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過去を思い出す時、頭に浮かぶのは夏のことばかりだ。
六歳の夏。
十歳の夏。
十八の夏。
そして、二十三歳の夏。
今日この日のことも、私はきっと向こうで思い出すのだろう。
成人式で着ることのできなかった立派な着物を身に付けて、私たちは川へ向かった。
今は立入禁止になっているお姉ちゃんが自殺した場所へ向かい、しばらく浅瀬で遊んだ。
鞍馬が水をかけてきたので、ムカついて私もかけ返した。京之介くんはそんな私たちの横で黙って川を眺めていた。
お姉ちゃんが自殺した場所は、京之介くんがお姉ちゃんと心中しようとした場所でもある。思い出すことも多いのだろう。
最後までお姉ちゃんを見られているのが何だか嫌で、京之介くんにも水をかけた。
それを見た鞍馬も容赦なく水をかける。
京之介くんが珍しくびっくりしたような顔をしたため、それが可笑しかった。
あはは、と私が笑うと、鞍馬がぷっと吹き出し、京之介くんもふっと笑った。
私たち三人は笑顔だった。曇っていた心がすっかり晴れたような、偽りのない笑顔だった。
太陽がジリジリと照り付け、この格好ではそろそろ暑くなってきた頃に、私たちは手を繋いで沈んでいった。
水の中では抱き締め合い、深く深く底へと。
川の底は冷たいだろうか。
寒いだろうか。
淋しいだろうか。
苦しいだろうか。
少しだけ怖くなったその瞬間に京之介くんが私を抱き締める腕に力が籠もり、ああ、大丈夫だと思った。
これを越えた場所に、きっとあの夏があるから。
2022年夏、京都市内某所。
行方不明になっていた男性二人と女性一人、
計三名の遺体が川で発見される。
遺体に目立った外傷はなく、ただ
女性は白無垢のような
美しい着物を召していた。