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今日もいつものようにヒーローたちが使う道具の点検・整備を行う。鉄の臭い、オイルの匂い、焦げる臭い。色々な臭いが漂い混ざりあった特有の臭い。オレはこの臭いが好きだ。この臭いが染み付いてしまったメカニックグローブ。
「伊波ー」
「お、小柳。なんか壊した?」
「おん。」
「見せてみなさい」
「…」
「…」
中々に暗い顔をしていたのでかなり酷い壊れ方をしたのだろう、と予想はつけていたが予想の遥か上の壊れ方をしていたそれは流石にもう直せそうにはなかった。
「新しく作ってやるよ…」
「…次から気をつける」
「いいよ別にぃ」
「ごめんて」
「…まぁ新しく作るの1日はかかると思うからまた明日取りに来てよ」
「りょーかーい」
そう言い残すとロウはここを後にした。
ロウに渡された物より良い物を作るべく作業に没頭する。
「いっっ、てぇ…!!」
機械部屋にオレの悶絶する声が響く。
使い古したメカニックグローブは小さな穴がいくつか空いていた。本当なら捨てて新しいものに変えるべきだが、子供の頃から使い、愛着が湧いてしまったこのグローブは簡単に捨てることが出来なかった。そんな時にグローブを貫通して怪我をしてしまったのだ。さすがに捨てるしかない。
先程から痛む左手。酷めの火傷だ。鉄を溶かすような物を使っているんだ。人の手などすぐに溶けてしまう。痛みには慣れているとはいえ、痛いものは痛い。
ここは西の拠点なので下の階にはキッチンがある。そこで冷やしに行こう。
誰かいるかな、とか保冷剤あるかな、とか様々な思考を巡らせながらキッチンに向かう。
下に降りるとソファーにはロウがいた。まだ帰ってなかったんだ。声を掛けようか迷っているとロウの方が口を開いた。
「伊波?どしたん」
「ちょっと火傷した」
「見せろ」
なんかグロいし見せたくないな。彼は見た目によらず心配性なところもある。早く保冷剤を取ってから機械部屋に戻ろう。
「大丈夫だよ、大したことないから!」
「…ふーん」
ロウはあまり納得はしていないような返事を返す。実際大したことない、なんて嘘だ。
早く機械部屋に帰ろう。キッチンでグローブごと手を洗ってから早歩きで機械部屋に向かう。
部屋で冷やしながら機械の構造を考えたり改善点を考えたりする。静かな部屋には寂しさも感じる。
ある程度冷やすと痛みは感じなくなったが傷口は痛々しいままである。
「痕、残るかな」
ここ1ヶ月くらいはグローブ外さないようにしないとなぁ。痕が残るのは嫌だ。
保冷剤を置いて作業を再開する。
いくらか時間が経ち、ロウに渡す機器も完成した。あとは取りに来るのを待つだけ。
ピロン、とスマホから通知音が鳴る。どうやら任務が多くロウが来れるのはあと3日はかかるようだ。
かくいうオレも任務がありそろそろ出かける時間になりそうだ。「行ってきまーす!」と誰もいない静寂に挨拶して拠点を出る。
今日の任務は星導と共同だった。
オレがあまりにも左手を守る動きをしてしまったから怪我をしていることがバッチリバレた。今は西拠点に帰宅中。どうやら星導が診てくれるらしい。できれば傷を見られたくなかったので言い訳をかましていたがご立腹のようなので観念した。
「さ、見せてください」
「うー…ん」
「これ穴空いてるじゃないですか」
「あ、そうなんだよね…そろそろ変えないとなぁ」
「で、見せてください」
「はーい…」
グローブを外すとまだ治りかけの傷。想像より酷かったのか星導は驚いた顔をしている。だから見せたくなかったんだけどな。
「どうせこの穴空いたのを使って点検とかしてたんでしょ」
「うっ…」
「今これは捨てましょう、危ないし」
「…うん、そうだよね…」
「ライが捨てれないなら代わりに捨ててきますよ?」
「わかったわかった!自分で捨てるから!」
オレは立ち上がってゴミ箱の前に立つ。いつかは捨てないといけないと思っていたがいざ捨てるとなると寂しいものだ。この世の全てには限界がある。ロウに渡された機械だって、人の命だって。このグローブも例外では無い。同じものなんてないけどこれから新しくなっていけばいいんだから。限界があったって終末はないんだ。