アバロンオブラグナロク城の内部。煌びやかな、不気味に冷たい雰囲気を漂わせる回廊を進む萌香は、ついにその扉の前に立った。扉には重厚な金属製の装飾が施され、その上には異形の龍の模様が刻まれている。それを目にした瞬間、萌香の心臓は少しだけ早く鼓動を打った。
「ここが……」
その扉の先には、現当主と呼ばれる人物が待っている。アバロンオブラグナロクの支配者であり、恐れられる龍神の化身、龍神。彼は王国で絶対的な権力を誇り、貴族たちの間でもその名を口にすることさえ恐れられている存在だった。萌香は、いわば彼の嫁であり、その命令に従わなければならない立場でもあった。
扉を開けると、そこには壮大な玉座の間が広がっていた。玉座には、優雅でありながら威圧的な雰囲気を放つ一人の男が座っている。その姿はまさに王のようだ。
彼こそが、龍神。
長い黒髪に鋭い赤い瞳を持つその男は、鋼のように冷徹な眼差しを放ちながら、萌香に視線を向けた。その目には、何とも言えない威圧感があり、萌香は思わず一歩踏み出せなかった。だが、次の瞬間、龍神は静かに口を開いた。
「萌香、また魔物を倒してきたのか。」
その一言に、萌香は少しだけ安堵の表情を浮かべた。彼の声は冷徹ではあったが、どこか無関心なようにも感じられ、少しばかり心の中で力を抜くことができた。
「はい。魔物討伐の命令通り、無事に任務を果たしました。」
龍神は一瞬、まばたきもしないほど静かに彼女を見つめた。
「本当に、無事にか?」
その言葉に萌香は少し戸惑ったが、すぐに答えた。
「ええ、無事です。私は──」
「無事だからこそ、私はお前に課せた試練を続ける。」
龍神の声には冷たい決意が込められており、その言葉に萌香は再び緊張した。試練? 彼女はこの王国で生き抜くために、何度も命令に従い、戦い続けてきた。それでも、龍神の期待に応えることができるのか……。
「お前には、私の後継者としての役目がある。」
その言葉に、萌香は一瞬耳を疑った。後継者? 彼女が?
「貴族嫁として、王国の内情を学び、私を支える立場に立つ覚悟を持て。」
「私は……後継者? それはどういう意味で──」
「私の意志を受け継ぐ者が必要だ。」
龍神は淡々と語る。彼は、ただ支配するだけではなく、強い王国を築き上げるための後継者を育てようとしていた。そして、その後継者として萌香を選んだのだ。
萌香は驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻すと、真剣な面持ちで龍神を見つめ返した。
「私は……まだ、そんな覚悟が──」
「お前の覚悟は、今ここで決まる。」
龍神の冷徹な目が、さらに鋭くなった。その一言が、萌香の心にずしりと重く響く。
「もしもお前が私の後継者にならなければ、王国の未来は無い。」
その言葉が、萌香を震わせた。彼女の心の中で、迷いが生じる。彼女がその役目を担うべきなのか、いや、担えるのかと。その役目に、恐れを抱いていた。だが、何も答えずに立ち尽くしているわけにはいかない。
「……わかりました。」
萌香は、龍神を見つめながら答えた。その眼差しには、まだ決意が固まったわけではないが、少なくともこれからの試練に立ち向かう覚悟を決めたように見えた。
「私は、あなたの後継者となる覚悟を持ちます。」
その言葉を聞いて、龍神はほんの少しだけ口角を上げたように見えた。
「良いだろう。だが、その覚悟を試す試練は、これから厳しいものになる。」
龍神はその言葉と共に、冷徹な笑みを浮かべ、玉座に背を預けた。
「準備はできているか、萌香。」
萌香は、再びその目を強く見開き、決意を固めた。
「はい。」
そして、彼女の新たな試練が始まる――。
コメント
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(・∀・)イイネ!! 続きがはやく読みたい!