【side:千景】
たとえ嘘まみれになっても離れたくない。
これから先も好きでい続けよう。そう思った…。
・・・・
寝言で兄貴の名前を呼んでいた都希くん。
兄貴と別れてから12年は経っているのにまだ兄貴の事を想っているんだ。身体が繋がり合った時の幸せな気持ちと、泣いている都希の顔を交互に思い出してはズキズキと胸が傷んだ。
12月に入り、都希の部屋で過ごしたあの夜からすでに一週間経っていた。あんなに大好きだった仕事も、鬱陶しいと思うくらい都希に会えない事が辛かった。トラブルや納期の関係でいつにも増して忙しく、気付くとバーも終わり、だいぶ遅い時間になっているので約束すら出来ていない。
でもせめてクリスマスには…。
そう自分に言い聞かせながら、疲れ果てて帰っては眠る生活が続いていた。
クリスマス一色になった街並みも見慣れたある日、外周りをしているとブランドショップの店頭広告が目に入った。
『あ、都希くんに似合いそう。』
そう思った瞬間に、店内に足早に入った。
シルバーチェーンに細身の黒とシルバーカラーのプレートが付いたネックレス。
『絶対に似合う!!』
「あの、これください!プレゼント用で!」
クリスマスプレゼントを用意した事で会いたい気持ちも強くなった。
・・・・
『今日は絶対に帰る!!!!』
朝から猛烈に気合いを入れて、鞄の中に都希へのプレゼントを入れた。
『なんとかキリが良いとこまで終わったぁぁー!!!』
大きく伸びをしながら安堵する。
上着を着て、鞄を持ち「お先です!」
と、他の同僚へ勢い良く挨拶をして退社した。
「日渡さんお疲れ様です。今日はデートですか?」
退室間際、同僚に声を掛けられ、笑顔だけで返事をしておいた。
勝手に足が動く。
本当だったらもう身体が限界で今すぐにでも倒れて寝られるくらいになっている。『都希くんに会いたい!』その気持ちだけで身体も軽くなり、混みまくっている道を無視して都希くんがいるバーまで走った。
・・・・
店内に入ると閉店間際な事もあって客も少ない。
カウンター席へ座ると都希くんがいた。
『やっと会えた…。』
バーが終わり、都希くんと一緒に並んで歩く街並みが特別に思えた。
『この瞬間を一生覚えておきたい。』
そう思った。途中、コンビニでクリスマスケーキを買った。もっと素敵な場所へ連れて行ってあげたかったけど、それでも好きな人と一緒に過ごせるだけでこんなにも嬉しいとは今まで感じた事が無かった。
・・・・
「おじゃましまーす。」
「どーぞ。」
あの日以来の都希の部屋。すでにめちゃくちゃ抱きたくて仕方ない。
「千景、先にお風呂入って良いよ。僕、荷物片付けるから。」
「わかった。」
ガッついて、やっと一緒に過ごせる今日を台無しにしたくない。鞄を置いて上着を脱ぐとベッドへ腰掛けた。
『どうしよう。嬉しくて仕方ない。』
都希が寝ているベッドへそのままパタっと横に倒れた。都希くんの匂い。ヤバい。ベッドの匂いだけで癒し効果がすごい。安心…する…。
・・・・
どのくらい経ったのだろう?気持ち良く目が覚めた。
『そうだ都希くんの家に来たんだ。あまりの癒し効果にちょっと寝ちゃってた…。ん?ちょっとか?あれ?寝ちゃってた?……寝てたーっ!!!!』
暖かい布団をそっと捲ると、都希が胸にくっついて眠っていた。
『やっっちまった……。』
ショックで涙目になりながらも眠っている都希の可愛い寝顔を見つめてから抱きしめる。
『俺ってやつは…大バカ野郎だ…。』
「ちかげ…?また?いたいぃ…。」
強く抱きしめ過ぎてしまった。
「ごめん…。俺、寝てた…?」
「うん。…寝てたよ。」
申し訳ない気持ちで抱きしめている都希の頭にぐりぐり自分の顔を押し付ける。
「だから痛いって…。何?」
「何にもしなかった。クリスマスだったのに…。」
「コンビニで買ったケーキは冷蔵庫に入れといたよ。」
「都希はいつ寝たんだ?」
「うーん…。眠くなるまでゲームしてたからいつ寝たかわかんない。むしろまだ眠い…。」
『あっ!!!!!』
ガバッと起きた上がり、置いてある自分の鞄から用意していた物を取り出した。
「俺、コレ渡したくて…。」
手渡したプレゼントを都希が開ける。
「僕に?」
「そうだよ!本当に忙しくて。ケーキはコンビニだけど、なんとかプレゼントは買えて。なのに…。」
『昨日渡したかった…。それで、一緒にケーキも食べて…。イチャイチャ(希望)エッチがしたかった。』
「僕、何にも用意してない。」
「俺が勝手に用意しただけだから!」
プレゼントを渡すシュミレーションまでしていたのに悔しくて都希の顔が見れない。
「付けて。」
『え?』
顔を上げると都希と目が合った。
後ろを向いた都希くんの首にネックレスを付ける。
「ありがとね。」
たまらず後ろから抱きしめられた。
「ふふ、なんかこれ首輪みたい。」
『そうだよ。早く俺だけのものになってよ。』
そんな事を口走ったら嫌われてしまうと思い心の中で呟く。その代わりに「…一生飼う。」
都希くんの肩に顔を埋めながらそう伝えた。
「ねぇ…都希…俺もう限界。やっぱ俺もプレゼントが欲しい。」寝てしまった自分が悪いのは分かってる。だけど、大好きな人を目の前にして治りそうに無い。
「今から抱いて良い?」
外は明るい。一か八か聞いてみる。
「どーぞ。まだ時間はあるから。」
「でも、ちょっと待って、歯磨いてくる!」
「ふふ、律儀だねー。じゃあ、僕も。」
初めて二人で並んで歯を磨く。歯を磨いている都希くんの首には俺のプレゼントが光っている。そんな事だけで嬉しくて仕方なかった。
「ずっとそれ立ってるけど、大丈夫?」先に歯を磨き終わった都希に聞かれた。
「らいじょーふじゃらいっ!!」
大急ぎで念入りに歯磨きをした。
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