コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
バイト終わりの帰り道、奏斗と並んで歩くのが少しずつ”当たり前”になってきた。
付き合い始めてまだそんなに経ってないけど、奏斗は変わらず優しくて、気さくで、わたしを”美桜ちゃん”って呼ぶ。
「今日もお疲れ。美桜ちゃん、結構忙しそうだったね」
「うん、ドリンクオーダーめっちゃ溜まってて大変だった」
「美桜ちゃん、いつもテキパキ動くから、見ててすごいなーって思うよ」
「…え?そんなことないよ」
「いや、マジで。俺、つい見ちゃうもん」
奏斗はさらっとそう言うけど、そういう何気ない一言が、わたしの胸をドキドキさせる。
(付き合ってるんだから、こんなの普通だよね…?)
そう思いながら、奏斗の隣を歩く。
***
駅前まで来たとき、ふと奏斗が「あっ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「ちょっと待って、美桜ちゃん」
そう言って、奏斗はわたしの前をスッと抜けていった。
目線の先には、スラッとした綺麗な女性が立っていた。
「先輩!」
(……先輩?)
わたしが立ち止まると、奏斗はその女性の前で軽く会釈をして話し始める。
「久しぶりですね!最近ゼミどうですか?」
「あら、奏斗くん!元気そうね~」
(え…?)
その人は、奏斗の大学のゼミの先輩らしい。
落ち着いた大人っぽい雰囲気に、品のある笑顔。
わたしと同じバイトの制服じゃなくて、大学生らしいおしゃれな服を着ている。
(……なんか、すごい綺麗な人)
「今ちょうど帰り?偶然ね、少し話さない?」
「いいですよ!」
奏斗は笑顔で答える。
(……あれ?)
わたしは、横にいるのに、まるで”いない”みたいな気分になった。
(なんで、わたしのこと紹介しないの?)
(なんで、”彼女がいる”って言わないの?)
奏斗の視線は先輩に向いたままで、わたしは思わず拳をギュッと握る。
***
「…ごめん、美桜ちゃん。待たせた?」
十分くらい話したあと、奏斗がわたしの方を向いた。
「ううん、大丈夫」
そう言ったけど、内心はモヤモヤしていた。
「先輩、ゼミの人?」
「そう!めっちゃお世話になってるんだよね」
「ふーん…」
(”彼女です”って、紹介してくれてもよかったのに)
(わたし、そんなに大した存在じゃないのかな)
「美桜ちゃん?」
「……なんでもない」
いつもの帰り道なのに、今日はなんだか胸が苦しくなった。
***
家に帰ると、リビングでは有紗がスマホを握りしめて、何やらテンションが高かった。
「ねえ、見てこれ!俊哉から返信きたんだけど!!」
「おう、俺も楽しみ」
「……それだけ?」
「いやいや、これが重要なの!」
有紗が盛り上がってるけど、わたしはあまり会話に入れなかった。
「美桜、どうしたの?」
「えっ、あ、ううん」
「なんか元気ないね」
萌音に指摘されて、わたしはハッとした。
(…そうだ、わたし、落ち込んでるんだ)
(なんで、彼女なのに”彼女らしく”できないんだろう?)
有紗や萌音の話を聞きながら、わたしはただ黙って、自分の気持ちを整理しようとしていた。
**次回:冬亜目線!亜希くんが優しすぎて、素直になれない!?さらに家族への反抗が加速…!?**