コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『おねえちゃんたち、だれ?どうしてここにいるの?』
小鳥が囀ずるような声。
可憐な容姿をした女児は、3嶺を順に見上げた。
「あなたこそ、どうしてここに居るの?」
赤嶺が覗き込む。
「ゲームの中に迷い込んじゃったのかな」
稲嶺が心配そうに言い、
「ここは危険だよ~」
仲嶺がその頭をなでる。
何も知らない彼女たちは、6,7歳くらいの普通の女の子にしか見えない女児に何の警戒心も抱かないらしい。
しかし下手に忠告するわけにはいかない。
彼女に目を付けられるわけにはいかない。
「………ッ」
渡慶次は、上間、知念、比嘉の順にアイコンタクトを送った。
刺激してはいけない。
怒らせても、泣かせてもいけない。
ただ、粛々と、
ただ、淡々と、
狙うは――――。
彼女のリュックの中身。
「あれー、ぬいぐるみだぁ!」
赤嶺が、女児が背負っているそれに気づいた。
「……赤嶺!」
小さな声で呼びかけるが聞こえない。
「クマさん、好きなの?」
稲嶺も女児を見下ろす。
『クマさんじゃないよ、ゲイシー!』
女児はピンク色の唇を尖らせて言った。
「そっか、ごめんごめん!ゲイシーね。よろし……」
その人形を触ろうとした仲嶺の手は、
代わりに女児の白い手に握られた。
『……ねえ、かわいいとおもう?』
女児はただでさえ大きな目を見開いて言った。
「え?」
『ゲイシー。かわいいとおもう?』
「もちろんだよっ!」
仲嶺が微笑む。
『ほんとう?』
「本当!」
『ほんとうにほんとう?』
「本当に本当!」
そこまで言うと、女児ははにかむように俯いた。
『……うらやまし?』
「うん。羨ましいよ」
仲嶺がその手を握り返すと、
『じゃあ、おねえちゃんもかわいくしてあげるね?』
女児は顔を上げた。
「え……?」
その瞬間、仲嶺の身体は縮み、女児と手を握ったまま足が浮いた。
「エッ?エエッ?エエエエエエエエ?」
声が小さく、細くなっていく。
「ちょっと……!」
「嘘でしょ?」
稲嶺と赤嶺が息を飲む目の前で、稲嶺は30㎝くらいに縮んでしまった。
『ほら、ゲイシーとおんなじっ!』
女児は両手で小さくなってしまった稲嶺を抱きしめると、ルンルンと鼻歌を歌いながら身体を左右に振ってみせた。
稲嶺はというと、
「ドウナッテルノ?ウゴケナイ……!」
身体が縮んだだけではなく、身動きもとれなくなったようで、人形さながら両手両足を大の字に開いたまま止まっている。
――くっそ……!
渡慶次はこめかみから流れた汗が、顎から垂れ落ちたのを感じた。
『おねえちゃん、すごいかわいい!』
女児は人形と化した稲嶺の両腕を掴むと、目の前で揺らした。
「タスケテ?タスケテ!?」
稲嶺は必死で懇願する。
『うん!いっしょにあそぼう!!』
女児はそう叫ぶと、
稲嶺の両腕を、思い切り左右に引っ張った。
「あ……」
「え……」
仲嶺と稲嶺が呟いたのは同時だった。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
高い悲鳴が放送室に響き渡る。
稲嶺の右肩が本体から外れ、その断面から真っ赤な鮮血があふれ出していた。
『あれ?こわれちゃった?』
女児が慌てて稲嶺をひっくり返す。
今度は両足を握る。
「やめてあげて……!」
赤嶺が手を出そうとしたときには遅かった。
女児は稲嶺の足先を持つと、ぐっと左右に引き裂き始めた。
「ヤメテ!ヤメテ!!!イイタイイタイイタイイタイイイイイ!!!!」
先程とは一転、女児はゆっくりと足を左右に開いていく。
途中で千切れないように。
真ん中で綺麗に割れるように。
その所作は、割箸を左右均等に割ろうとしている幼子のようだった。
「タスケテ!ダスゲデ!ダスゲデエエエエエ゛」
細い悲鳴が響き渡る。
「ダレガアアアア!ダレガアアアアアア!!!!」
プチッと、まるでイクラをかみつぶしたような小さな音が響いた。
「ア………」
その声を最後に、稲嶺は股座から腹部、乳房に、頸部、さらには顎も唇も鼻の孔まで、綺麗に左右半分に裂かれた。
「い……いやあああっ!!」
逃げようとした赤嶺の手首を女児が掴む。
『おねえちゃん?どこいくの?』
「ヒイッ!!」
その身体は一瞬で、稲嶺と同じくらいの大きさになった。
「やだああああッ!」
『まってってば』
女児は走り出そうとした稲嶺のスカートを掴んだ。
たちまち彼女も走り出そうとした恰好のまま、まるでフィギュアのように固まってしまった。
『ゲイシーとあそんでもらいたいだけなのになあ!』
女児は小さくなった赤嶺の身体を無理やりまっすぐにした後、座らせるように尻を突き出させた。
「ウウヴッ」
ボキボキという関節の乾いた音と共に、低い声が響く。
『よいしょっと』
女児はさらに赤嶺の膝を折るように足に力を掛けた。
「ギャイイイイイイイイイ!!」
耳を貫く悲鳴。
どうやら膝ではなく太腿に当たる部分を無理やり折って座らせたらしい。
膝上の肉からは腿の骨がはみ出していて、真っ赤な鮮血に染まった断面からは、ピンク色の骨が盛り上がっていた。
女児はそれを卓の上に座らせると、もう一つの仲嶺を取り出した。
「イヤアアアッ。ユルシテ!ユルシテ!」
仲嶺の小さな声が聞こえてくる。
しかし女児は先ほどと同じように仲嶺を座らせようとした。
「スワリマス!!スワリマスカラ!!」
仲嶺が必死で叫びながら、自ら座る体勢を作る。
『わあっ!おねえちゃん、じょうずじょうず!』
女児は手を叩いて喜んだ。
「ア…アハハハハ…」
人形になった仲嶺も、ひきつった笑顔を見せている。
『あ、でもちょっとくびのむきがおかしいかな?』
「エ……?」
次の瞬間、
「エ…ッヨヨヨヨ……!!」
仲嶺の頭はそれを掴んだ女児の小さな手によって捻り上げられた。
ブチブチブチブチ。
ビニル製の縄跳びが切れるような音がした。
「きゃ……きゃあああああああ!!」
生きている中で唯一、“舞ちゃん”の存在を知らなかった前園の悲鳴が響き渡る。
――これが“舞ちゃん”……!
渡慶次はブランブランと3体の死体を振り回しながら笑っている女児に、息を飲んだ。
このゲームで、
ドールズ☆ナイトで、
最恐最悪のキャラクター。
つまりは、
――――ラスボス……!
白い頬に返り血を浴びて笑う女児と、背負ったリュックからはみ出しているクマのぬいぐるみを睨みつつ、渡慶次は拳を握った。