けふです。
仕返ししたい赤葦さんの話。
ちょっと暗い(?)かも。
あ、ちなみに蛍ちゃんはSubをでろでろに甘やかすけどルール破ったら容赦ない超絶束縛タイプのDomでs((殴
なんて時間に投稿してやがるこいつと思うかもしれませんが次浮上できるのいつかわからないのですみません。
あと長いです。(約7100字くらいですかね)
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何の予告も行われなかったSub交換事件について赤葦が最も早く愚痴を言ったのは、東京から遠く離れた宮城にいる、烏野高校1年、月島蛍だった。
「それでさ、あの後すっごいたくさんケアしてくれたんだけど、なんかそれで許すのってちょっと癪じゃん?」
『いや、ちょっとっていうか僕だったら絶対許さないんですけど…』
「あ〜…それはまあ、うん」
赤葦にとっては月島はただの良い後輩だが、月島からすれば赤葦は驚きが隠せないほど無防備なSubでしかなかった。現に、今はケアをしてくれる木兎もいないのに、画面越しとはいえ何をするか分からない上にパートナーもいないDomへ呑気に電話など掛けているのだから、よっぽどだ。
「というわけで、月島さ〜、ちょっと明日東京来てくんない?」
『え、なんでですか嫌ですよ』
「あ、オフではあるんだ?」
嵌められた、とでも言いたげな顔をして月島が沈黙し、赤葦はそれを見てからからと笑った。
『……分かりましたよ。行けばいいんでしょ』
「やった〜♪」
『それじゃ、切りますね』
「は〜い、」
通話終了後、しばらく宙を見つめていた赤葦だが、なぜか悪寒を感じて震え上がった。
「うう…絶対月島だ……」
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月島side.
通話が終わった後、すっかり赤葦さんに手玉に取られてしまったと内心舌打ちしながら、頭では何を着ていこうかもう考えていて、それが癪で仕方がなかった。
「……あの人、僕に食われる可能性とか考えてないのかな…」
翌日、朝早くに新幹線で宮城から東京まで来ると、雪も降っていないのに肌を刺すような寒さが目に沁みる。乾燥ってこういうことか、なんて1人で納得しながら赤葦さんの姿を探す。あのあと、念押しのついでにさらに交通費全額立て替えとショートケーキを追加されては、来るしかないではないか。断じて、ケーキに負けたわけではない…はず。
「あの人一体どこに………………いた」
「月島〜!」
なんだこれ…今日の赤葦さん犬…犬なのか…??
というか木兎サンになんて言って出てきてるんだこの人…先が思いやられる…。
「月島、急にわがまま言ったのに来てくれてありがと」
「いえ、別にこれくらい…ブロック練習よりは急じゃなかったですし」
「それはそうかもね笑」
それでさ〜、と話し始めた赤葦さんの話は全く頭に入らず、全神経が赤葦さんがいる側の皮膚に集中していた。それにしても、なぜ今になって最初に頼るのが僕なんだろう、という疑問が頭の中をぐるぐるする。一体何のつもりで、僕みたいな危ない人間に心を許しているんだろう。ふと考えてしまった“悪い事”は全然消えてくれなくて、テストで解けない問題にぶち当たったみたいにどんどんと深く沈み込んでいってしまう。
「…、月島?おーい、月島ー。……蛍!」
いつの間にか僕らはラブホテルの前まで来ていて、隣にいたはずの赤葦さんは僕の前で少し背伸びをして視線を合わせていた。
「……へ、っ?」
やばい、変な声出た。いきなり名前呼びとか、反則すぎる。しかも首傾げて僕の顔覗き込んできてるんだけど。これ誘ってる?流石にアウトだよね??
「俺の話、聞いてた?結構大事なこと言ったんだけど」
「いや、えっと、その…すいません、もう一回お願いします」
もう、と頬を膨らませた赤葦さんが、一瞬でその気配を変える。
「…ふふ。吃驚してるね。でも、普段通りで俺の話聞けないなら、“こう”でもしないと駄目かな、?」
「…赤葦さ、ん」
蠱惑的な、いたずらっぽい微笑が、この人の綺麗に整った顔を熱で浮かされたように薄く染めた。
「……俺、木兎さんに仕返ししたいんだけど。手伝ってくれるよね」
ああ、僕のこんな劣情は、とっくにこの人にはバレていたんだろう。支配したい、誰にも渡したくない、誰にも見つからないように隠しておきたい、そんなことしか考えられなくなる。時に、強いSub性は相手のDomの力を引き上げ、欲を引き出すこともあるらしい。
「……僕なんかで良ければ、ですけど」
必死に理性で覆い隠していた気持ちが、引きずり出される。
「ほんと?ありがと、月島!」
この無防備なSubに、Domがどういうものか、教えてあげなければ。
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赤葦さんに連れられて入った部屋は一見すると普通のホテルの部屋ように見えるけれど、毛足の長いふわふわのラグだとか、2人用の部屋にある1人掛けのソファだとかが、控えめにダイナミクスの気配を主張している。
「…赤葦さん、」
「あ、待って」
しばらくお互いに黙った後声を掛けると、すぐに遮られた。そのまま、再び熱っぽい目線を僕に向けた赤葦さんは綺麗な指で自分のことを指さし、
「“赤葦さん”じゃなくて“京治”って呼んでよ。俺も月島じゃなくて蛍って呼ぶからさ」
なんて妖艶に囁いてみせる。
「……わかりました」
「あ、敬語もなしだからね」
「え…あー…うん……」
はやくはやく、と、京治が視線だけで僕にCommandを強請る。欲に塗れていても、鳶色がかった瞳はとても綺麗で、この硬質な輝きを快楽で蕩かしてしまいたいと思ってしまう。
「……京治、Safeword」
「あか、でいい?」
「うん、ちゃんと決めれて偉いね。Goodboy」
Rewardと一緒に頭を撫でれば、京治はふにゃっと幼い笑みを零す。ああ、可愛いな。もっと笑って欲しい。もっと嬉しそうにして欲しい。もっともっと、壊れるくらいの幸せをあげたい。
「けぃ……すき」
「…僕も、好きだよ。大好き」
きっと、この人は僕に本当に気持ちを寄せることなんてないんだろう。だから、この気持ちは隠したまま、今だけ。
「京治、“kneel”」
「……っ」
僕のCommandで、あの赤葦京治が嬉しそうに目を細めて享楽に浸っている。
「“come”」
「ん……」
急速にDomの欲が満たされるのを感じる一方、もっと、もっと、と、留まることを知らず薄暗い欲が心の底で膨れ上がる。駄目だ、それは駄目だ。これは、一度踏み込んでしまえば、もう戻れないやつだ。理性が警鐘を鳴らす一方で、本能はほとんど能動的により強い快感を求めてしまう。
「……っ…京治、…“kiss”」
「……ん、っ…」
ふっと、京治の目から理性の色が薄れる。それを見てわざとくちゅくちゅと水音を響かせてやれば、塞がれた口からくぐもった色っぽい声を出して体を揺らした。
「ん……っは、ぁ…京治、煽るの……上手だね?」
「ひ、ぁ…っけい、」
気まぐれに耳を舐めてみれば、震えた声でしっかり喘いでみせる。本当、よく躾けられたSubだ。一瞬、脳裏に猛禽類の瞳がよぎる。この人のDom。バレーボールの神様に愛された、天性のDom。その姿は確かに同じDomである僕にも遠くて鮮烈だけれど、この人にその気配が漂うのは、どうにも気に入らない。
「……木兎さんのことは忘れなよ。今は、僕だけ見てて、京治」
「っ、ふふ…けい、かっこいいこというね」
「…っ煽んないで……、!」
ぐい、と京治の頭を引き寄せて身体ごと足の間に入れてやると、くすぐったそうに笑った。ああ、欲しい。僕のものにしたい。でも、どんなに頑張っても僕はあなたのDomにはなれない。あなたはあの人のSubだから。羨ましい。この人の全部を思い通りにできるあの人が、羨ましい。
「……“あか”。月島?泣いてる?」
「…………ぇ。……嘘」
気付いたら赤葦さんは赤葦さんに戻っていて、僕は赤葦さんの後輩に戻っていた。つう、と流れ落ちた涙が、僕を見上げる赤葦さんの頬に落ちてぱたりと音を立てる。
「な、んで……っ、とまんな、」
「……俺のせい、かな」
ごめんね、と赤葦さんが僕の頭に優しく触れる。そんなふうに言う割に赤葦さんも苦しそうで、ケアのために立とうとすると止められた。
「俺は、いいから。まず月島が元気になりな?いざとなったら木兎さん呼べるから……怒られそうだけど」
赤葦さんは優しい。だけど、時々優しすぎて、勘違いしてしまいそうになる。僕なんかにこの人が構ってくれるわけがないのに。
「……“stay”」
「……っ月島、!」
抗う赤葦さんに、僕はGlareを当てた。僕のものにならないなら、僕は悪役になろう。この人が、幸せになるための踏み台になろう。あの人が、赤葦さんのヒーローなんだから。
「“shush”。黙っててください。もう、これ以上……僕に関わらないで」
commandで声を封じられて、赤葦さんが苦しそうに顔を歪める。必死にもがく姿すらも愛おしくて、同時に殺してしまいたいほど憎らしい。
「──、……っ…!」
「……苦しい?苦しいよね。そうだろうね。……ははっ。ねえ赤葦さん、知ってた?僕──」
ばん、とドアが開く。身の竦むようなGlareが部屋いっぱいに広がって、僕は膝をついた。
「なに、してんだよ…………ツッキー……」
ああ、くそ。その目で僕を見るな。獲物を射竦める、猛禽類の目。その絶対的な輝きを揺らがせて、信じたくないと言わんばかりの目で僕を見るな。
「……っわか、らないんですか、?見ての通り、っ…赤葦さんのこと、虐めてるんです……っ」
ただでさえ常識外れだったGlareが、さらにその威力と圧力を増す。圧倒的な力で捻じ伏せられるような感覚が、むしろ清々しかった。遠慮しないで。嫌なことは嫌だって、はっきり言え。じゃなきゃ、僕はどうしたらいい。
「っ、……!ぼ、く…とさ、ん……“ミミズク”…っ!」
「……あか、あし?」
木兎さんのGlareで僕のcommandが打ち消された赤葦さんが、セーフワードらしき単語を絞り出したような声で呟く。ふっと緩んだGlareに微かに笑みを見せて、赤葦さんの身体はぐらりと傾いた。
「あかーしっ!」
「赤葦さん……っ」
糸の切れた人形のように動かなくなってしまった赤葦さんを、木兎さんが僕にDefenseを発しながら抱える。敵意に満ちた目に、自分のしたことの重さを思い知らされる。でも、不思議と恐怖も後悔も湧いてこなかった。
「……ツッキー。なんでこんなことしたの?」
僕の方を見ないまま、木兎さんが呟く。優しい手つきで赤葦さんの頭を撫でながら、背中だけで確かなプレッシャーを放っている。
「……なんででしょうね。…………まあ、ただの気の迷いです。すみませんでした」
「待って」
強い、強いことば。同じDomすらも縛り付けるこの人は、一体どこまでいくのだろう。
「……なんですか。僕、もう帰らないといけないんですけど」
「嘘でしょ、今の。絶対に」
一瞬、ほんの一瞬だけ息を呑んだ。目の前のこの人が、得体の知れない何かに見えた。
「ねえツッキー。ここでちゃんと言わなきゃ、また同じだよ?同じことをして、同じだけ赤葦を苦しめるよ?それが嫌だから、それがツッキーも同じように苦しいから、泣いてるんじゃないの」
ふ、と笑みが零れて、僕はもう一度だけ、木兎さんと赤葦さんの後輩から、“月島蛍”になる。隠しておきたいけれど、もう暗くはないこの感情を、この人になら話してもいいと思った。話さなくちゃならないと思った。
「……僕、僕も、赤葦さんのこと、好きだったんですよ、木兎さん」
木兎さんが微かに息を詰めたのがわかった。
「だけど、僕じゃ赤葦さんのヒーローには成れないから。だから、僕が悪者になって、木兎さんが赤葦さんを助けに来るんです」
否定的な色を濃くしていく瞳を無視して、僕は続ける。
「だってあなたは赤葦さんにとってただ1人のヒーローで、ただ1人のパートナーだから。僕じゃ赤葦さんを守れない。だから、それならせめて木兎さんを絶対のヒーローにして、幸せになってほしいんです」
声が震える。少しずつ、思考が濁っていく。泥沼に溺れていくように、何を言えばいいかわからなくなっていく。
「意味わからないですよね、?本当、自分でも何でこんなことしたんだろうって思ってます。……でも、やっぱり。“本当のヒーロー”があなたでよかったかもしれませんね。僕じゃ、満足させてあげられなかったかも」
違うだろ、と、痺れを切らしたような声が木兎さんの口から発せられる。
「どうしたんですか?現に今、赤葦さんを虐めていた僕を、あなたが助けに来たじゃないですか。全部、僕の筋書き通りですよ。何もおかしくなんかない。僕はしたいこと、するべきことをしただけです」
蜂蜜色の瞳が、鋭く光った。
「っ……なん、ですか」
有無を言わさぬ眼力が、今はほんの少し緩んでいた。本当なら発せるはずのない声で、僕は問いかける。動揺か、信頼か。いずれにしろ僕には勿体ないものだけれど。
「なんか、うまく言えねえけど……ツッキーが言いたかったの、そんなことじゃねえだろ」
ああ、これはきっと後者だ。こんなことをした後輩すら、この人は切り捨てられずにいる。自分が強いから、強過ぎるから、どこまでが“普通”なのかわからない人なんだ。本当に──
「──反吐が出る。……木兎さん知ってます?社会では、言いたいことと言うべきことを区別しなきゃならないんです。わかりますか?だから僕はこれでいいんです。わかったらもう何も聞かないでください。僕はもう帰りますので」
「…………そっか。……うん、じゃあまたね」
ゆっくりと言葉を咀嚼して、飲み込んで、引きつるというより、なんとなく不自然な、諦めようと努力しているような、どことなく変な笑い方であの人は僕を見送った。
「……気持ち悪い……あの人も、僕も……全部、全部」
足早に東京の人混みを歩きながら、口の中だけでその言葉を転がす。頭も、心も、思考さえも、全てがぐちゃくちゃだった。だから、ふいにぶつかった人が誰だったか、すぐにはわからなかった。
「……月島?」
僕より頭一つ分ほど低い身長に、プリン頭。赤いジャージに身を包んだ人が、猫のように細い瞳孔で僕を見ていた。
「孤爪、さん」
「何してるの、こんなところで……」
気が付けば空は真っ暗で、墨をぶちまけたような漆黒に微かに星が光っていた。
「……東京って星が少ないんですね」
「……?まあ、宮城よりは少ない……というか、見えないと思う……」
だからどうしたの、とでも言いたげな目で孤爪さんは僕を見る。そこには確かな心配と困惑の色があった。
「……いえ。もういいんです、全部終わりましたから。全部……全部、俺が悪かっただけなので。それじゃ、新幹線なくなる前に行きますね」
「……月島」
その場を離れようとすると、引き留められる。エナメルバッグを漁って財布を取り出したかと思えば、孤爪さんはそこから五百円玉をつまんで、僕に握らせた。
「え、ちょっと……これは……」
「お守り。好きに使って。……なんか、変に考え過ぎてる気がしたから。別に、気遣いとかじゃないから……」
妙に現実的な金額に少しだけ笑うと、孤爪さんも小さく笑った。
「……きっと、全部なんとかなるよ。焦らずに、諦めずに、考えすぎずに。これ月島の三戒ね?」
「……ふふ。なんですかそれ……それを言うなら孤爪の三戒でしょう」
「どっちにしろ意味変わんないじゃん」
ひとしきり無駄話をして、笑って、気付けば孤爪さんと会ってから小一時間が経過していた。
「孤爪さん、ありがとうございます。おかげで少し……だいぶ、楽になりました」
「そう?力になれたならよかった。無理はしないでね」
「はい。それじゃあ、もう行きますね」
その時、またね、と言ったのは、この人のすごいところだと思う。本当に人をよく見ている。僕の考えていることなんて、当たり前のように見透かしてしまうのだから。
「……はい。また」
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赤葦side.
最近、月島がいなくなったと日向から連絡があった。その時俺は当然だろうな、と思いながら白々しい答えを送っていた。
「……ねえ、月島」
「……………………」
月島は何も言わずに、俺だけの秘密の路地裏の壁に張り付いている。
「……ふふ。そろそろ夏だし、熱中症になっちゃうかもね。涼しくしておく方法探さなきゃ」
木兎さんの報復はその苛烈さにおいて想像を絶するものだったけれど、俺は大して驚きもしなかった。
「ねえ月島ー……俺今、すっごく幸せだよ。ありがと、月島」
もういくね、と言い残して路地を出ると、空は随分と暗くなっていた。夜空の中に、一粒の大きな光を見つける。ほとんど線みたいな月が、絡みつく雲を切り裂く刃のように見えた。
「……ふふっ」
俺のヒーローは木兎さんだけど、さらにそのヒーローは、月島だ。夏前の湿った風が肌に纏わりついて、果てしなく黒い東京の夜の空に吹き抜けた。
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なんか……最後眠すぎて駆け足だった……。
たまにはシリアスしかない月葦があったっていいと思うんです。
誤字脱字あったら教えてくださいなるはやで修正します。
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それじゃ〜おつかれ〜
コメント
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いや上手すぎやしません!?