し、 ふやけてしまった。
怒りの沸点はとうとう限界まで到達していた。
アメリカを手に入れる
そして
フランスに鉄槌を下す
残された理性で激しく動く心臓に麻酔をかける。
冷静さを取り戻し、作戦を練る準備に至った。
1ヶ月も経たないうちに
ついに住所を特定。
アメリカが家から出るのを見計らい、追いかけて肩を軽く叩いた。
私が後ろいることを考えず、貴方は振り返る
🇬🇧『お久しぶりです』
外界から私の姿と声を認識した瞬間、貴方は目を細くしてこう言った。
🇺🇸『…お前なんか
呪いの言葉を吐き捨て、足早に去った。
我が子の背中を最後まで見送り
その場に取り残された私は
鋭い歯を見せ、 悪魔の様に微笑んだ。
盗聴機能搭載のGPSを付けたからには
貴方の逃げ場なんて、 無いも同然。
私の勝利です。
🇺🇸『親父、話がある』
🇫🇷『ん?どうしたの?』
🇺🇸『…イギリスに住所がバレた』
🇫🇷『…え…何で……?』
🇺🇸『今日、家を出た瞬間に、話しかけられたんだ…』
🇫🇷『……嘘…』
🇺🇸『このままじゃ不味い、早く彼奴から逃げないと…!』
🇫🇷『…………わかった。すぐ引っ越そう。』
🇫🇷『明後日の夜に決行する。それまで、急いで荷物をまとめて欲しい。』
🇺🇸『…あぁ』
🇬🇧『夜逃げの準備ですか、 面白い』
機械に接続されたヘッドホンを耳に密着させ、会話の一部始終を聞いていた。
🇬🇧『可愛い我が子を迎えに行く時が来ました』
翌日の夕方
🇫🇷『ごめん、急用で仕事が入っちゃって、行かないと』
🇺🇸『あぁ、後は任せろ親父!』
🇫🇷『じゃあ…よろしくね』
ガチャ
🇬🇧『アメリカは今家に1人でいる。これ以上のチャンスはありません』
お気に入りのシルクハット、獲物を一匹たりとも逃さない片眼鏡、洗練された純白な白手袋、護身用のナイフと麻酔注射をポケットに入れ、我が子の声を聴きながら家のドアをそっと閉めた。
🇺🇸『ふぅ…2階いくか…』
ドン、ドン、ドン…
🇬🇧『2階…直ぐ其方に行きますよ♡』
家には当然鍵を掛けられている。
周囲の窓を手当たり次第に漁ると、一つだけ空いているものがあった。
🇬🇧『フランス…貴方は、いつ迄経っても不用心ですね』
しなやかに窓を開け、足音を殺して中に入った。
フランスが帰ってくる前に、アメリカを取り戻さないと。
ヘッドホンに耳を当てても、片付けの雑音しか入って来ないため、音声を止めようとした瞬間
🇺🇸『あんなの…親じゃねぇよ』
低く鈍い声
しかし、面影は少なからずあった。
今からあの子の近くに行く思うと
即座に発作を起こし、倒れてしまいそうだ。
階段を慎重に登る。
あぁ、本当に心臓が煩い。
言うことを聞かない体に心底うんざりする。
私は敢えて、ヘッドホンの音を切った。
我が子の生の声を聞きたかった。
ドアの前を1人立ち尽くす
この扉の向こうに、あの子がいる。
最近出会ったばかりだが
緊張は初対面に等しかった。
ドアノブをゆっくり引いて、長く聳え立つ板を押した。
部屋に入ると
月の光に照らされ、細く小さな窓をそっと覗き
黄昏ている我が子がいた。
感情が飛び出るのを死に物狂いで抑え、足を前へ前へ動かす。
🇬🇧「そして貴方はこんなことを呟きましたね」
🇺🇸『そろそろ…復讐しようかなぁ』
復讐…誰に対しての復讐だろうか。
よくわ分からないが、親は子の幸せを願う為のが当然の役目。
可愛い我が子の後ろ姿を見つめながら
私は貴方の耳元で、 こう返した。
🇬🇧『復讐、出来たら良いですね』
コメント
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めっちゃ気になっちゃった
この作品をニヤニヤしながら読んでいる私は相当やばいな...今更ですけど()