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◆◆◆◆◆
「はい!それではこれから、教室と座席番号を配ります!」
教師が諏訪の言葉を遮って叫ぶ。
「カンニングや協力を避けるため、教室はバラバラになりますので、よく自分の教室と座席を確認してくださいね!」
「……ずいぶん本格的なんだな…」
呆れながら右京が言うと、
「毎年な……」
諏訪も目を細めた。
配られた紙には、「2-5 10番」と書かれていた。
「右京―――」
振り返ると蜂谷が立っていた。
一気に心臓が高鳴る。
彼は創立記念式典の際に黒髪のウィッグを付けてきた。
その際に女子たちが騒いでいた意味が、今はなんとなくわかる。
「―――クラス、どこだった?」
「2-5……」
なんだか気まずくて言葉少なに返すと、蜂谷は自分の紙を見下ろした。
「同じだわ。行こうぜ」
言いながら諏訪と右京の間を通りながらぐいと腕を引いた。
「―――あ、おい」
引っ張られながら諏訪を振り返る。
彼は無表情で自分たちを見下ろしていた。
◇◇◇◇◇
「染めたのか?」
校内に入り、廊下を歩きながら、蜂谷の髪を引っ張ってみる。
「さすがにあの頭で模試はないだろ」
言いながら蜂谷は前方を見て、つまらなそうに目を細めた。
教室に入り、番号通りの席に座ると、やっと一息付けた。
やはり場所もメンバーも違うと、本番さながらの緊張感がある。
前方の方に座っている蜂谷のもとに行ってみる。
「緊張してるか?」
筆入れを出しながらこちらを見上げた蜂谷は、
「全然」
自分の残りの高校生活がかかっているというのに、言葉通り落ち着いて見えた。
「落ち着いてやれば大丈夫だから!」
「うん。そーね」
「ここは貪欲に、20位以内とか言ってないで、満点目指して頑張ろうぜ!」
右京が拳を握った瞬間、教室内に女性が入ってきた。
「本日はお忙しいなか、駿合ゼミナールが主催するセンター対策模試にご参加いただき、誠にありがとうございます。
ええ、なお今回は、松が岬東高校、宮丘学園高校、城西高等学校の3校合同でしていただく模試ということで、ええと特に3年生の皆様は本番を想定して本気で臨まれている方も多いのではないかな、と思います」
冷房は聞いているのに、額の汗を拭きながら話す担当者を眺めながら、右京は配られたタブレットを見つめた。
「ええと、今までの模試ですと、解答用紙はマークシートを活用していたわけですが、すぐに結果を知りたいという学生さんたちが多くいらっしゃるものですから、今回から試験的にタブレット解答を導入させていただきたいと思います。
今まで通り鉛筆を握り、問題を解いていただいて、選択していただいた番号ないし記号を、タブレットの方にタップで入力していただきます。
これですと、結果がすぐに出るので、本日終了後、すぐ表彰式に移ることができます」
―――はあ、なるほど。
右京は頷いた。そして自分の手首を見つめた。
これならなんとかできそうだな。
あの教科以外は……。
「それではタブレットの操作テストをします。トップ画面の右上。鉛筆のマークをタップしてください」
言われた通りにタップする。
「はい。点が2つ出てきたと思います。それを直線でも波線でもいいので、指でつないでみてください」
言われた通り直線でつなぐと、ピロンと音がし!『液晶反応は正常です』と表示された。
何気なく斜め前方の方に座っている蜂谷を見つめると、彼も何やらタブレットを弄っている。
そしてそれを少し上げると、振り返り右京に見せてきた。
「―――!」
―――あいつ……。
ニヤけた彼のタブレットには、やけに形の綺麗なハートマークが描かれていた。
「(集中しろ!)」
声を出さずに言うと、蜂谷は笑いながら前に向き直った。
ダークブラウンの髪の毛がやけに似合っている蜂谷の後ろ姿を見つめる。
やはり育ち自体は良いのだろう。こうしてみると立派な好青年だ。
ウォーミングアップだろうか、軽く両手を振って肩を回している。
中指にこの1ヶ月で形成されたペンだこが見える。
頑張った。
お前は、頑張ったんだ。
落ち着いて全力を出し切れば大丈夫。
これからの半年間、楽しく登校するために、やるんだ!蜂谷―――!
右京はその後ろ姿を見ながら、胸のうちでエールを送った。
―――頑張れよ、蜂谷。
たとえ、今回勝ち取る学生生活に――
俺という存在がなくても――。