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りうらには、幼なじみがいる。
運動も勉強も、、、なんでもできて、とびきり優しい幼なじみが。
同い年なのにどこか大人びていて、紳士で、まるで王子様みたいな人。
桃「りうら、起きて」
大好きな声が聞こえて、重たい瞼を開く。
ゆっくりと広がっていく視界の真ん中に、綺麗な笑顔が映った。
赤「ない、くん、、、?」
名前を呼んだりうらに、再び微笑むその人の名前は、乾ないこ。りうらの幼なじみ。
桃「早く起きないと遅刻しちゃうよ」
朝に弱くて、目覚めの悪いりうらをいつも起こしに来てくれるないくん。
まだ寝ていたくて、りうらはわがままをこぼした。
赤「もう、ちょっと、、、」
桃「ふふっ、可愛いけどダーメ。起きないとぎゅってしちゃうよ」
ないくんのそのひと言は、りうらを一瞬で現実世界へと引き戻した。
赤「お、起きる、、、!」
朝の恒例になっている、ないくんの決まり文句。
本人は冗談で言っているんだろうけど、朝からすごく心臓に悪い。
ガバッ!と勢いよく起きたりうらを見て、ないくんは、いたずらが成功した子供みたいに笑う。
桃「ふふっ、残念。おはよう」
ざ、残念って、、、そんなこと、絶対に思ってないくせにっ、、、。
赤「お、おはよう、、、」
ないくんはいつも優しいけど、たまに意地悪だ。
桃「外で待ってるから、支度して出ておいで」
赤「うん、、、!い、急ぐね、、、!」
桃「急がなくていいよ。りうらは、慌てたらドジしちゃうでしょ?」
、、、うっ。
否定できなくて、返事に詰まる。
赤「う、うん」
素直に頷くと、ないくんはまたくすりと笑って、りうらの頭を撫でた。
いつもの朝。
ないくんとりうらは、だいたい毎日こんな感じだ。
寝坊助でドジで間抜けで、、、なんにもできないりうらと、いつも一緒にいてくれるないくん。
りうらがどんなヘマをしたって、怒られたことは一度もない。
優しいないくん。
りうらは、そんなないくんが大好き。
幼なじみとしても、ひとりの男の子としても___。
でもそんなこと、ないくんは知らないし、言うつもりもなかった。
ないくんにとってりうらは、妹みたいな存在。
この恋は、誰にも内緒。
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赤「お母さん、行ってきます!」
カバンを持って、リビングを出て玄関に向かう。
赤母「行ってらっしゃい。あ、そうだりうら、今日お父さんとお母さん、仕事で夜遅くなりそうなの」
家を出る間際、投げられた言葉に少しだけ肩を落とす。
今日はひとり、か、、、。
赤「うん、わかった、、、!お仕事頑張ってね、、、!」
でも、もうりうらも中学一年生で、寂しいだなんてわがままを言える年でもないし、、、我慢しよう。
赤「お待たせ、ないくんっ、、、!」
玄関を開けて家を出ると、家の門の前でないくんが待っていてくれた。
同じ中学に通うないくんは、登下校を一緒にしてくれる。
急いで駆け寄ったりうらを、なぜかじっと見ているないくん。
桃「、、、」
無言で見つめられ、首をかしげた。
赤「ないくん、、、?」
ど、どうしたんだろう、、、?
りうら、顔に何かついてる?
そんなに見つめられたら、顔に穴があきそう、、、。
桃「そのピン留め、どうしたの?」
、、、え?
その言葉で、ないくんがりうらの頭に付いたピン留めを見つめていたのだとわかった。
赤「あっ、、、お母さんが買ってくれたの。変、、、かな?」
桃「変じゃないよ、とっても似合ってる。可愛い」
不意打ちの言葉にドキッとし、思わず反応してしまった。
か、わいい、、、。
深い意味がないことはわかっている。
きっと道ばたで見かけた猫を見て、可愛いって言うのと同じ感覚だと思う。
でも、、、ないくんに言われると、うれしくて過剰に反応してしまう。
赤「あ、ありがとう、、、」
きっとみっともないくらい赤くなっている顔を、隠すようにうつむいた。
学校に近づくと、生徒たちの視線がないくんに集中する。
女の子はみんな、目をハートにしてないくんを見ていて、それに少しだけ胸が痛んだ。
ないくんは、人気者。
かっこよくて、勉強も運動もできて、優しくて、、、みんなないくんを好きになる。
見た目も中身も、まるで絵本の中から飛び出してきた王子様みたい。濃いピンクで少しパーマのかかった綺麗な髪に、透き通るような淡桃色の瞳。
すらりと伸びた長い手足。何を着ても様になる、モデルさんのようなスタイル。
神様が丁寧に作り上げたような、綺麗すぎる容姿。
ファンクラブだってあるみたいだし、校内ではアイドルのような存在だ。
モブ「おはようございます!乾様、、、!」
モブ「乾様、おはよう!」
周りから飛んでくる声に、ないくんは笑って返していた。
ないくんの笑顔に、「きゃー!!」という黄色い声がそこかしこからあがる。
モブ「はぁ、、、今日もかっこいい、、、!」
モブ「どうしてあんなに素敵なんだろう、、、」
女の子たちが、ないくんのほうを見てそう言っているのが聞こえた。
うん、、、すごくわかる、、、。
ないくんは、ほんとにかっこいい。
どんなときも、いつだって、一番かっこいい。
こうやって騒がれているのだって、いつものことだ。
別に、ないくんを独り占めしたいだなんて思っていない。
でも、、、こういうとき、ぼんやりと考えてしまうんだ。
ないくんは好きになってくれた女の子の中から、いつか彼女を作って、りうらから離れていくのかな、、、って。
そう考えると、胸が苦しくてどうしようもなかった。
隣を歩きながらじっと、ないくんの横顔を見つめる。
恋人になりたいだなんて、わがままは言わない。
でもせめて、、、ずっと幼なじみとして、ないくんの近くにいたいよ。
桃「、、、ん?どうしたのりうら?」
そんなことを考えていると、突然ないくんがりうらのほうを見た。
バレてないと思っていたから、驚いて変な声が出る。
赤「ふぁっ、、、!な、何もないよっ、、、!」
恥ずかしくて、慌てて視線を逸らした。
桃「そう?ならいいんだけど」
深く聞いてこなかったことにホッとして胸を撫で下ろしたとき、肌を刺すような冷たい風が吹いた。
赤「くしゅんっ」
今日は中に着込んできたけど、まだまだ防寒不足だったみたい。
冬休みが終わり、冬本番の今の寒さは凶器だ。
二月はもっと寒くなるって言っていたけど、、、今年の冬を乗り越えられるかな、、、。
桃「りうら、寒そうだね」
りうらを見て、ないくんが心配そうに言う。
赤「うっ、、、平気だよ!」
ないくんには心配かけたくないから、笑顔でそう答えた。
するとないくんが突然、自分のマフラーをカバンから取り出した。
そしてそのマフラーを、りうらの首に巻き始める。
、、、え?
モブ達「きゃぁー!!」
女の子の達が目をハートにしてこちらを見ている。
桃「はい、俺のをつけてて」
自分のマフラーをりうらの首に巻いて、満足気に微笑んだないくん。
笑顔も行動も、全部がスマートで、本当に王子様みたいだと改めて思った。
赤「で、でも、ないくんは?、、、」
桃「俺は平気。それより、りうらが風邪ひいたら大変だから」
ポンッと頭を撫でられ、それ以上何も言えなくなる。
赤「あ、ありがとう、、、」
素直にお礼を言って、ないくんが貸してくれたマフラーをぎゅっと握った。
マフラーからふわりとないくんの匂いがする。
赤「えへへっ、、、ないくんの匂い、、、あったかい」
なんだか幸せな気持ちになって、思わず笑みがこぼれた。
桃「、、、」
、、、ん?
赤「ないくん?」
視線を感じて隣を見ると、ないくんがじーっとりうらを見つめて固まっていた。
りうらの呼びかけに、我に返ったのかハッとした表情をして、いつもの優しい笑みを浮かべたないくん。
桃「、、、あぁ、なんでもないよ」
そう、、、?
あ、もしかして、寒さでぼーっとしちゃっていたのかもしれないっ、、、。
今さら返すって言っても、きっと断られるだろうし、、、明日からは、自分でちゃんとあったかいマフラーをしてこようっ、、、。
桃「それよりりうら、今日はお母さんたち仕事で帰りが遅いんだよね?」
さっき、うちのお母さんにでも聞いたのかな。ないくんの言葉に首を縦に振る。
赤「うん、そうみたい、、、。きっと日をまたぐぐらいになると思う」
桃「よかったら泊まりに来る?ひとりじゃ寂しいでしょ?」
赤「え?いいのっ、、、?」
思わぬ提案に、目を見開いた。
桃「もちろん。りうらならいつでも大歓迎だよ」
ないくん、、、!
赤「い、行きたい、、、!」
桃「それじゃありうらのお母さんには俺から連絡しておくね」
お泊まり、、、久しぶり、、、。
今日はひとりで寂しいなぁと思っていたから、こんな展開になるなんて、、、!
赤「ふふっ、やったぁ、、、」
頬が緩むのを抑えられなくて、きっと今、だらしない顔をしているに違いない。
ないくんとずっと一緒にいられる。
今日はいい日だっ、、、。
桃「可愛い、、、」
、、、え?
赤「ないくん?何か言った?」
こっちを向いて、ぼそりと何か呟いたないくん。
小さい声だったから聞き取れなくて、そう聞き返す。
桃「ん?なんでもないよ。それじゃあ着替えだけ持って、泊まりにおいで」
赤「うんっ!」
そのときのりうらはないくんの家にお泊まりできるのがうれしくて、はぐらかされたということに気づかなかった。
ふふっ、楽しみだなぁ。