家族3人が集まり、夕食を摂る。
一見、家族団欒している良い家族と思われるかもしれない。
だが、そこで母が発した言葉はとてもそうは思えなかった。
「私ね…、実は、お父さん以外に好きな人がいるの。」
母は途切れ途切れに言う。
父はそれを聞いて一瞬箸を止めたが、何事も無かったように「そうか。」と言ってまた箸を動かした。
ただ、私だけが混乱していた。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
父は怪訝そうな顔をして母を見やる。
「…この家を出ていこうと思うの。」
母はもう決めたのだろう。
母は、父以外の愛する人と共に人生を歩むことを。
父は止めなかった。
「アキラ、お前はどうしたい。」
今度は私の方を見て、問う。
「どうしたい」…って。
子供_しかも まだ小学五年生の子供が決められるようなことでは無い。
……実は、正直どちらでもいい。
だが母の方へ行ったとて、私の居場所は無いことは明らかだ。
そうなると、父の方へついて行くしか道は無いのだろう。
「アキラ、良いのよ。」
「お母さんの事は気にしないで。」
気にするものか。
なんだか裏切られたような感じと、重い何かがずんと乗った感じがして嫌な気持ちになった。
どの道、私に残された道はこれしかないのだ。
「ごめんね、お母さん。」
母は泣きそうな顔をしていた。
それから数日、母はあの言葉通り家を出て行った。
父は前と何も変わらない。
このまま2人で過ごしていくんだ。
そう思っていた。
母が家を出てから約1ヶ月。
父は言った。
「アキラ、お母さんが恋しいとか、そういうのは思わないのか?」
「特に思いません。」
「お父さんがいるから…。」
「…そうか。」
そう言ってから父は、 何かを言おうとして、口を閉じた。
それからしばらくしてやっと口を開いた。
「お父さん、新しいお母さんを見つけたんだ。」
薄々感じてはいた。
前よりスマホを見る時間が増えたこと。
帰ってくる時間が遅いこと。
なにより、帰ってきた時の父の顔が緩んでいること。
大人は勝手だ。
子供のことなんて考えないで事を進める。
でも、私に残された道はやっぱり父について行くしかないのだ。
1つ違うのは、私に居場所があるかどうか。
母が居なくなる時は、父という居場所があった。
だが、今や父も新しい人と人生を共にしようとしている。
そこに私が“息子”として居れるのだろうか。
相手によっては、私は“邪魔者”になるだろう。
こんな不安だらけの未来でも、やはり父について行くしか私は生きれない。
「そっか。お父さんも見つけたんですね。」
「ごめんな、お母さんと同じことをした。」
「…大丈夫ですよ。」
「お父さんと一緒に来るか…?」
「ただ、新しいお母さんにはお前と同じくらいの息子さんがいるらしいんだ。」
相手側に息子がいるなら、私は確実に“邪魔者”と化すだろう。
でも、逃げ場が無い。
「それでも大丈夫です。私は。」
「そうか。」
「辛い選択をさせてしまって悪い。」
父は私を抱く。
何年ぶりに抱いて貰っただろう。
父の暖かさが私を包む。
これから私はどうなるのだろうか。
そんな不安が頭をぐるぐると駆け巡っていた。
コメント
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めっちゃすっきゃねん嬉しいです!!( ߹ㅁ߹)✨ ありがとうございます!(*´︶`*)
めっちゃすっきゃねん