拝啓、偉大なる貴方へ
お元気ですか。こちらの状況は刻々と悪くなりつつも強く生きております。
本土に強烈な打撃があったと報告を受け、手紙を送った所存です。
何故この手法を取ったのかの言及はあまりなさらぬようお願いいたします。
私は貴方との出会いで大きく変わりました。
何度も貴方を目標にして、その度に飛躍する貴方に追いつけないという無価値な競争を、ずっと1人で行っていました。
やはり先を行く貴方を、私は何度も羨ましく思いました。
貴方は、私にはない力を幾つも持っていると、何度も自覚させられました。
戦線からの引き揚げ、更に司令部への格上げが行われた一名のお陰で、また目標が増えたのは別の話ですが。
話は変わりますが、またいつか旅でもしにいきましょう。
今度は危なっかしい素人運転ではなく、きちんとプロが運転する車で。
スイーツのお店に立ち寄ったり、現地の名所を巡ったり。
しかし、貴方は動かない方がお好きでしたね。それでも連れて行く気はありますよ?
甘いものと言えば、もうすぐこちらのココアの在庫が切れそうです。余裕があるようでしたら至急、補充をお願いします。
この戦いの後に大量にスイーツを食べるとも取り決めていますので、戦況が好転して押し切れそうなときはマカロンも買い込んでおいてください。
もちろん貴方の分も。正々堂々内ゲバして好きな味を勝ち取りましょう。
もうそろそろ時間が来そうです。
では、また会える時まで。
防衛戦線司令部
JK深緑 敬具
やっと書けた。伝えたいこと全てではないが、それでも最大限の欠片を。
「新入りくん、」
近くにいた白髪の子を呼んで、封をした手紙を持たせる。
「これは…?」
「総統に絶対届けてね、俺からの最後の命令」
困惑した表情を浮かべる彼の手をぎゅっと握る。この子を不安にさせちゃいけない。
ここから本土までは遠いが、きっと彼ならやり遂げられる。
「…了解しました、」
初々しい返事に口元が綻ぶ。
その子は返事だけすると、直ぐに本土側へと走り出した。
近くに置いていた軍帽を被り、相棒の近くに寄る。
相変わらずの目つきの悪さにはもはや脱帽の域だが、それがまたこいつらしかった。
外道___。誰がそんな異名をつけたのか知らないが、言い得て妙な二つ名だ。
「敵は?」
「殲滅する気だね、あの数で分かる」
「包囲はどう?」
「心配なさそう、あの子は脱出できるよ」
「そっか」
ちら、と相棒を見る。彼もまた示し合わせたかのように見てくる。
「何」
「いや、変わらないなぁって」
「お前もね」
指令台に立ち、率いる大隊のメンバーを一望する。
俺は大きく息を吸って、今まで以上の声で告げた。
「この戦線を守り抜くのが我々の仕事だ!何が何でも生き延びよ!」
ザッと皆が足を揃えて敬礼する。そんな彼らに敬礼して指令台を降りた。
絶対死んじゃダメだ、総統がよく口にする言葉だ。
こんな勝ち目のない戦線でも、俺の奥底に響いてる。
「勝つよ」
隣の相棒が静かに口にする。
「…お前が言うなら、やらなきゃね」
あいつと俺がすれ違う。グータッチで覚悟を決める。
いつも以上の勇気で、無線から全部隊に告げた。
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