コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第8話:「港区女子とナイフの真実」
《港区・高層マンション》
シャンパンの泡が、静かにグラスの中で弾けた。
ラグジュアリーな家具。艶やかな香水の匂い。
誰もが憧れる「港区女子」の暮らしが、そこにはあった。
その中心に座るのは――山本結衣。
スマホの画面には、例の暴露配信チャンネル【告白ノ間】が流れていた。
蒼、翔、悠斗……
かつて彼女が関わった男たちの顔が順に映し出される。
結衣は笑った。
「ねえ、そんなに私のこと、知りたいの?」
__________________________________________________________
《回想:三年前の夜》
翔が“転落”したその夜。
裏路地の防犯カメラの死角に、ひとりの女がいた。
「……翔、ほんとにやるの? 録音、出すの?」
「ああ。これで全部、終わらせる。あいつらの汚いやり口もな」
「私……もう、君と一緒にはいられない」
翔がふと、背を向けた瞬間だった。
背後から、何か鋭利なものが閃いた。
刺されたわけではない。ただ、“押された”のだ。
その手にあったのは、携帯用の折りたたみナイフ。
「さよなら、翔。君がいなければ、私……“選ばれた女”になれるの」
翔の記憶はそこまでしかなかった。
__________________________________________________________
《現在:カフェにて》
「――全部、話すつもりだ」
翔が告げたその瞬間、
蒼のスマホが鳴った。
【次のスピーカーが決定しました】
名前:山本結衣
タイトル:「選ばれた女だけが知っている、真相」
__________________________________________________________
《配信当日》
会場が、異様な熱気に包まれる中――
スポットライトの下、真っ白なワンピースを着た結衣が登壇する。
その姿はまるで、**罪など一切ない“被害者”**のようだった。
彼女は一礼し、マイクの前に立つ。
「皆さん、こんばんは。山本結衣です。
今日は――“本当の被害者”について、語らせていただきます」
__________________________________________________________
《暴露:山本結衣の真実》
「私は、翔くんに裏切られました。
彼は私に“君が必要だ”って言っておきながら、
裏で他の女の子とLINEしていた。しかも……その子、加藤花音って言うの」
画面に、新たな名前が映し出される。
加藤翔の“幼馴染”であり、“結衣の後輩”でもある女――加藤花音。
「彼女は、翔くんからお金を借りていた。パパ活の隠れ蓑ってやつ。
それを知って、私……全部が怖くなった。
翔くんが録音を世間に出すって言ったのは、“彼女”を守るためだったの」
「私はただ……取り残されただけの女だったんです」
言葉は完璧だった。
涙も、表情も、間もすべて計算されていた。
だがその時――
__________________________________________________________
《中村颯太の仕掛け》
配信画面が切り替わった。
「――割り込み暴露、承認」
突如、画面に現れたのは、チャンネル管理人・中村颯太。
「山本結衣さん。あなたの言葉は、99.6%虚偽です。
視聴者の皆様、こちらをご覧ください」
流れたのは、結衣が翔を突き落とした“映像”だった。
隠しカメラ。暗視モード。
カットなし。加工なし。
その手が、“翔の背中”を押す瞬間が、鮮明に記録されていた。
__________________________________________________________
《崩壊》
会場がざわめき、怒号が飛び交う。
結衣は取り乱した。
「違う!違うの!これは合成よ!私は……私こそ、被害者――!!」
だが、誰も彼女の言葉に耳を貸さなかった。
__________________________________________________________
《その後》
山本結衣は、配信直後に失踪した。
SNSも連絡手段も全て遮断された。
「#真相をお話します」では、“彼女の捜索依頼”が逆に投げ銭で支援されるという皮肉な現象が起きた。
そしてその夜――蒼と翔は、再び向き合っていた。
「ありがとう。蒼。……もう、逃げないよ、俺も」
「俺も、ようやく前に進めそうだ」