その時だった。
「最原君、百田君!!」
急にそう呼びかけられて振り返ると、そこには天海くんがいた。
「なんだか2人とも慌てた様子だったから心配して追いかけてきたんすけど…」
天海くんはちらりと百田くんを見やる。
「どういう状況っすか、これ」
「…えっと…天海くん、実は」
「っていうか最原君!カッターそんな風に持ってたら危ないっすよ!」
「終一のカッターは刃が戻らねぇんだ!」
「えっ!?どういうことっすか!」
そう慌てる天海くんはかっこよくて可愛かった。
うーん、なんだか百田くんより格好良く見えるような…
ていうかなんでそんな失礼なこと考えてるんだ。
でも、そう思わずにはいられないくらい天海くんが魅力的に見えた。
すると視線に気づいた天海くんがこちらを見た。
「最原君?どうしたんすか、ぼーっとして…」
「やっぱり風邪なんじゃねぇか?」
「えっ?…ううん、大丈夫だよ…」
「いや、絶対大丈夫じゃねー」
「そうっすよ。俺もそう思うっす」
2人の言うように大丈夫じゃないと感じていた。
でも、今の所解決策も見当たらないし、どうしようもない。
「やっぱり…熱あるんじゃないすか?」
天海くんはだんだん近づいてくる。
ちょっと失礼するっすよ…と、
その時だった。
僕の額を触ろうとした瞬間。
ヒュン!
「…え?」
カッターが天海くんの顔の右側を横切り、空を切っていた。
天海くんの髪が、地面にはらりと落ちていく。
「おい終一!お前自分が何したか分かってんのか!?」
「えっ…!?天海くん、ごめん!!」
「謝ってすむ話じゃーって、止まれよ終一!」
でも手が止まらない。
僕は次から次へと攻撃をつづける。
「どうしたんすか最原君…!」
幸いなことに、天海くんには当たらなかった。
「嘘だろ…!止まってくれ!」
「一旦逃げるっす!悪く思わないでくださいっす最原君!!」
「うん…!逃げて天海くん!!」
このままじゃやばい…本当に…!
僕は自然と天海くをんを追いかけていた。
「おい、どこ行くんだよ!」
「ごめん百田くん!…赤松さんを捕まえといて!」
「お、おう!あんまりそういうことすんじゃねーぞ!!」
「ありがとう…頑張るよ!」
さて、どうしよう…
「天海くん…!」
「どうしたんすか?」
「ほんと、ごめん…朝からこんな調子で…」
「…」
「それで、こんな状況で話なんだけど…」
「…なんすか」
「僕と…付き合ってくれる?」
「…」
「は?僕、今なんて…」
自分で言って自分で疑問を持ってしまった。
耳を疑った。
「なんで何も言わないんだよ、天海くん…!」
「それは…っすね…」
…天海くんは答えない。
「…あ、天海くん、どうしよう…」
「どうしたんすか?」
「さっきから言動が僕じゃないような感じなんだ…僕が意図してやろうとしていないんだよ」
「つまり無意識って事っすか?」
「うん、そうなんだ」
「それは…原因が分からないし、俺にはどうしようもないっす」
「そんな事より!天海くん、返事は…!?」
「…」
「天海くん!!なんで答えてくれないんだよ!」
「これは…深刻なことになってきたっすね…」
「ねぇ天海くん…どうして…!」
…あれ、一瞬意識がもってかれたような…
「…ねえ、今も僕なんか言ってた…!?」
「…特に何も言ってなかったっす」
「そうか…よかった」
こんな調子で本当に大丈夫かな…僕。
もう治らなかったりしてー
いや、ダメだ。それは1番考えてはいけない。
「何か治す方法はないっすかね?」
「うーん…」
「そうだ、まずこの症状に名前をつけてみるのはどうすか?」
「え、名前?」
それでどうにかなるのか…?
「はい。自分の今の症状を整理することで何が見つかるかもしれないじゃないすか!」
「…確かに」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいっす…」
「え?」
すると天海くんはすぐ近くにあった教室に入っていった。
当然僕も追いかける。
そして天海くんが出た瞬間…
ピシャッ!!
目の前の扉が閉められた。
「うわっ!」
するとその奥からこもった声が聞こえてきた。
『大丈夫っすか、最原君?指とか挟んでないすか?』
「えっ…うん、大丈夫だよ…」
『よかったっす。それにこの状態でも互いの声が聞こえるし、この状態の対談でいいすか?』
そういう事か…これなら両方に危害は滅多なことでは起きないはず。
「確かに、この方法ならカッターの刃は通らないし…いいと思う」
『ありがとうっす。じゃあ、今朝あったことから振り返っていくっすよー』