9
さぁ、帰ろう。
思っていたより、時間がかかった。
もう夕方、日が傾いている。
『ごめんね琥珀さん。かなり時間を取っちゃって、』
琥珀さんは笑顔を見せて、首を横に振る。
『大丈夫だよ。それより、甘ちゃんは剣士になるんだ、』
『うん』
僕は頷く。
『凄くカッコよかったよ!』
にっこりと笑って、琥珀さんに言われる。
『そういえば、怖がっていたみたいだったけど、大丈夫?』
ずっと僕の背中に隠れていた。
琥珀さんは人が怖いみたいだ。
『甘ちゃんがいてくれるなら大丈夫だよ。』
『そう?』
『うん!』
なら、剣士として人々を守る事にしよう。
そう思いながら琥珀さんが借りている家に着く。
ここ以外にも家がある。
どちらも借りているわけだけど。
家に帰った後はゆっくりしていた。
琥珀さんが身体を寄せて、甘えてくる。
やっぱりまだ恥ずかしい。
でもやっぱり琥珀さんは嬉しそうだ。
もう寝る時間。
今日は嫌な夢は見たくない。
琥珀さんも心配だ。
ふと、琥珀さんを見る。
琥珀さんはこちらを見つめていた。
『きょうはぎゅってしてねよ?』
琥珀さんの甘い声。
恥ずかしいが、もうあんな夢は見たくない、見てほしくない。
琥珀さんが身体を寄せて、抱きしめる。
琥珀さんの体温、
暖かい。
シャンプーの香りがする。
ラベンダーの香り。
落ち着く。
『おつかれさま。おやすみ、甘ちゃん』
『おやすみ、琥珀さん』
僕は目を閉じた。
『……ゃん』
『…ちゃん!』
誰かが名前を呼んでいる。
『甘ちゃん、ボーッとしてるの?』
琥珀が顔を覗かせている。
『見て、ねこちゃん!』
琥珀が指を差す方に猫がいる。
真っ白な毛に、黄色い目をした猫だった。
『かわいい!』
琥珀が猫の方へ走る。
猫は草むらに逃げ込む。
『あ、行っちゃった…』
落ち込んでいる。
『猫は警戒心が強いからな、』
俺が言う。
『甘ちゃんは触らせてくれるのにな…』
さらっと恥ずかしいことを言う。
『別に!触らせてないぞ!』
俺は琥珀にデコピンをお見舞いする。
『ひぎゃっ、』
琥珀は目をぎゅっと閉じて、おでこを抑えてう〜と唸っている。
・・・
『行くぞ、』
琥珀の手を握り、引っ張る。
今は琥珀がお花畑に行きたいと言っていたのでそれらしいところを探している。
でも全く見つかっていない。
ふと、遠くに人影が見える。
浴衣を着た女がいる。
俺は別の場所に琥珀を引っ張ろうとする。
だが、琥珀は動かない。
『いいな、浴衣…祭りに行ってみたい…』
小さな声で言う。
無理だろう。
行っても追い出されて嫌な思いをするだけ。
『祭りなんて、人が多いだけで楽しくなんてない。花を見てた方が何倍もマシだ。ほらいくぞ!』
琥珀の手を強引に引っ張る。
琥珀さんは残念そうだった。
色々探す。
でもお花畑と言える場所はなかなか見つからない。
1つ、古びた建物が見える。
人気[ヒトケ]はない
シャッターが閉められており、手前にガチャガチャがある。
機械に水ヨーヨーのようなものが写っている紙が貼られている。
近づいてみる。
中には、残り1つカプセルがある。
値段は200円。
たけぇ、
俺たちにそんなお金はない。
でも、琥珀さんは目を輝かせて見ている。
『これ何?』
『ガチャガチャだ。中には祭りであるらしい水ヨーヨー型のおもちゃが入っているみたいだな。』
ポケットに、自販機の下で拾った100円玉が2枚ちょうどある。
このお金で美味しいものでも買おうと思っていた。
でも、“あそこ”に行けば美味しいものが貰える。
琥珀はまだガチャガチャを見ている。
俺はガチャガチャの機械にお金を入れる。
『ほら、そこのハンドルを回せば出てくる。』
俺はハンドルを指差す。
琥珀はこちらを見つめている。
『え?』
琥珀がずっと見つめたまま動かないので、俺は琥珀の手をとり、ハンドルを一緒に回す。
ガラガラと音がした後、下からカプセルが出てくる。
と、同時に売り切れの表示が出てくる。
俺は琥珀の手を掴んだまま下に落ちたカプセルを取る。
琥珀にカプセルを握らせたまま、俺は手を離す。
『開けてみろよ。』
琥珀は呆然とカプセルを見る。
そして、カプセルを開けようとする。
『開かない…』
琥珀は悲しそうだった。
『ったく、貸せ。』
琥珀がカプセルを渡す。
周りのテープを剥がし、カプセルを開ける。
『ほら』
と、琥珀に渡す。
琥珀がカプセルから中に入っていた水ヨーヨー型のおもちゃを取り出す。
赤い金魚などが描かれた黄色いヨーヨー。
『かわいい、』
琥珀はそのヨーヨーを見ている。
『よかったな、』
『うん!』
琥珀は嬉しそうに笑顔を見せる。
?
視界がぼやける。
耳鳴りもする。
目を閉じる。
『なんなんだ、』
と、耳鳴りがおさまっていく。
目を開けると、
『ここは…』
すぐ目の前に遠くまで広がる花畑。
?
『わぁー、きれい!』
隣で琥珀が花を見ている。
俺も、花を見る。
いろんな色の花が咲いている。
いろんな種類の蝶が飛んでいる。
琥珀がお花畑に向けて歩く。
俺もついて行こうと歩く。
ふと気づく。
お花畑の中に、
人影がある。
銀髪の…
!?
『待て!』
琥珀を引き止める。
だか、瞬きをした瞬間、
それは消えた。
そして、
『いいなぁ、琥珀ちゃんばっかり、』
すぐ隣で、女の子の声がした。
銀色の髪、少し虚な蒼[アオ]い目、真っ白なワンピースは、一部から徐々に赤くなって…
⁉︎
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