コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
依頼の件が全て終わり、愛する彼との愛の巣に帰る途中。胸を弾ませながら早足で向かう。向かいからフードを被った人が歩いてくる。こんな時間に珍しいなとか思いながら気にせず歩く。残酷な現実を叩きつけられると知らずに。
「ただいまぁー!」
いつもはエプロンにある手拭いで水滴を拭きながら歩いてくる愛くるしい姿が今日は現れない。疲れて寝ているんだろう、きっと。
リビングに歩きながら向かう。電気をつけずにゆっくりと。藤士郎を起こさないように。
リビングの扉を開けるとそこには、背中を滅多刺しにされた愛人の姿があった。
「藤士…郎?なんだよ、これ…」
目の前には体を丸めて何かを守っている愛人の姿。背中には何個も刺し傷があり、とても見ていられなかった。
すぐ彼に近づく。ぐったりした彼が守っていたのは彼が大切に育てていた魔だった。
魔はこちらを見ると悲しそうな顔をして出てくる。そのまま彼の手を頭にのせ、すり寄ろうとする。
「…藤士郎」
まだ息をしている彼に話しかける。息をしていると言っても虫の息だが。彼はまだ喋れるようで俺の名前を聞こえるか聞こえないかの声で呼ぶ。それに返事をする俺。昔の関係を不意に思い出し、泣きそうになる。
「け、くん…」
「すぐ救急車呼ぶからな」
「い、ままで、ありが…と」
「…は?おい、とうじろ」
「ぼく…し、あわ、せ…だったよ?」
「ま、をよろ、しく…ね」
「あいしてる」
そう言い残しこの世を去る彼。信じられなかった。否、信じたくなかった。何度呼んでも返事は帰ってくることなく、静寂の中に呑み込まれる。
魔がいつの間にか消えていた。きっと魔もこんな現実に目を向けたくなかったのだろう。
救急車を呼び終わり、彼に近づく。体を仰向けにすると、俺がプレゼントしたエプロンを着ていた。料理をするところだったのだろう。
エプロンを着てくれている嬉しさを、腹部にある紅い液体で全ての感情が無になる。
「苦しかったろうなぁ…俺がもっと早く帰ってれば」
「一生守るって言ったのに」
そんな言葉を次々に発する。すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り向くと、魔がこちらを悲しそうな眼で見つめる。
口に咥えているのは花だろうか?部屋が暗くてよくわからない。魔が加えているものを彼の胸の上にのせる。それは滅多に咲かない治療の花だった。
「魔…それ…」
「今さっきの短時間で見つけてきたのか?」
「…マゥ」
魔が持ってきた花が胸に置かれると、彼は嬉しそうな表情になる。魔はその表情を見て嬉しそうに姿を消した。
「藤士郎、初恋の人。元気か?俺は元気にやってるよ」
墓の前で呟く。あれから何年もたった。藤士郎を殺した犯人は捕まって、藤士郎の葬式をして、いろいろあった。今は実家に帰って生活をしている。
「……帰ってこいよ、藤士郎」
「晴も、俺も、お前の後輩も、神様も、全員待ってる。お前の帰りを待ち望んでる。」
「いつもの笑顔で嘘でしたって、生きてますって、言ってくれよ藤士郎」
「意地悪な笑顔で、頼むから、お願いだ…」
その場で泣き崩れる俺。そんな俺を見兼ねたのか、後ろからは懐かしい笑い声が俺の脳に鳴り響いた。