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新学期もはや数か月が過ぎた晴れた日曜日
成宮明ファンクラブ『アッキーズ』会員No2、撮影係り永原節子(12歳)さんの、お部屋ではある作業がせっせと進んでいた
机にあるプリンターは忙しく、ガチャンコガチャンコと音を立てて、明の写真が大量に印刷されている
棚にはニコンの一眼レフカメラが数台並び、カメラマスターの彼女は、用途に合わせてレンズを使い分ける
その腕前は公式のカメラマン顔負けだ
長年の彼女がおこずかいを溜めて、買いそろえて来たカメラコレクションは相当なもので、彼女の大切な商売道具だ
彼女の部屋の壁には特注の、明の体操服姿のパネル写真が飾られ
いたるところにお花柄の写真立てには、明をモデルにした永原さんの作品がある
今はアイディスペイントのアプリを使って、永原さんがipadにタッチペンで色々書き込んでいる
ipadの画面いっぱいに色んな明の写真が映っており、永原さんがそれを小さくトレディングカード、サイズに加工している
ん~っと・・・「これは缶バッヂ用・・・これは・・・カップホルダー・・・あともう一品ファンクラブ用のグッズが欲しいわね・・・ 」
プリンターで出来上がった明の写真を、次はラミネート加工機に通し、ホッチキスのような四隅をカットする機会を使って丸くするとお手製のトレーディングカードの出来上がりだ
その出来具合はアイドルが公式で販売している、クオリティそのものだ
今はその明のトレカを100均で売っている、トレカケースに一枚一枚丁寧に包装し、明日のファンクラブの集いの時にメンバーに配るように今は忙しく多量生産している
もちろん月1回のアッキーズファンクラブの集いが、開催されているなんて、当の明君ご本人は知らない
永原さんの厳選された目利きの画像から、アプリで頬紅をつけて可愛くしたり、お目めをキラキラさせたりと、彼女の加工技術はプロ顔負けだ
グッズの大量生産も体力がいる、少し疲れて来た永原さんは大きくため息をついた
自分用に海外サイトで制作した、永原さんの宝物A4サイズの、分厚い明の100ページの写真集をピーチティーを飲みながら眺める
永原さんの至福の時だ
自分の今までの技術の集大成、彼女の小学校生活の青春がここに詰まっている
一枚・・・一枚と明の写真集のページをめくる
そこにはいろんな表情の明が彼女を出迎えてくれる
美しい明の笑顔・・・少し不安そうな表情・・・時にはレオと喧嘩して言い合っている表情・・・レオと楽しそうにじゃれている所、真剣に黒板を見ているその瞳・・・
そのどれをとっても永原さんにとっては宝物だ
永原さんがはぁ~・・・とため息をつき、牛乳瓶の底のような黒縁眼鏡を外す
すると少女漫画のような長い睫の、キラキラした瞳が現れた
「どうして・・・私はアキ君の、5歳年上に生まれたのかしら・・・ 」
小学校を卒業したら、この生活も終わる・・・ポロリと永原さんの瞳から涙がこぼれた
キラキラキラ・・・「オタクって・・・・すごいのよ・・アキ君・・」
永原さんの目にじわっと涙が溢れる、ああ・・・切ない・・・
「だって私はただのファンで・・・・恋人になれる確率が何万・・何億分の1かもしれない相手を好きになって・・・
どれだけ可愛くなっても、気づいてくれることなんてないのに
その人のためだけに努力して、どれだけ大きな声で「好き」を叫んでも、その声が届くことは無くて・・・・ 」
アキ君を見ていると、素敵なポエムがどんどん浮かぶ、完全に自分の世界に浸っている
しかし傷つきやすい青春時代には誰しもが、こういう時間が必要だ
後でこのポエムメッセージ付きの、明のトレカも制作しようと、音声レコーダーに自分の声を録音する
要はどれだけファンに共感してもらえるかだ
キラキラ・・・「自分一人だけを見てもらえる事なんてないのに、また「好き」を叫んで・・・その人が幸せになりますようにと応援し続ける・・・・ 」
ギュッと永原さんが写真集を抱きしめる
グスッ・・・「きっと・・・宇宙一辛い片思い・・・ 」
ハッと永原さんは、壁にかかっている明のパネルを見上げる、涙で瞳がキラキラしてる
「それでも・・・ずっと好きでいられるのは、その人が自分にとっての生きる意味であって、生き甲斐であって、その人がこの世に存在するだけで幸せになれる・・・宇宙一幸せな片思いでもあるから・・・」
両手を顔の前で組みパネルを仰ぐ、完全に自分の世界に浸っている
キラキラキラ・・・「だから・・・言わせてください。アキ君・・・私の王子様・・・大好きです! 」
..:。:.::.*゜:.
バンッ!
「節子!メシだっつってんだろーがよ!聞こえねーのかよ!このバーカ!」
その時永原さんのお兄ちゃん(一歳上、野球部、丸刈り、汗臭い)が、いきなり部屋のドアを開けて怒鳴った
ギャーギャーッ「勝手に入ってくんなって何度も言わせんなよ、バーカ!バーカ!バーカ!いっこ上だからって偉そうにすんじゃねーよ、怒鳴んじゃねーよ!びっくりするだろーがよ!デリカシーってもんがねーんだよ」
ケッ「節子にデリカシーもエコロジーもねぇんだよ!いつまでもオタクの世界に浸ってねーで、メシ食えよ!早く!母さんに呼んで来いって言われたんだよ」
ギャイギャイ「(ジー)しか合ってねーじゃねーかよ!だいたいなんで節子(せつこ)なんて名前つけんだよ!蛍の墓かよ!あ?今は令和なんだよ!!もっと洒落た名前があっただろうがよ!まったくどいつもコイツもムカつくんだよ、人の恋路を邪魔するやつぁ、豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえよ! 」
ケッ!「豆腐で頭ぶつけて死ぬわけゃね~だろうがよ!」
ギャーギャー「言葉の言い回しってもんだろーがよ!そんなこともわかんね~のかよ!いっぺん小学生からやり直せよ!今あたしが一番望んでることなんだよ!テメーになんか切ない乙女心がわかってたまるかよ!どうしてお母さんは5年後に産んでくれなかったんだよ!人生詰んでんだよこっちは!それを嘆いてんだよ!邪魔すんじゃねーよ!」
「バーカ!」
「バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!バーカ!」
「カレー食わねーんならいいーよ」
ギャーギャー「誰も食わねぇとは言ってねーだろーがよ、カレーはあたしの大好物だと忘れたのかよ、食うにきまってんだろ、腹へってんだよこちとら」
「つまんねぇオタクグッズとか作ってんじゃねーよ」
「あたしのおこずかいを何に使おうが、テメーに何の迷惑がかかってんだよ、今やオタクが日本の経済回しているの、分かんねーのかよ!オタクは日本が世界に誇れる文化なんだよ 」
「妹がオタクなんて恥ずかしいんだよ」
ギャイギャイ「そんなのお互い様なんだよ、あたしゃお前の存在自体が恥ずかしいよ、もっと王子様みたいな兄貴が欲しかったよ! 」
この熱量を・・・勉強にも向けてくれたらどんなにいいかと・・・
1階でカレーをよそっている、永原さんのお母さんは大きくため息をついた
永原さん・・・ファイティン♪(笑)
【完】