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登場人物
主人公【海月 優弦】ウミツキ ユズル
友達【暁 志弦】アカツキ シズル
「お、図書館が見えて来た。」
(志弦)「おー!やっとだ!」
意外にも、コンビニから図書館への距離は、思っていたよりも、かなり遠かった。
図書館から、一番近いコンビニなんだけどな。
今度こそ、やっと、図書館に着いたと思った時だった。
「あれ?優弦?」
此の声、聞いたことがある。
(志弦)「優弦、知り合いか?」
何で今、何で此処に。
「あれ?やっぱり優弦なの?」
此の、柔らかい声。何度も聞いて来た。俺の名前を呼ぶ、甘ったるい声。
《優弦?》
「優弦?」
嗚呼、嫌だ。やめろ。
其の声で、俺の名前を呼ぶな。
こんな事になるのなら、今日の朝、自分の怠惰に忠実に、学校をサボっていれば良かった。
押さえ込んでいた俺の知っているアイツが、次から次へと、溢れて来る。アイツの笑顔も、仕草も、匂いも、俺の名前を呼ぶ、甘ったるい声も。気色が悪い程、鮮明に。汚く、綺麗に思い出される。
《優弦。》
《優弦。》
《優弦——————。》
俺の脳内が支配されるのに、そう時間は掛からなかった。
「マスクしてたけど直ぐに分かったよ!」
「優弦だって。」
「ね。」
ニコリと、不気味な、優しい笑みで、俺に微笑みかける。奥の見えない瞳の中に、俺を捉えている。
「ッあ…ッッ。」
「ッハ……ッ………。」
(志弦)「優弦と友達なんですか?」
「ッフフ、友達よりも、もっとずっと深い関係だよ。」
(志弦)「そうなんですね!!」
「お名前はなんて言うんですか?」
「あ、僕の名前?」
「僕の名前は—————。」
お前の名前なんて、聞きたく無い————!!
気づけば、俺は走り出していた。
とにかく、アイツから距離を取りたくて、逃げたくて、恐怖でガクガクと震える足で、上手く走れなかったが、とにかく、その場から逃げ出したかった。背後から、俺の名前を、大声で呼ぶ志弦の声が聞こえて来たが、そんなのお構い無しに、俺は走った。
自分の心臓の音で、周りの音が全く聞こえない。息が苦しい。体の感覚が無くて、上手く、体を動かせない。これ程までに、鞄を重たいと思った事は無いだろう。
それでも俺は、何とか、自分のアパートまで逃げて来た。
部屋に入った後も、ドクドクと鳴り止まない心臓を抑え付けて、必死に深呼吸をする。
ガタガタと震える肩を抱いて、玄関のドアの前で、蹲る様に、小さく座り込んだ。