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緑目線です。
↓本編
車は走り慣れた平坦な田舎道を走っていた。
桜で賑わう三月だというのに、午後の空は暗い。
俺の手には今、古い型の車のハンドルが握られている。それをギターに持ち替え、数時間後には生まれて初めてライブに出演することになっていた。
車の後部座席にはケースに入ったエレクトリック・アコースティック・ギターが積み込まれている。それはかつて魅來音ちゃんの持ち物で、今は俺が管理しているものだ。
「それで二人は、本当のところどうやっ
て出会ったの?」
助手席には最愛の“彼女”がいる。その彼女が魅來音ちゃんと俺のことを尋ねてきた。
魅來音ちゃんと俺はこの田舎町の出身だ。俺の世代で魅來音ちゃんのことを知らない人は少ない。
高校卒業と同時に広い世界へと羽ばたき、やがて誰もが知るような歌手になった。
そんな魅來音ちゃんと俺は高校生のある時期、一緒に歌を作っていた。
世界から見捨てられたような古い部室棟にある、文芸部の部室で。
「もうそろそろ、そういうことを話してくれてもいいんじゃない?」
薄く乾いた光を浴びながら、車は目的地に向けてまっすぐ進んでいる。赤信号でとまったということもあって、俺は助手席の彼女に視線を移した。
俺はあまりおしゃべりなタイプではなく、人に聞かれても魅來音ちゃんのことは話さないようにしていた。
そうした中で助手席に座る彼女だけは例外だった。
彼女にはこれまで、せがまれるままに魅來音ちゃんとのことは何度も話してきた。
その意味があったからだ。
しかし、魅來音ちゃんと俺が出会ったのが、高校生という多感な時期でもあり、恥ずかしさ故に省略して話していた部分も多くあった。
一部の同級生からは勘違いされたこともあったけど、当時の俺と魅來音ちゃんが恋人同士だったという事実はない。
魅來音ちゃんは昔から曲を作っていた。でも、歌詞が書けなかった。そこで詩を書いていた俺が少し複雑な経緯で歌詞を提供して、一緒に歌を作り始めた。
それだけのことだった。
車は予定よりも随分早く目的の場所に着いた。
そこは俺と魅來音ちゃんが高校時代に通っていたレストランだ。
ライブハウスではなく、魅來音ちゃんはそのレストランで歌を披露していた。
車のエンジンを切ると車内に静寂が広がる。助手席の彼女は道中の質問に俺が応じなかったことに不貞腐れ、それでも諦めなかった。
「私にはきっと、そういうことを聞く権利があると思うの。だからお願い。これでしばらく、会えなくなるかもしれないしさ」
会えなくなる……か。
曲と歌詞のように、二つで一つにしかなれないものがある。
思えば人の出会いと別れもそれに似ている。
俺の人生には、魅來音ちゃんのことを考えたり口にするたびに傷ついた時期があった。
それが今は過去のこととして普通に考えることが出来るようになっている。
記憶の中ではどんなことでも一瞬だ。
自分と向き合い、観念した俺は口を開く。
「俺が魅來音ちゃんと出会って、初めて会話したのは──」
魅來音ちゃんが歌っていた時のようにまぶたを閉じ、当時のことを思い出そうとする。
出会った日のこと。笑い合った日のこと。涙をこらえ、別れた日のこと。
もうけっして戻らない、魅來音ちゃんとの日々を……。
ものすごく長くなる予感。( ᐛ )