◇
言ってしまった。
ラダオクンに、蹴られたり殴られたりしていたことを話してしまった。
「ンッ……」
「あ、みっどぉ…気が付いた?」
「…コン、チャン?」
「よかったぁ…殴りどころ最悪すぎて危なかったんだよ〜、死んじゃったらどうしようかと思った……」
まるで“運が悪ければ死んでいた”と言いたげなコンちゃん。
少しだけドン引きして見つめていたら、冗談じゃーん!と笑い飛ばされた。
まったくもって笑えない。
「…ラダオクン、ガッカリシタカナ」
「ん?何に?」
「俺ガ、弱イコト…失望シタンジャ……」
“そんなことも耐えられないのか”
ラダオクンにまでそんなこと言われてしまったら、俺はもう生きていけないかもしれない。
「あー…うん!大丈夫!らっだぁが“みどり虐めた悪い奴懲らしめてくる”って言ってた!!」
コンちゃんがスッと自然に逸らした自然に、なんだかよくない想像が頭に浮かび上がった。
「コンチャン、オブラートニ包マズ言ッテミテ?」
「えぇーと…教育上良くないと言うかぁ…」
「コンチャン…?」
「……」
コンちゃん曰く。
『みどりに暴行加えたカスがいるらしいから、ちょっと“お話”しに行ってくるねー…あ、拷問室一部屋使えるようにしといて?ん…?いや、まぁ万一に備えてね?いやいや、殺しはしないから…ウンタラカンタラ』
あからさまに血祭りに上げようとしている…
「俺ナンカニ、ソンナコト…」
「みっどぉわかってないねぇ〜」
「?」
「よぉし!そんなみっどぉにとっておきのヒミツを教えてあげよーう!…耳貸して?」
ヒソヒソと耳元で囁かれた事実に、心の中がポカポカした気持ちでいっぱいになった。
「…俺、ラダオクン止メニ行ッテクル」
「はぁ〜い」
コンちゃんに手を振ってから、少し怖かったけど東地区に向かって走った。
「ワッ…!?」
角を曲がったところで人とぶつかって派手に倒れる。
なんとなく既視感を感じながらぶつかった相手を見上げると、俺を蹴ってくる刺青の男。
「ッ…!?」
俺を見て憎々しげな顔になった後、すぐにハッとした顔で走って行ってしまった。
一体…何だったんだ……?
あ、そんなことよりラダオクン…!
「ラダオクン?何処イルノ、ラダオクン…!」
「みどりぃ?なんで来たのー?」
路地の奥からラダオクンの声がして慌てて駆け寄ろうとすると来たらダメ、と止められて仕方なく路地の入り口で言葉を交わす。
「ラダオクン、俺…!」
「今は駄目…後にしてくれる?」
ピシャリと水溜りを踏んだ時の音が鳴って、ラダオクンが、あ…と声をもらした。
「…殺シタノ?」
「…怒りが、抑えられなくなる時があってさ……その時、気付くとこうなってんの」
路地裏から顔を覗かせたラダオクンの体は返り血でそこかしこが赤く染まっていた。
特に口元が酷く濡れているように見えたのは、路地裏が暗かったためにきっと見間違えたのだろう。
「…どぉ、怖い?」
瞳を細くして俺に問いかけたラダオクン。
正直言ってまだ“怖い”をよくわかってない。
もしかしたら俺は普通じゃないのかも。
だって、血に濡れるラダオクンを見ても恐怖どころか、どこか感動を覚えているのだから。
「ンー…俺ノガ怖クデキル!」
素直な答えが出てこなくて、素っ頓狂な答えを返すと、ラダオクンはフッと息を吐くように笑った。
「フフッ…フッ、ハハ…」
「?」
「自我が強いなぁー…フフッ……」
ひとしきり笑ったラダオクンが帰る?と提案した時、あの入れ違った刺青の男を思い出した。
「ソウイエバ、一人走ッテッタケド」
「捕まえる?」
捕食者の顔をして嗤うラダオクンを見てヘッ…と不貞腐れてやった。
ラダオクンにその顔はあんま似合ってない。
カッコ良くはあるけど、性格悪そう。
「ラダオクン不細工ダカラ、追ワナクテイイ」
「はぁ?みどりのために働いたってのに?」
「ラダオクン、臭イ…ハヤク体洗ッテ?」
「ぽまえ、遠慮なくなってきたね?」
首を傾げて知らないフリをしながら二人で本館を目指して歩き始めた。
「え、らっだぁ血だらけなんだけど」
「クッサ、クッサ、クッサ」
「汚ねぇ」
「寄るな」
「ぽまえら酷くなぁい!?」
ラダオクンは散々言われてた。
本人は何故!?といった様子で終始ヘソを曲げた子供のように頬を膨らませていた。
結局、刺青の男は行方不明。
大した問題でもないだろうとこの問題はこれで打ち切り。
俺もそれに賛成した。
悪い奴は優しいオニーチャンが“お片付け”しちゃったらしいし…
具体的な方法は教えてくれなかったけど、まぁ何となく察しはつくよね。
「一件落着〜!」
「んじゃ、国王様は仕事でもしましょうか?ねぇ?」
「え…」
「仕事、溜め込んでんじゃねぇぞ?」
「嫌だァァア!!」
「せやからあれ程“計画的にやれ”言うてたやろ!自業自得や観念しろボケェッ!」
「馬鹿ダネェ〜」
ラダオクンの無様な悲鳴を聞きながら、コンちゃんから教えてもらった“とっておきのヒミツ”を思い出す。
『運営に入れたってことは、“らっだぁが命を預けてもいいと思えた相手”ってことなんだ!運営って役職は、らっだぁからの“信頼”で出来ているんだよ!』
俺は信頼されているってこと…
その信頼に尽くしたいと、そう思えた。
「みっどぉ、怪我もぉ一回確認させて?包帯とかズレてると思うんだよね」
「ウン」
この時、生きるもの本質である恨みや妬みの力を、俺達は完全に舐めていた。
これで本当に一件落着なんだと、俺を含めた全員が信じて疑わないでいた。
◇
コメント
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折り返し地点。 山折でも谷折りでも好きに折っちゃってください(*´︶`*) [上手いこと言ったつもりになってます]