迎えた文化祭当日。
右京は全校生徒が並ぶ体育館の舞台脇の控室で、開会式が執り行われるのを見守っていた。
「―――右京君」
加恵が小さく耳打ちをする。
「本当に大丈夫?」
その声に、舞台に視線を向けていた諏訪も振り返る。
「……大丈夫だって。何が起こるってんだよ」
右京は笑った。
「目立つ奴を叩こうとするやつはどこにでも湧くんだよな。芸能人みたいなもんでさ。こっちがビビったらそれこと相手の思うつぼだ。何もなかったように堂々としてればいいんだよ!」
小さく頷いて見せるが、加恵は納得できない様子で諏訪に助けを求めた。
「まあ、出店は一緒だし。それ以外の時間もできるだけ一緒にいるようにするから―――」
「それは、いいや」
右京は俯いていった。
「なんか永月が一緒に回ってくれるらしいから」
「――――」
加恵が口を開ける。
諏訪が眉間に皺を寄せる。
「だから大丈夫。心配すんなよ!」
振り返った右京はニカッと笑った。
『開会宣言。生徒会長、右京賢吾君』
「はいっ!」
右京は腹の底から声を出すと、階段を上がり、登壇していった。
『おはようございます。
まず初めに。お忙しい中、今日は宮丘学園高等学校の文化祭にお越しいただきました来賓の方々、並びに、私たちの準備にご協力・ご尽力いただきました先生方、誠にありがとうございます。
おかげさまで初夏の気持ちの良い日差しの中、私たちは今日というよき日を迎えることができました。
各クラス、各部活ともに、開催までに多くの努力や苦労をしてきたことと思います。
特に私たち3年生にとっては最後の文化祭です。
私事で恐縮ですが、転入生だった私にとっては初めで最後の宮丘文化祭でもあります。今からワクワクして身体が飛び上がりそうです。
今日は私たちの力で、素敵な一日にしましょう!
ここに、第35回、宮丘学園文化祭、開会を宣言します!!』
クラッカーが鳴り響き、テーマソングである流行りの歌が流れ始める。
チアリーダー部が舞台袖から出てきて、たちまち右京を囲みこむと、音楽に合わせて踊りだした。
慌てて引っ込もうとした右京を捕まえ、ピラミッドの上に立つように促す。
打ち合わせはしていなかったが、決起式で一度練習しているため、なんとかできた。
生徒たちもこの即興の演出を楽しんでいる。
右京はピラミッドの頂点に立つと、高々と右手を上げてポーズをとった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!