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来ないと言っても家出をしたとか、そういう訳では無い。
夜には家に帰っているし、朝は早くに出掛けていると斗和の祖父から聞いていた恵那。
学校をサボる事は恵那が来る前から日常的だった事もあって祖父は勿論、忍もさほど気にしてはいなかったものの、恵那だけは気にしていた。
斗和が学校に来なくなって二週間が過ぎた頃、恵那はふと、どこからか視線を感じるようになっていた。
「恵那さん、どうかしましたか?」
何だか常に監視されているような、どこか落ち着かない感覚を感じるようになってから数日が経った放課後、恵那の様子が少しおかしいと気付いた忍が声を掛ける。
「……その、気のせいかもしれないけど、実は最近、誰かに見られてるような気がするの……」
「見られてる? それは、学校でですか?」
「学校もそうだけど、登下校とか、家の窓から外を覗いた時とか、とにかく、あらゆるところで……」
そんな恵那の言葉を聞いた忍はふと足を止めると辺りをぐるりと見回し、
「……斗和さんにその事を伝えた方がいいですね。とりあえず急いで帰りましょう」
今のところ危険は無さそうだと確認するも、早めに斗和に伝えるべきと判断した忍は恵那の手を取ってやや足早に歩き出した。
そして、恵那の家から少しだけ離れた高架下に差し掛かった、その時、
「なぁ、お前はプリュ・フォールの一人で、その横に居るのがアイドルの恵那ちゃん……だよな?」
柄の悪そうな男数人が二人の行く手を阻むように現れた。
「誰だよ、アンタら」
前に三人、更に後ろから二人の男が恵那たちを囲むように立ちはだかる中、怯む様子も見せず、毅然とした態度の忍が相手に問い掛ける。
すると、男たちの中でリーダー格らしい肩まである金髪に黒のメッシュが入った男が忍に近付き、無言で胸ぐらを掴み上げた。
「し、忍くん!」
忍に掛かっている男の腕を払おうと手を伸ばし掛けた恵那は、
「おっと、恵那ちゃんは大人しくしてた方がいいよ? この人、キレると女相手でも容赦なく殴るからさぁ」
後ろに居た茶髪で刈り上げスタイルの男と黒髪短髪で眼鏡を掛けた男の二人に羽交い締めにされるような形で捕らわれてしまう。
「やだ、離してっ!」
「おい、彼女から離れろっ!」
すぐにでも助けたい忍は恵那を捕らえた男たちに掴みかかろうとするも、
「テメェは状況が見えてねぇのか? ちっと黙ってろや!」
「ぐはっ!!」
忍の胸ぐらを掴んでいた男は片手を勢いよく振り上げると、思い切り彼の顔面を殴り付けた。
「忍くんっ!」
殴られた忍は地面に倒れ込み、苦痛に顔を歪ませている。
そんな忍に追い打ちをかけるように、リーダー格の男の両隣に立っていた銀髪で長髪の男と金髪モヒカンスタイルの男が蹴ったり踏み付けたりしてダメージを与えていた。
「止めて! 止めてよ!! 何でそんな酷い事するの? 貴方たち何なのよ?」
依然として両腕を拘束されて身動きが取れない恵那は目の前で蹴られている忍を助けられない悔しさから涙を滲ませながら男たち相手にそう叫んだ。
「恵那ちゃんは随分威勢がいいのな? テレビで見てたのと印象が違うけど、俺は嫌いじゃねぇなぁ。寧ろ、こっちの方が好みだ」
リーダー格の男が恵那に近付き、下卑た笑みを浮かべながら彼女の頬に零れた涙を指で掬う。
「止めてっ! 触らないで! 近寄らないでっ!!」
そんな男の行動に鳥肌が立った恵那は顔を背け、ただ大声で叫ぶように言い放つけれど、
「おい、それくらいにしろ。死んじまったら寝覚め悪いだろーが」
特に何とも思っていないのか、忍を蹴り続けていた仲間に止めるよう声を掛けると、息も絶え絶えの彼の元へしゃがみ込んで髪を掴むと無理矢理顔を上げさせた。
「江橋に伝えろ。蛟龍のアジトで待ってる。女を助けたけりゃ、必ず一人で来いってな」
それだけ言うと再び地面に叩きつけるように手を離し、騒ぐ恵那をすぐ近くに停めていた黒のハイエースに乗せて、その場を立ち去って行った。
「……恵那……さん……っ、……」
一人残された忍の顔は腫れていて血だらけで、痛みから意識を失いそうになる中、何とかポケットからスマホを取り出すとリダイヤル機能で斗和に電話をかける。
『――もしもし?』
何度目かのコールで斗和が出たところで、
「……斗和、さん……、すい、ませ……ん……俺……」
『おい、忍? どうした? 何があった? おい!?』
恵那が攫われた事を伝えようとしたものの、それだけ言った忍はそのまま意識を失ってしまったのだ。