彼女の隠し事が気になった陽翔は、百子と愛し合った後に掃除の残りを終わらせ、夕食を取ったあと、彼女がお風呂に入っている間に自分が保存した証拠映像を眺める。他人の情事をまじまじと見る趣味は無いが、気になったので仕方ない。見たところでどうにもならないのかもしれないが、何故か自分の勘は証拠映像を見ろとけたたましく騒ぎ立てるのだ。
(まあ元彼も浮気相手の顔も知らないのなら対策もできないしな)
騒ぐ勘の正体を自分なりに合理化した陽翔は、ベッドの二人が百子を目撃して固まったところで違和感を覚えて動画を止める。何故そこで止めたのかは不明だが、止めないといけない気がしたのだ。
(だめだ。やっぱり分からん)
陽翔は手足をソファーに投げ出して目を覆う。彼女の憂いの元は何なのかが結局不明なままなのだ。
(……ちくしょう、忘れてた)
陽翔は閉口しながら今度は音付きで問題の部屋のドアが写ったところから再生する。陽翔はスマホをサイレントモードにしていたことを失念していたのだ。ベッドのきしむ音と喘ぎ声が生々しく陽翔の耳を打ち、歯ぎしりをしたいのを我慢しながらスマホを睨む。こんな状況の中で一人で耐えていた百子が憐れで仕方がなかった。彼女の押し殺したような声も少しだけ録音されており、陽翔は膝の上で握った拳がぶるぶると震えるのを感じる。
カメラは生まれたままの男女を無機質に映し、一度ぶれがあったが、今度は驚く男女にピントが合う。百子がドアを勢い良く開けてスマホの位置が安定しなかったのだろう。彼女が元彼達に向けた抑揚のない声が却って恐ろしく感じられる。百子の声が終わると急に床が映り、その後は元彼が百子を呼ぶ声と、浮気相手の高い声が元彼を呼ぶ声がしていたのだがここで映像は途切れている。
(元彼はヒロキと呼ばれてたな。そういえば百子もそう言ってたような気がする)
百子を泣かせた元彼なぞ忌々しいだけだが、陽翔は自分の中にあった違和感の正体が、まるでパズルのピースが揃って形作られる感触を覚え、再び動画を戻して忌まわしいシーンを見続けた。
(まさか……? そうか……そういうことか)
動画を再生し終わった陽翔は何かを決意したようにソファーを立ち、パソコンを起動させた。
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