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外部からの指令を受け、ボク達はその場所に足を運んでいた。
苗「本当にこんなところに居るのかな…」
霧「さぁ…。 でも、少しでも可能性があるなら試してみるべきよ」
苗「……そう、だね」
ボクと霧切さん、十神クンは、いわゆる廃ビル、に居た。
辺りは一面薄暗く、錆びた鉄の匂いが広がる。
未来機関に保護され、『*絶望の残党*』を追ってきたボクだが、
やはりこの緊張感に慣れることはなかった。
しかも、その相手が。
苗「狛枝クン………」
十「………」
欠けた二年間の記憶を取り戻した今では、
少し、彼に会うのにも抵抗が生じていた。
でも。
ボクがやらなくちゃ、いけないんだ。
きっと、彼を救えるのはボクだけだから。
ふぅ、と一息ついて、自分の両頬を軽く叩く。
その様子を横目で見ていた十神クンが、
呆れたような、怒ったような顔で言った。
十「苗木、何かあったらすぐ連絡しろよ」
そう言って、トランシーバーを視線で指す。
苗「うん、任せて」
昔はあんなに傲慢だった十神クンも、
今ではこんなに丸くなっている。
別人みたいだなと思って軽く笑うと、
あ”ぁ?と睨まれてしまった。やっぱ変わってないかも。
そして、先を急ぐ二人の後につきながら進んでいるときだった。
苗「…………ッ!!」
その姿を見た瞬間、ボクは駆け出していた。
呼び止める二人の声も、
ボクの耳には入っていなかった…。
✽
「狛枝クン!!」
そう声を張り上げると、彼の方が一瞬震える。
そして、眼の前の人物はゆっくりと振り返った。
生きていたのが嬉しくて、
霧切さん達の忠告も忘れたまま、ボクは彼に近づく。
苗「狛枝クンっ、狛枝クン…だよね? 合ってるよね??」
苗「生きててくれて、良かった………」
そこまで言い、彼を見上げたその瞬間だった。
狛「苗木クン…」
気づいてしまった。
気づきたくなんてなかった。
いや、むしろ。
なんで今まで気づかなかったのだろう、と。
思ってしまう程に。
それだけ大きかった。
彼の持つ、その。
異様な負のオーラ。
苗「……… …え……………??」
狛「苗木、クンっ…… 苗木クン、だよ、ね…?」
狛「あぁ…会いたかった………」
狛「会いたかったよ、苗木クン…!!」
彼がそう言った瞬間、両頬を撫でられる。
いや、
掴まれる、の方が正しいかもしれない。
苗「ひ、ッ………!」
狛「まさかキミの方から来てくれるなんて… しかも、ボクなんかの名前を覚えてくれていたよね?? 明日死んでもいいぐらいだよ!!」
狛「………だって、キミは……」
狛「 『*超高校級の希望*』 、だもんね?」
そう言った彼は、
そう言った、彼は…。
希望と絶望がどろどろに交わり合った様な、
焦点の定まらない目でボクを見下げた。
苗「こ、ま、えだ……クン …………?」
………………違う。
……違う…。
違う。
違う…違う。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
彼は。
彼は………。
こんな目で、ボクを見ない。
こんな顔を、ボクに向けない。
こんなことを、ボクに言わない。
だって、彼は…………。
『*苗木誠*』を、見てくれていたんだ。
『*超高校級の幸運*』でも、『*超高校級の希望*』でもない、
ただ一人の、ボクを。
『*苗木誠*』を見てくれた。
なのに。
なのに。
なんで…。
苗「なんで、だよ…」
狛「… ん……?」
苗「狛枝クン… 違う、でしょ………」
苗「キミは……………」
苗「キミは、こんなことを言わない…!」
苗「言わないんだよ………」
狛「………」
狛「…そう、だね……。 確かにそうかもしれない」
でもね、と、彼は付け足す。
狛「…キミにボクの何が分かるの?」
苗「ッ………!」
その言葉は、深く、ボクの心に突き刺さった。
そのまま、頭の中で彼の言葉が反芻する。
あぁ、そうだ。
そうなんだよ。
結局ボクは、彼のことを何も知らない。
勝手に、知った気になっていただけ。
…それだけ、なんだ。
狛「まぁまぁ、話を戻そうよ」
狛「ボクは本当に、キミに会えて嬉しいんだ!」
今度は、手首を掴まれる。
その時、また。
知りたくなかった事実に気がついてしまった。
血のように赤く長い爪。
女性らしく、細く白い指。
…そんな、既視感のある左手。
あの、因縁の相手。
こんな状況を作り出した元凶。
……『*江ノ島盾子*』の左手。
狛「ん…? ……あぁ…」
狛「もしかして、”コレ”のこと?」
そう言って彼は、左手の甲を見せる様に、ソレを持ち上げた。
苗「なん、で……… なんで…?」
狛「……っ ……ふふっ…」
彼はソレを蕩けるような、そして睨む様な目で眺めながら、ボクに問い質す。
狛「…絶望したかい?」
苗「は……??」
狛「くっ、ふふっ……」
狛「あっははははっ…!!」
突然笑い出した彼に驚き、少し身構える。
狛「そんな身構えなくてもいいんだよ… それより、どうしてあいつの手が付いているのかって顔をしてるね?」
苗「………」
狛「はははっ …あのね、キミはあいつを倒した……いや、殺した…でしょ?」
苗「……」
狛「あぁ、一応言っとくけど、恨んでなんかはいないよ?」
狛「むしろ、キミの『*希望*』が輝くところを見れて光栄なんだ! だから、ある意味…あいつに感謝もしてるのかもね」
一人で完結をする彼に向かって、軽く睨む。
狛「あ…… ごめんね、話がずれてたね」
狛「んー…ボクはさ、 最終的に一つの結論に辿り着いたんだ!」
両腕を上げ、明らかに声色が高くなった彼。
そしてまた、ぐちゃぐちゃの目を向けながら、口角を上げて、言う。
狛「『*希望*』っていうのは… 『*絶望*』の、その更に先にあるってことに!!」
苗「…は……?」
狛「キミの希望が輝いたのは、『*江ノ島盾子*』という、絶対的な絶望が居るからだった」
狛「でも、彼女は今存在していない。 なら、どうするか…」
狛「……ボクが絶望になるんだよ」
そう言った彼は、口角を歪め、ボクに向き直る。
意味が分からなくて、信じられないぐらいおかしな理論だった。
でも、それなら。
彼がこうなった意味も理解できる。
だから。
苗「だから、彼女の腕を付けたんだね…」
狛「そうだよ! まさしく、『*絶望*』にふさわしいでしょ?」
狛「ボクも、あの忌々しい彼女の腕を付けるなんてしたくなかったけどさ… そうすることで更に、『*希望*』……キミが輝くってなら、してよかったとまで思えるよ!」
苗「………」
狛「あぁでも、安心して」
狛「…キミ達…… いや、『*超高校級の希望*』は、こんなものに負けないでしょ?」
狛「だから、大丈夫。 キミなら大丈夫だよ」
…どこが、安心、だよ……。
どこが、大丈夫、だよ…。
こんなの。
こんなの………。
苗「こんなの、ボクは望んでない!!」
いきなり声を張り上げたからなのか、少しきょとんとする彼。
でもそれは数秒で、
彼はうっとりとした、蕩ける様な目をボクに向けた。
狛「っ、はは……」
狛「はははははははははははははははははははははははっ!!」
狛「そうだよ、それが… それこそがボクが望んでたものだよ…!!」
狛「あぁ、やっぱり… キミはボクの期待を裏切らない……」
理解するまでに時間を要した。
気がつくとボクは、
彼の腕の中に閉じ込められていた。
狛「苗木クン…苗木クンっ……」
噛みしめるように、ボクの名前を呼ぶ彼。
狛「キミはどうして… そんなにボクを夢中にさせるんだろうね……」
狛「……大好きだよ………」
どれだけ抵抗しても、力の差には叶わなくて。
息ができなくなるほど、強い力でボクは抱きしめられていた。
…苦しい。
このまま死んでしまえたらどれ程楽だろうか。
でも、ハグなんかじゃ気絶や死亡にまでは至らない。
徐々に働かなくなっていく思考を必死に働かせているときだった。
霧「苗木君ッ!!」
聞き馴染みのある、強く芯のある声で、ボクは正気に戻る。
…その瞬間だった。
苗「…ッ!?」
今までボクを囲んでいたはずの腕は降ろされ、
ボクに伸し掛かる様にして、それは倒れてきた。
苗「いっ……!!」
霧「あぁ…それは考えていなかったわ。 お疲れ様」
嘘だ。あの霧切さんが気づかない訳がない。
麻酔銃によって眠ってしまった彼をなんとか退かし、床に置く。
苗「あの…霧切さん。 助けてくれてありが――」
霧「そうじゃないでしょう」
苗「え…?」
霧「……貴方はまず、私…いや、私達に何か、言うことがあるんじゃないの?」
彼女がそう言った途端、背後から十神クンが現れた。
何も言わなくても分かる。十神クン、めちゃくちゃキレてる。
いや…悪いのはボクなんだけどさ……。
苗「…すみませんでした」
精一杯の土下座をして、二人を見上げる。
十「……苗木、お前はいつになったら分かるんだ??」
苗「………すみません」
十「反省してるのか?」
苗「はい…」
霧「……苗木君」
霧切さんはそう言うと、ボクに数歩近づいてくる。
そして。
苗「い”ッ…!?」
ビンタをされた。
そりゃあもう、首が外れるんじゃないかってぐらいの。
霧「今までのお返しよ。 むしろ、これだけで済ませることに感謝をしなさい」
苗「…はい………」
霧「……はぁ…」
霧「本当、貴方はいつになったら分かるのかしらね」
十「一生学習しないだろ」
苗「それはちょっと酷いよ!」
十「…今の貴様に反論ができるとでも?」
苗「うぐ…… ごもっともです…」
正論をつかれる。反論なんてできる訳がない。
本当、この二人にはお世話になってばかりだな…。
この二人がいなかったらボクは、今頃どうなってたんだろう。
そう思わずにはいられないぐらい、ボクはこの二人に救われてきた。
苗「でも、本当に…… ありがとう」
十「……」
霧「…いいえ……」
霧切さんは軽く首を振ると、
立ち上がって、ボクを見下ろした。
そして、続ける。
霧「それが、『*仲間*』ってものでしょう…?」
横に居た十神クンも、視線を逸らしながら、言った。
十「…お前は人に迷惑をかけていればいい。 そっちの方が、お似合いだ」
相変わらず、侮辱されているのか慰められているのかわからない発言。
でも、数年側に居たボクなら、それを汲み取ることができる。
彼なりの、慰め。
素直になれない彼なりの言葉。
苗「…っ、はは……」
本当に、ボクには勿体ないぐらいの人たち。
でも、ボクを信じてついてきてくれてるんだ。
背中に温かいものを感じながら立ち上がる。
きっとこれからも、迷惑をかけ続けるだろう。
でも、ボクは絶対に負けないから。
だから、
だから…。
キミも救ってみせるよ。
…狛枝クン。
〚2024 11 23〛