──中層、第十三遺構。
交戦の果てに、空間そのものが歪み始めていた。
「……もういいや」
夜咲 叶霊は、まるで読書でも飽きたかのように立ち上がり、背後の裂け目へと足を向けた。
そこには、制御不能になりかけた“魔物の巣”が広がっている。
無数の魔物が、彼女の足元から湧き出し、空間に蔓延する。
ウィスの拳が追いつく速度では、もう足りなかった。
「じゃあ、バイバイ。次は“下”で」
ウィスが飛びかかろうとした刹那──夜咲の体は、魔物の群れに呑まれ、消えた。
残ったのは、血でもなく、悲鳴でもなく、ただ“兆し”だった。
──下層。
そこは既に“人”が住むには不適なエリア。政府も実質放棄している場所。
闇の中、誰も気づかないまま、空気が微かに変わる。
カチ、カチ、と。
夜咲が片手で何かの注射器のようなものを構え、散布装置を作動させる。
中には、自らの血と、先ほど生成した“魔物の素粒子”が混ざっている。
──“魔物のウイルス化”。
元々、コト粒子は媒介体の体内で凝縮され、魔物を形成する。だが、夜咲の魔物は“自律増殖”を始めていた。
「これで……僕以外も、魔物を作れるね」
彼女の声は、無感情ながら、どこか嬉しそうだった。
「夜を──始めようか」
霧状にばら撒かれる、目に見えない“侵蝕”。
それはやがて、下層の人々に感染し、
無自覚のうちに“魔物を生む存在”へと変えていく。
──護井会、黒滴会議室。
ミルゼ・ラウトは、紅茶を一口啜った後、嘆息混じりに言った。
「始まりましたね。彼女は“意思を持った災厄”となった」
ガラ・スーグが唸る。
「ウィスでは止めきれん。あの少女……“感染拡散型”に進化している。これは手遅れの兆しだ」
「……では、次の段階へ移行しましょうか。“夜咲叶霊”の処分命令。対象レベルは──《緊急指定》」
世界は静かに、音を立てて終わりに向かっていた。少女がまいた“夜”は、もはや止められない。
コメント
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今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!! おっすげぇすげえなんかやばいの始まってる!(?) とそこにミルぜサァン登場ですぬぇ...うち結構好きです。ハイ←誰も聞いてない さあさあこの戦いどうなるんだ..楽しみですねぇ( ◜ω◝ ) 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいいいぃ!!!!!