タイトル:風の鳴る森で
夏の終わりを告げるように、夕方の風が森を揺らしていた。
真理子は、誰にも言わず一人でキャンプ場に来ていた。といっても、隣には“ある男”がいた。彼の名は佐伯、年上の、会社でも少しだけ噂になっていた営業主任。だが今は、そんな肩書きも過去も意味を持たなかった。
「こんなとこまで来て、大丈夫か? 俺たち。」
「……だからいいのよ。誰にも見られない、聞かれない。自然の中なら、全部許される気がするから。」
木々の間から差し込む夕陽が、彼女の肌を琥珀色に染める。佐伯はその姿に、初めて出会ったときとはまったく違う、獣のような衝動を覚えていた。
二人は森の奥へと足を踏み入れた。焚き火の明かりからも離れた場所。そこはまるで世界から切り離された空間だった。
「風が気持ちいい……」
真理子が後ろを向いて呟く。その横顔を見た瞬間、佐伯の我慢は音を立てて崩れた。彼女の肩を引き寄せ、背後から抱きしめる。汗ばんだ肌と肌が重なり、布越しの体温が確かめ合うように移動する。
「ここ、外だぞ……」
「だから、燃えるの。」
耳元で囁かれたその一言が、彼の理性を一気に焼き払った。
風が葉を鳴らす。小鳥の声すら遠のく。彼女の指が、彼の手を自分の胸元へ導いたとき、自然はすべてを見守るだけの存在となった。
シャツがずれ、ショートパンツが地面に落ちる音さえも、風に消える。草が揺れる。土の匂いと彼女の髪の匂いが入り混じり、甘く鼻をくすぐった。
「……佐伯さん、ちゃんと見てて……外でも、私、綺麗でしょ……?」
声が震えていた。恥ずかしさ、背徳感、でもそれ以上の快感が、彼女の中で渦を巻いている。
「こんなに……誰かに見られるかもしれないのに、なんで……こんな……」
彼女の腰が揺れるたびに、草がこすれる音とともに、小さな喘ぎが漏れた。佐伯は彼女の背を撫でながら、そっと耳元で囁く。
「俺が全部、受け止める。ここにあるお前を、ぜんぶ。」
風が吹き抜ける森の奥で、ふたりは何度も肌を重ねた。
空が夜に変わるまで、月がその行為を静かに見下ろしていた。
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