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三人で行動するようになった初めの頃は、二人きりになるとどこかぎこちなかった恵那と忍。
けれど、斗和を心配する気持ちが同じと考え方が色々似ている面があるおかげで一週間も経つと冗談を言い合えるくらい仲良くなった。
そんな二人を斗和も微笑ましく思っていたのだけど、最近、彼の中で複雑な感情が芽生え始めていた。
(……ったく、話し長ぇんだよな、担任)
昼休みを半分以上削られて説教を受けていた斗和が屋上へ続く階段を上りドアノブに手を掛けた、その時、
「あはははっ、忍くんってば、本当に面白いんだから」
「え? そんなにウケます?」
普段大笑いをしない恵那が声を上げて笑っているのが聞こて来て、思わずドアを開けようとした手を止めた。
(随分、楽しそうだな)
町へ来た頃は作り笑顔ばかりで笑う事が下手だった恵那が、最近は良く笑うようになっていた。
それも、忍が共に行動するようになってから特に。
(恵那は、忍と居る方が自然な感じだよな)
忍は誰に対しても気遣えるし、性格も良い。
暴走族になんかなっていなければ、校内一モテているくらい顔も良い。
そんな思いが斗和の心の奥底にあり、恵那が信頼を寄せている所を目の当たりにして、何だか心が妙にザワついていく。
(最近、何かおかしい。二人がああして仲良くしてんの見ると、妙にイラつく……)
自分から忍に行動を共にするよう言ったくせに、それを密かに後悔している斗和は、そんな矛盾する自分の感情に戸惑いつつあった。
「悪ぃ、恵那。今日から暫く忍と帰ってくれ。忍には頼んであるから」
放課後、帰り支度を整えていた恵那に、斗和はそう声を掛けた。
「え? 斗和は?」
「あー、俺はちょっと、寄るとこあんだよ。だから、忍が来るまで外出んなよ?」
「うん、分かった」
「それじゃあな」
寄るところがあると言った斗和は忍が迎えに来るまで待っているよう指示すると、さっさと教室を出ていってしまう。
それから十分後、慌てた忍が恵那の待つ教室へ現れた。
「すいません恵那さん、お待たせしました! 帰りましょうか」
「忍くん。全然大丈夫だよ。寧ろごめんね、わざわざ来てもらって」
「そんなことないです! 恵那さんと話すの楽しいから、ぶっちゃけ会えるの楽しみにしてるんですよ!」
「そっか。そう言ってもらえて嬉しい」
恵那自身は一人で帰っても良いと思っているものの斗和に止められている為一人で帰る事はしない。
斗和も忍も都合がつかない稀なケースもこれまでに数回あったのだけど、その時はプリュ・フォールの誰かがわざわざ送ってくれた。
どうしてそこまで? と不思議に思っていた恵那は忍にそれとなく聞いたところ、プリュ・フォールをよく思わない連中に目をつけられ、もしもの事があったら大変だから一人にならないよう斗和がメンバー全員に周知したという事を知った。
恵那としては一人で居て危険な目に遭うより『えなりん』とからかわれる方が厄介だと思っていた事もあって、斗和の計らいを凄く有難く感じていた。
「そういえば、忍くんは斗和がどこに行ったのか聞いてる?」
学校を出た帰り道、ふと先に帰って行った斗和の事が気になった恵那は忍に聞いてみるも、
「いや、実は俺も詳しくは知らないんですよね。とにかく恵那さんを頼むって言われただけで」
「そう、なんだ」
「まあ斗和さんはチームのリーダだし、たまにこういう事もあるんで、連絡が取れてる限りは心配しなくても大丈夫ですよ」
「そっか」
だけど、この日を境に斗和は学校に姿を見せなくなった。