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喧嘩の火種なんて、いつだってくだらないことだった
「お前ほんと人の話聞かねえよな」
「お前の話がつまんねえからだろ」
いつも通りの言い合い
肩をぶつけ合い、視線を逸らし、互いに苛立ちながらも、次の日にはまた顔を合わせる
それが当たり前で、日常だった
「なあ、俺たちってなんなんだろうな」
ある日、夕暮れの教室でぽつりとおれが言ったとき、お前は笑った
「腐れ縁ってやつじゃね」
口では嫌ってるくせに、誰かとお前が仲良さそうにしてると胸がざわつく
「おれ以外のやつと仲良くすんなよ」
そう言えば「うるせえ」って殴られるのがオチだけど、それでも言わずにはいられなかった
あるとき、お前が学校を休んだ
別に心配なんかしてねえ、って言い訳しながら、おれは家までプリントを届けに行った
インターホン押す手が、ほんの少しだけ震えてたのは秘密だ
「……お前、来るなよ。風邪うつすぞ」
「うつってもいいから、顔見たかった」
無意識に出た言葉に、お前は一瞬固まった
おれも「は?」ってなった
空気が妙に静かで、鼓動がやけに大きく響く
「……バカじゃねえの」
でも、お前の顔が少し赤かったのは、おれだけが知ってる
離れてると落ち着かねえ
会えないと、なんか物足りない
でも会えば、いつも通り喧嘩になる
「お前、あいつと仲良すぎ」
「……またそれかよ」
「妬いてんだよ、おれが」
あの日の言葉がきっかけで、少しずつ変わった
喧嘩は減らないけど、その後に不器用な謝罪や、照れ隠しみたいな言葉が増えた
「……なんで一緒にいるんだろうな、おれら」
「さあな。でも、いないとつまんねえ」
結局、お互い素直じゃないまま
でも、離れられない
腐れ縁って案外、運命より強いのかもな
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