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話が脱線してしまったが、月を見て思い出すことはそればかりだ。母は月を見るのが好きだったから尚更悲しい。
眉を歪ませ、目から血の涙を流した。
「おい、ヒロキ。聞いているのか?」
正面から男の野太い声がした。
彼は六年間監獄に通い続けている上司、ジョナサンだ。四十代くらいの男性で、金髪のサラサラヘア。前髪は右に流れていて、後髪は整えられている。強面な顔のせいか、看守長には「厳ついゴリラ」と呼ばれていた。見た目は怖くて近寄りがたいが、案外話しかけると非常に気さくな人だ。仲間のことをしっかりと見ていて、アドバイスもくれる。まさにリーダーとして相応しい人物。
彼のしかめ面を拝見したくないので、慌てて涙を右腕で拭き返答する。
「申し訳ありませんでした。もう一度お願いします」
「お前はここに来るの初めてだろ? 仕事を一から教えないとだな。着いてこい」
「そうですね」
こくりと頷く。
僕はここに初めて来たばかり。仕事の内容は囚人の監視くらいしか教えもらっていない。そのため今いるのが船の上ということくらいしか、理解できない。見下ろすと暗くて、穏やかな波。光を飲み込みそうなどす黒い海が広がる。
地上にいるので平らであり、漆入りのペンキ塗りステンレスに包まれた機械が設置されている。この船を動かすエネルギーを生み出す装置。エンジン暴走を止めるための制御装置などだ。そして一番目立つのが、たくさんの白色ヘリコプターが規則正しく置かれているところだ。
囚人に盗まれないため下にある空洞に入れることもあるが、ほとんどは出しっぱなし。ヘリコプターの足に鎖がついているだけの、杜撰な整備である。
前には地下へ行くための鉄の扉があり、僕たちはそこへ向かっている。
ジョナサンによれば、ここは一階らしい。屋上というのも別であるらしいが、そこは新人が使うことはほぼないということで、スルーしている。
「さてと、ここを最初に紹介しよう」
地下一階廊下の奥まった場所に監視室があった。そこに来ている。まさか監視室へ行くためには、看守しか通れない隠し扉を通ることになるとは。
まあ、そうか。囚人が脱走してこんな場所使われたら、機能が奪われて混乱するもんね。
僕は一人でうんうんと頷いてから、彼の言うことに耳を傾ける。
「監視室はこの船の中で最も重要な場所だ。囚人一人一人を毎日観察し、脱走しないか確認する」
「脱走したらまずいですもんね」
「その通り。脱走した場合、ここにいる奴らは殺人を一度犯した怪物どもだ。看守全員殺されて死んでしまうかもな」
「はぁ……」
そんなことがあり得るのだろうか。
現実味がなさすぎて、深いため息をつく。それよりも聞きたいことが一つある。
「それで仕事内容は? ここの監視ですか?」
「いや、監視はベテラン看守しかしない。お前の仕事はD級囚人監視のみだ。監獄は地下三階にある」
「D級?」
「囚人は主にSからDに分かれている。これは危険度を現す。覚えておけ」
「はい」
どうやらSが最も危ないので他の檻から隔離されており、Dは比較的緩いらしい。緩いといっても規則が他より少し緩いだけ。檻と檻の間は、薄い穴あき壁で仕切られているという。
「新人のお前は檻を周回して、脱走していないか見張る仕事だ。大変ではあるが、頑張るといい。分からないことがあれば、他の看守に聞け」
「承知しました」
話を書き終えた僕は軍隊の如く、敬礼をした。この場所で長く働けば、僕を殺そうとしてきたアイツに会えるはずだ。
「ちなみに6ヶ月は家に帰れないがな」
「大丈夫ですよ。家に帰っても一人……僕に相応しい仕事です」
誤魔化すように微笑み返す。