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オオカミ達の物語 制作始め→二〇二四年四月十八日
自分はミナ・セレノ。オオカミ族の女王。これを見てるってことは、聞く覚悟があるってことだよね? じゃあ、これから沢山の氏族の中のオオカミ族の物語を教えてあげる。まずは、自分の過去、かな。
――じゃあ、話すね。
自分は、研究番号、人造人間零壱七として生まれてきた。つまり、誰とも血がつながってない。多分。いや、わからない。自分は、誰かの復元体なのか、完璧に新しい物なのか。何もわからない。それで、自分は実験体だったんだ。どんな実験かというと。
獣人を作り出すという実験だった。その実験方法は、人間の脳に動物の脳の一部を入れ、尻尾と耳を付けるというものであった。
研究員の話によると、今までは、失敗に終わることが多かったらしい。失敗すると、早ければその夜に脳が侵食され、骨の形が変わり、獣になってしまう。
成功であれば、完璧な獣人になれる。いつまでも。
成功したら、動物の脳に侵食せれすぎないように、人間と同じく教育をする。
一方目分は、十二回目の秋にその実験をされ、一週間たっても獣にならなかったのである。
だから研究員は喜び、油断していた。そして、自分を学校へ通わせた。研究所の中にある学校だ。他にも沢山の実験された子たちが居た。自分より年上の奴や、年下の子達がいた。そこは普通の人間(がどんなことをするのかこの頃にはわからなかったが)と同じようなことを勉強する。数学や国語。そして道徳や技術美術である。だが、社会や理科はなかった。きっと外のことは教えてくれないのだろう。それに、外にも出してもらえない。そうやって勉強をしてるうちに、自分が体に違和感を覚え、この事を職員に伝えようかと思ったけど、やめておいた。少しでもこの楽しい時間を多く過ごしていたかったから。自分は、お友達ができたんだ。すごく嬉しかった。その子は、一応性別があるらしい。その子の研究番号は八七八七と言った。だから、エイトと呼ぶことにした。そうしたらエイトも自分のことをレイと呼んだ。エイトは、男らしい。自分は女。だから職員からはあまり接触をするなと言われた。自分と実験内容も違かったし。本当は実験内容を教えちゃいけないんだけど、エイトは教えてくれた。自分に関しては既に実験が終わってからきてるから言わなくてもわかっていた。エイトは、生殖器を使った実験と、牛の角をつけるということ。尻尾はもうついていた。明日、その実験が終わって一週間後くらいに解放されるらしい。それまでに自分がもっていればいいのだが……
自分は、無事に実験が終わったエイトを出迎え歓迎した。エイトは、少しいつもと雰囲気が違っていたなんというか、匂いが違う。自分と同じ匂いがする。「レイちゃん、俺、生殖器の実験をすると言っただろう? 詳しい内容は知らなかったんだけど」そういうと自分の腕を掴み人気の少ない女子トイレ(正しくは無性別用のトイレ)へ連れて、誰もいないのを確認すると個室へ飛び込むように自分を引きずり込みすぐさま下半身に履いている物を下ろした。自分はとっさに「エイト⁉︎」と大きな声を上げた。すると今度は自分のズボンを脱がした。「レイ! 俺、とられたんだ! ほら! レイと同じ! これで、もう職員に怒られないよね!」自分は、なんとも不思議な光景に目をくらました。とられてないようにしか自分には見えなかったからだ。保健というもので生殖器や子供の作り方は教えられていたから、いわゆる男についている物については知っていた。それがどのような機能をするのかも。「あ、あれ⁉︎ ついてる⁈」すぐさまズボンを上げた。自分は下半身丸出しだ。いい加減にしてくれ。「ご、ごめん! どうしてだろう、おかしいな、さっきまでなかったんだよ!」エイトが何やら言い訳をしている間に服を着た。「ごめんってぇ、許して? まぁ、ご飯の時間だし、食堂に行こっか」とても気まずそうな声で言った。それから個室から飛び出して行った。
*
すでに自分は体の違和感を抑えきれなくなっていた。体が軋むように痛くて、うまく歩けなかった。犬が二足歩行で頑張って歩いているようなだらしない感じだ。自分が来てないことに気づいたエイトが自分のことを見て不思議そうな顔をしていたがすぐにそれがどうしてそうなっているか理解したようだった。そして、自分のことを抱っこして食堂まで連れて行こうとしたが途中で職員に見つかり、職員が車椅子をもってきてくれた。それから職員と自分とエイトで食堂に向かった。今日のご飯はいつもと同じ。変な棒。味はイマイチだし、見た目も別に良くない。最悪だ。このまま、このまま半獣人でいられたのなら、オークションに出されて膨大なお金をもらえる。そしていい飼い主が見つかる。頼むから、失敗しないで、「レイ? 大丈夫? 具合が悪そうだけど」エイトがとても心配しているのが見なくても伝わってくる。とても吐き気がする。「番号零壱七。大丈夫か? すぐに研究室へ行くぞ。番号八七八七はそこで大人しく餌を食ってろ」相変わらずの態度に呆れてしまう。自分は研究室に連れて行かれる途中に吐いてしまった。研究員は舌打ちをしてから周りの職員に道具を持ってくるよう頼んだ。処理が終わるとすぐに研究室へ向かった。遠くからエイトが見ていたのに気がついた。エイトから離れたくなかった。
研究室に着くとたちまち自分の体の隅々まで調べた。すると自分の体がイヌへ変化しようとしているのが知られてしまった。そして、自分はずっとその状況を改善しようとされていて、しばらくの間エイトに会えなくなった。どのくらい経っただろうか。少なくともニ日は経っているだろう。自分が研究室から出てくるとすぐさまエイトが駆けつけてきた。自分も気分が上がって車椅子から勢いよく立ちがりエイトにもたれかかるように抱きついた。エイトが言うには途中で生殖器が戻っているのを職員にバレてもう一回手術することになったのだと。エイトと自分が卒院するまで後丁度二十四時間だ。きっと大丈夫だ。最後にいつも通りの生活をして寝た。「このまま卒院できると思ったのかね?」院長に囁かれた気がして飛び起きた。すると枕元に院長が座っていた。「君零壱七君はきっと卒院などできないよ。外には出られるけどね」聞いているうちにどんどん体がきしんできて。気づけば院長の言葉に飲み込まれて、院長が言った言葉の意味も深く考えず、眠り、起きたら案の定イヌになっていた。まだ枕元に院長がいたことを覚えている。「君に大事なことを伝えていたのに気づいたら寝ちゃってるんだから、私は悲しいよ」院長はひどく憎たらしい顔を自分にぶつけていた。その引きつった顔はなんだか泣いているようだった。自分の記憶の最初にもその顔があったことを思い出した。「ごめんよ、零壱七君、まだ君といたいけど私の部下たちがそれを許してくれなかった。だから『出て行ってくれ』」「出て行ってくれ」その言葉にはたくさんの思いがこもっていた。辛み、悲しみ、寂しさ、悔しみ、他にもたくさんの感情がその言葉一つに今までにない大きな想いが詰まっていた。そのせいで院長を憎いものとして見れなくなれそうな気がした。だが、院長が自分にしてきた事は大罪だ。だから自分は一生院長のことを恨むと決めた。自分は、最後に院長に一つ、伝えなきゃいけない大事なことを伝えた。
「ワッフ!」
自分は、研究所では手に負えないと、研究所から追放された。
自分は、何も知らない人間から見ると、どこにも行き場がないイヌになってしまった。どこに行けばいいかわからない。自分は、本当の最後にエイトの卒院式を窓から見つめてから、がむしゃらにどこか遠くに逃げた。すると、運良く住宅街についた。ここに居れば人間に拾われるだろう。
だから、ずっと。
ずっと待った。
*
人間が来た。自分のことをゴミを見る目で見ている、嘲笑っている。捕まった。もがいた。逃げれない。やがて車に入れられた。しばらく経つと自分は寝てしまった。睡眠ガスだろう。(当時は睡眠ガスという存在を知りませんでした)そのまま、自分はその人間の家に入れられ、何度も何度も、暴力を振るわれた。周りの人間にバレそうになったら自分を外に投げた。そんなことの繰り返し、繰り返し。でも今回は違った。とうとうバレたのだ。今回の周りの住人は優しくて、人間(ご主人)にバレないように保護団体に通報してくれたらしい。すぐに保護団体が来てくれた。人間がいないときを見計らって。自分を保護した。ボロボロの自分をつらそうな目で見つめて、優しく柔らかいタオルで包んでくれた。そして、小さいキャリーに入れられ、揺れの少ない車の中で、自分は眠った。
目が覚めると大きいケージの中へ入れられた。ちょうどいい温度の部屋だ。とても落ち着く、人間の話を聞いていると、病気を持っている可能性があるみたいだった。病院に連れて行かれた。本当にたくさんの病気が見つかった。皮膚病、肺がん、片足は折れていた。薬をもらって、大体は治った。足と皮膚病は治った。肺がんはまだ治ってない、すでに治療で二ヶ月ほど経っている。保護主が「もうそろそろ飼い主を募集していいんじゃないかしら」と言っていた。「かなしいけど、十日後には殺処分をしなくちゃならないのよね」その時、初めて殺処分という存在を知った。「名前的に、殺されるということだよな?」自分はとても恐ろしくなって震え上がった。だから自分は施設の人間じゃない人間が来たらたくさんアピールをした。「僕はカッコ可愛い大型犬だよ! ねぇ! 僕のことを見て!」そうやってしていたら、たまに人間が近寄ってきたけど、他の方を結局選んでいた。もうそんなことをしているうちに一週間経ったらしい。つまり、殺処分まで三日。この三日間は本気で飼ってもらわないと。その思いはご主人様も同じで、「こんなに可愛い子が後三日でいなくなってしまうんです! お願いです、この子を引き取ってください」何度もお願いしていた。でも、それは周りの犬達も同じで、中には残り一日の犬もいたから、そっちが最優先だった。彼らが飼われていくのを見ていると安心できた。「あぁ、彼らは死なずに済んだのだ」と。でも、自分のことも考えなければ。
「後一日だ」
そろそろあの時が来る。「殺処分の日 ﹂が。
人間は今にも泣きそうだ。「あなたと離れたくないわ」と言うように。そんなこと、思われたって、どうにもならない。忘れられたほうがこちらは落ち着くのに。
とうとう殺処分の時が来るみたいだ。小さいケージに閉じ込められた。周りには沢山の他のイヌが居た。ダフニー、フィークス、アイリス、マーキア、リスラム、ミリカ、サビア、サイマス、リベス、アベリア、セダム、フェリジア、オクナ、リクニス。
……とても思い出したくない。
⋯⋯その後うちらはでかい車に入れられて、睡眠ガスで一時的に眠らされた。睡眠ガスから目が覚めたとき、とっても暗い場所へ居た。ケージからは出ている。きっとうちらはここで殺されるのだろうと、思った。でも思っているだけではとても虚しい。だから、くらいなかでも自分は出口を探した。出口を見つけた。でももう火がつけられていた。だから見つけられたのだけど、それでも自分は、一生懸命出ようとした。そろそろ火がゴウゴウとしていた。もう遅いかもしれない。でも、それでも一生懸命出ようとした。少し開いた。もう少しだ。なんとか自分が出れるくらいの隙間が開いた。だけど、もう皆んなはもう炎でほとんど力尽きている。皆んなのことを救えなかった。この罪悪感を胸に秘め、外へ急いで出た。すでに右目元はヤケドしていた。周りを見渡すとすぐ近くに森があった。そこへ逃げよう。そこへ逃げたら人間に会うことはない。それにしても、一瞬の出来事で頭がパンクしそうだ。とにかく、遠くへ遠くへ、走り続けた。山の奥底へ。
ここはどこだろう。疲れ果てて立ち止まった時には深い森の中へ入っていた。運良く目の前にはとても小さい湖があった。ここでひと休憩としよう。
周りはとても静かだ。さっきまでは鳥のさえずりが聞こえていたが、急に止んだ。とても嫌な予感がする。するとわおーんと狼の遠吠えが聞こえた。少し近いところだ。ここはオオカミの縄張りなのだろうか。ならばすぐに逃げなければ。沢山の大きな足音が聞こえてくる。もう近い。四方八方から気配が近づいてくる。
途端にすごくでかいオオカミ達が四匹現れた。自分は恐怖で逃げることができなかった。
どうしよう。考える暇もないうちに一匹のオオカミが近づいてきた。すごくきれいな白いオオカミだ。四匹の中で一番でかい。全長約二メートル程だろうか。なにか話しかけてきた。
「あなた、どこから来たの?」そう聞こえた。人間の言葉だ。おそらく聞き間違えではないだろう。なぜ? なぜ人間の言葉が喋れる? 普通のオオカミよりも背も高い。美しさも達う。一番の建和感は角と翼が生えているところだろう。本当に不思議でたまらない。少し混乱し止まっていたが、とりあえず、わんっと吠えてみた。するとそのオオカミはまるで人間のような表情でニコッと笑った。まるで微笑ましいとでもいうように、するとまた、「そうよね、わからないものね」と言い、「あなた、どこから来たの?」とイヌ語で聞いてきた。どっちにしろわかっているのだが、話せない。どうしたら良いのだろう。イヌ語のような動物たちの言葉は喋れない。言葉を理解することしかできない。なにかを察したオオカミは「とりあえずついてきて頂戴」とまたイヌ語で言った。とりあえずついていくことにするが、警戒はしておいたほうがいいだろう。他のオオカミ達は自分に話しかけてきた白いオオカミについて行っている。他のオオカミは黒いのが二匹と茶色いのが一匹だ。皆、それぞれ単色だ。他の毛色は入っていない。オオカミのことを見ていると、急に止まった。ついたのだろうか。「ちょっと縄を持ってきて頂戴」白いオオカミが、オスの黒いオオカミに言った。するとそのオオカミは「はい。女王陛下」と言った。女王陛下? どういうことだろう。このオオカミは女王なのか? でも一体何の?「ここで大人しく待っていなさい」自分に少し脅すような声で言ってきた。ここは木の前だ。やはり怪しい。何を企んでいると言うんだ? 少し経つと口に頑丈な縄を咥えて黒いオオカミが戻って来た。「この娘を取り押さえといて頂戴」とても冷たい声で白いオオカミが言った。自分はすぐに取り押さえられ、木と一緒に手を縛り付けられた。何をする気なのだろう? 考えてる間もなく自分は白いオオカミに眠らされた。
自分は眠らされたので、何をされているかわからなかった。とても恐ろしくてたまらない。意識が戻るまで何もできない。次第に意識が戻ってくると、体に違和感があった。少し体が大きくなっているような、そんな感覚だった。体の痛みも消えている。ずっとその違和感を感じながら意識が戻るのを待っていると、今度はオオカミ達が話している声が聞こえた。
「毛色が白いわ、なんてこと」「女王にするのですか? 女王陛下」などいろいろなことが聞こえてくる。喜んでいるのか、困っているのか、軽蔑しているのか、何もわからない。意識が戻ったようだ。体に感覚が戻ってきた。恐る恐る目を開けてみた。そこには眠る前のオオカミの大きさとは違う。少し小さくなったオオカミがいた。これは、自分が大きくなったのか、オオカミ達が小さくなったのか。ひとまずオオカミの話を聞かなければわからない。
「あら、起きたのね!」と白いオオカミが言う間もなく自分は吠えた。「離せ! 今すぐ離せ!」自暴自棄に吠えたつもりが、なぜか人間の言葉を話せていた。自分は人間に戻ったのか?「あら、そんなに暴れたら怪我しちゃうわよ?」オオカミはやはり人間のような表情だ。自分はオオカミに縄を解かれた。今のうちに逃げよう。「今のうちに逃げようなんて思ったって無駄よ」自分が行動に出る前に言われた。察しられてた。そりゃあ、あんなこと言ったんだ、逃げるとわかっているに違いない。自分は困惑し少し止まってしまったが、辛い殺そうとはしなかった。「いい? 話を聞いて頂戴。怪我をさせるつもりはないから」と白いオオカミが少し焦りながら言った。一体何を考えているんだ。「まずはここに座って頂戴」白いオオカミが指した場所は木の椅子であった。それに机もある。しっかりとオオカミが使えるような大きさだ。その光景に少し動揺しながらも自分はその椅子に座った。「あなた、名前は?」名前? 名前ってなんだろう? 研究番号で良いのだろうか?「えっと、僕の名前は零壱七、です」少し困りながら言った。「あら? 不思議な名前ね? 零壱七、なにかの番号かしら?」やはり違うみたいだ。名前、保護してくれた人間は、自分にflosとつけていたな、その名前でよいのだろうか?「僕の名前、flos? だと思います、わかりません」「flos、いい名前ね! でもわからないって、どういうことなのかしら?」白いオオカミは首を傾げた。なんと答えればよいのだろう。すこし戸惑っていると、「まぁ、色々あったのよね、無理に言わなくていいわ」と言った。その言葉にすこし救われた気がした。「ずっとここにいるのも嫌でしょうし、詳しくは私達の栖で言いましょう」
自分は今、オオカミになり、栖に連れて行かれている。信用してよいのだろうか? でもこのオオカミ達はとても自分に危害を加えるような奴らとは思えない。でも、その油断が一番怖いのである。「あなたはどこからきたの?」ボーっとしていると不意に話しかけられた。すこしビクッとしてしまったが、「僕は、人間が住むところから来た」と返した。「ていうことは、飼い犬だったってことね?」いかにもだったを強調してくるな、「まぁ、そうです、飼い犬でした。色々あったんですよ、色々」少し疲れた声で言った。「つきました。ここが私達の聖域であり柄です!」製を広げ、誇らしげに言った。「ここが、柄」その柄はとても聖域とは言いたくない、いかにも野良って感じの全く美しくない洞穴と巣穴が広がっていた。「あなた、『思ってたのちがう!』って思っているでしょう! 全く、失礼な娘ね!」「あの、さっきから僕のことをむすめと言ってますが、やめていただけませんか?」すこし嫌な声で言った。「あらそう? でもあなた女の子でしょう?」その言葉にとても腹を立て、「女だの男だの! 性別とか関係ないだろ! 僕は僕なんだ!」と、しゃがれた声で怒鳴った。「そうね、私ったら、もう」本当にわかっているのかこのオオカミは、僕は僕なんだ!「まぁまぁ、ここに入って頂戴」とりあえず入ろうか、「ここに座ってくれればいいわ」なんとも洋風でおしゃれな部屋だ。外装はめっちゃダサいのに内装は信じられないくらいおしゃれだ。「ふふ、見間違えるほどにきれいでしょう?」と言ったのでその白いオオカミの方を見たはずが、人間だった。自分は驚きを隠せなかった。「あら、ごめんなさいね、何も言ってないのに急に人間になってたらびっくりするわよね」そういうと、丁寧に説明をしだした。「私達氏族は地位が高いものは天の恵みで人間がいう、「魔法」を使えるの。だから私は魔法で人間になってるのよ。あなたも人間になろうと思えばなれると思うわ」魔法、か、バカバカしいが嘘はついていないだろう。なぜなら純粋な目で自分のことを見つめていたからね。「自分も人間になれるのか?」「ええ、何なら私が人間にして差し上げましょうか?」ほほえみながら言った。「あなた達も人間の姿になりなさい」というと、皆もそれぞれ人間になった。皆とても美しい容姿をしている。「ほら、こっちへおいで。私があなたを人間にしてあげる」まるで自分にハグをするかのように手を広げてこちらを見ている。とりあえず、近寄ろう。自分はとりあえずが多いな。「偉い偉い。とりゃー!」とりゃーと言った瞬間自分は人間になった。
鏡を見なきゃはつきりとした自分の姿は見えないが、白い髪で、着物らしきものを着ているのがわかった。犬からオオカミになり、次は人間か。いや、正しくは、人造人間から獣人。獣人から犬。犬からオオカミオオカミから人間ってところか。「どう? 新しい姿は」とても気分がいいようだ、用尾をブンブン振って自分の様子を見ている。「あーえっと、なんか新鮮な気分? ってやつですかね」少し緊張しながら言った。「あら、それにしても人間のことをよく知っているようだけど、それに、最初から人間の匂いがブンプンしてたものねぇ!」すごく怪しまれているようだ。「いやあ、それは、話すと長くなるので」「あらそう」即答した。「いや、あの、そんなに怪しまないでもらってもいいですか?」苦笑いしながら言った。「怪しんでないわよ」急に真顔から笑顔へ戻った。「ああ、そうですか?」とても不安ながらも言った。すると、「おいおい、女王陛下はとっても人間が嫌いなんだ。おれら以外のな」おそらく黒いオオカミだろうやつが後ろから小声で伝えてきた。それに気付いた女王は、「あなた達、仲良くなっているみたいね。少しお話でもしてきたらどう?」不敵な笑みで言った。「いや、でもまだお話があるのでしょう?」一瞬真顔になったがまだ不敵な笑みでこう続けた。「そうねぇ、でもすこし落ち着いてからがいいでしょ?」一体なにを企んでいるのだろう、これはまずいとでも思ったのか、「そうですね! 行こう」と、黒いオオカミが作り笑いをしながら、女王へいい、自分へ言った。そして自分の手をつかみ、外へでた。「いいか、少しも声を出すなよ。今から俺の部屋へ行くからな」自分を連れ、走りながら言った。「はぁ、はぁ、ここが俺の部屋だ」息を切らしながら言った。「ここがあなたのお部屋なんですね」「あー、名前教えてなかったな。俺の名前はミナ・セレガンよろしくな」このオオカミはセレガンというらしい。「この名前は、女王陛下から貰った大事な名前なんだ。きっとお前も名前をもらえるさ」名前を? 名前をもらえるのか。「元の名前はなんだったんですか?」「元の名前ねぇ、覚えてないよ」すこし寂しげな顔をしていった。「あと、敬語、やめていいぞ? オオカミ族に来たからにはおれらと家族なんだからな」家族? どういうことだ。それにこのオオカミ族というものには入るつもりなんてない。「お前は、フロースといったな? 早く女王陛下から名前をもらえるといいな。きっと最初はセレとつくだろうよ」そうなのか、「おれら皆最初はセレから始まるんだ。黒い女はセレナ、茶色の女はセレファン、女王陛下はセレフル、今はなき王様はセレファナ。皆セレから始まっているだろう?」本当にそうだな、自分は一体どんな名前になるのだろうか?「あらあら、名前が早くほしいのね!」うわ、びっくりした。女王陛下だ。「女王陛下、僕に名前をつけてくれるのですか?」「えぇ! それにしても、すっかりオオカミ族に染まってるわね。あなたの名前は、ううん、そうね、ミナ・セレノはどうかしら!」「女王陛下! それはセレナと名前を間違えはしませんか?」黒いオオカミがピッと手を挙げて言った。「ううん、でもいいと思いますよ?」「僕の名前は、セレノ、なんですか?」「ふふ、気に入ってくれたならセレノでいいわ。でも気に入らなかったのならもう少し考えますよ」名前、セレノってなんか格好良くていいな。「ふふ、その様子だと気に入ったみたいね。そろそろお昼ご飯を食べましょう! ご飯を食べながらオオカミ族のことについて教えますからね」「よかったな! セレノ!」「うん!」すごく嬉しい。すごく楽しい。この時間がずっと続けばいいのに。「こっちですよ!」女王陛下が手招きしている。「オオカミ族か」「オオカミ族の歴史、気になるのか?」「うん。オオカミ族とか、女王陛下のこととか」「そうか! それはいいことだ」黒いオオカミが満面の笑みで言った。「新しい家族ができて嬉しいよ! 見た目的に俺より年下っぽいけど、何歳?」年齢か、イヌにされたのは十二の秋で神無月だ。それから、追い出されて、人間に捕まってた期間は、約六ヶ月だ。それで人間に保護されて殺処分される場では約一週間。さまよってた時間は少なく、三時間だ。おそらく、自分に誕生日というものは存在しないから、もう十三だろうか?「多分、十三歳だと思うよ」「十三か。まだまだおチビちゃんだな。それなら、セレナがセレノと一番年が近いな。セレナは、十五歳なんだ。俺とセレファンは同い年で十八歳だぞ」「そうなんだな、じゃあ、セレガンはお兄ちゃんか?」「ふはっお兄ちゃんなんてこんな可愛い子に言われると照れるなぁ」とお兄ちゃんは照れ隠しで笑った。「ほら、早く行かねーと」お兄ちゃんが立ち上がった。早く行くとしよう。お腹が減った。「あぁ。今行くよ」自分はそう答え立ち上がると、お兄ちゃんの方へついて行った。
周りには他の狼がいる。ジロジロと自分のことを見てくる。とても不愉快でたまらない。
別に自分を疑うような目や軽蔑するような日で見てきているわけではないが、正反対な全く疑いのない日で、取するような目で見ているのだが、それが気に食わない。逆に軽蔑ような目で見られる方が慣れているんだ。「大丈夫か? ずいぶんと緊張しているようだけど」お兄ちゃんだ。少しだけ安心した。「えっと、なんかすごい見られるから緊張して」「そりゃあ、お前が新しい女王だからだよ。皆きっと歓迎してるのさ」「新しい女王って、なるきなんてないよ?」「なんだと? オオカミ族に来てオオカミになってそれに白い毛だったんだぞ? 灰色ならまだしも毛色が白いのだから、女王になるんだ。ここ数年間、女王が現れなかったんだ。それでせっかく現れたのにそのチャンスを逃せと? バカなこと言ってるんじゃないぞ」落ち着いてはいるが怒っている。いや、焦っている。そうだよな、新しい女王がしばらく現れなかったのに、やっと現れたんだもんな。女王陛下もまぁまぁなお年みたいだし、それだったら、仕方がないだろう。「そうだったんだな、それだったら僕、女王になるよ」「本当か! それは女王陛下がよるこぶぞ!」安心したようだ。色々大変だったのだろう。このままオオカミ族から離れても行き場がない。家族も居ない。ならば女王になったほうがマシだ。「ついたぞ。ここが食堂だ。そしてあそこがおれらの席」といい、すごく遠いところにあるとても豪華な机と椅子を指した。「あそこが僕たちの席!! いいのですか? あんなに素敵な椅子に机でご飯を?」「あぁもちろんさ。ちゃんとお前用もあるぞ。しっかりと新規女王と旧女王用があるんだ。行くぞ」そう言うと、自分の手を掴み歩き出した。「ここには沢山の席があるだろう? それだけ民がいるってことだ」と、微笑みながら言った。「おーい! 早くー!」黒い女だ。あれが姉ちゃんか。「今日はパンよ! 召し上がり!」女王陛下が言った。「パンですか! 何パンだろう」お兄ちゃんがウキウキしながらいい、席に座った。「セレノも早く座れよ! 遠慮すんなって! この席はもうお前だけの席なんだから」座っていいのかわからなかったが、お兄ちゃんが大丈夫といってくれたので、座ることができた。座り心地は硬いかと思いきやちゃんとフカフカのマットが敷いてあった。「あなたも食べなさい。とっても美味しいわよ」「わかりました。ありがとうございます! いただきます!」「召し上がれ」んん! すごく美味しい! パンはクロワッサン生地のバターロールパンだ!「これはまた美味しいな! 今度はまた新しい女王の誕生祭もやるだろうから、すごく美味しい食べ物を沢山食べられるぞ!」「本当か! やったぁ!」「特にセレノが主役だから、皆よりもたくさん食べられるぞ!」「楽しみだなぁ」「ふふ、それは良かった。これで私も安心して休めるわ。あなたは女王になってくれるのよね? なら、私の意思を継いでくれるかしら?」「意思、ですか? そうですね! 僕ができることならどんな意思でも継ぎます! オオカミ族のために、僕は貢献します!」と、自分は勇気ある声でいった。「ふふ、なんていい子なのかしら、私が女王になるとき、そんな決意しなかったわ。あなたは本当に素敵ね。あなたなら本当に安心できるわ」女王陛下はとても安心している。「では、オオカミ族の掟についてお教えいたしましょうか」「お願いします!」「まず、一番大事なこと、一つ日は他の氏族とは極力かかわらないこと。二つ日は、オオカミ族の英雄、オオカミ様を拝めること。三つ日はオオカミ族の文化を尊重すること」「オオカミ族の文化とは?」「オオカミ族の文化、それはまず目元を必ず染めること。オオカミ族の印として入れ墨を彫ること。耳や尻尾は決してみすぼらしい姿にしないこと。オオカミ達の地位は毛色で決めること。毛色と同じ以外には毛を染めないこと。オオカミ達のそれぞれの個性を批判しないこと。尊重すること。オオカミの魅力は歯の大きさで決めること。そんなとこかしら」「入れを彫らなきゃだめなんですか? 怖いのですが」「大丈夫よ痛くないようになってるから。人間の世界みたいに直接肌に刺すんじゃないから。そこも氏族たちのご先祖さまが開発したのよ」「目元は、化粧をするのですか?」「ええそうよ。植物からできた沢山の色の塗料をセレナが作ってるから。今度見に行きなさい。きっと気に入るものが見つかるわ」「あたしのとこに今度きなよ! あたしもきっとあなたに似合うものが見つかると思うわ」「あぁ、いい忘れてたわ。このこはセレファンといって、縫製師なのよ。服を作ってるの。その他にも布団とか、武器をいれる袋とかを作ってるの」セレファンが小恥ずかしいと言うように小さく頷いた。「ウチ、服、作ってるカラ、アナタ、今度来て!」どうもカタコトだ。人間の言葉を喋るのがまだ慣れていないのだろうか?「ごめんね。この娘はずっとこもって縫製節やってたものだから、それに話すのもオオカミ語だったのよ。最近やっと人間の言葉で喋るようになったの」なるほど、努力家だったのだろうか?「そうだったのですね。セレファンさんは、お姉ちゃん、ですかね?」「ウチ、アナタのお姉ちゃん!」とても可愛らしいお姉ちゃんだ。お姉ちゃんは茶色いオオカミだろう。それにしてもとても美味しいな、こんなに美味しいご飯を食べたのは久しぶりだ。「名前はわかるかしら? セレガンは、鍛治屋なのよ! 私達のためにいつつも依頼された武器を作るの。そして王よ。ずいぶん昔に私と同じ時に来た王は、私が死んだショックで死んでしまったの」ん? 女王陛下が死んだ? でも今ここにいるぞ?「あぁ、私が今もこうしているのは、魂があるからなの。私は人間に捕まって絞殺されたの。そして今は亡霊として生きてるの」「亡霊として? 一体どうやって?」「どうやってかは知らないわ。でもこれもきっと天の恵みだと思うの。セレノ、あなたもそう思わない?」「まぁ、そうかもしれないですね」この女王は、天のことが大好きなのだろうか?「あのね、私は新しい女王の誕生祭をして、私の送別会をしたらね、私は魂となって消えるの」「消えてしまうのですか? なぜ? このままいることはできないのですか?」「それはできないわ。もうそろそろ七でいれなくなるの。早く成仏しなきゃ悪霊になってしまうから。そうはなりたくないの」亡霊から悪霊に、そうなのか「そうなのですね、では僕がんばりますよ!」「ええ、暫くの間、頑張ってください」そうやって話しているうちに時は過ぎ、自分の誕生祭や、送別会が終わった。誕生祭をやったあとには最後だからと、自分にいるんなことを教えてくれた。王様の死因や、皆のこと。女王の仕事の仕方。魔法とか。
そうして送別会が終わった次の朝、自分はお兄ちゃんたちとお話をして、ご飯を食べて、寝る頃であった。お姉ちゃんのセレファンが夜な夜な外へ出ているのを見つけた。いつつも、「ウチのおめめ、ウチのおめめ、気持ち悪い、イヤ」といって外へ出てっていた。今日は隠れてついていくことにしよう。歴法で姿を消せば、バレることはない。聖域から出ることはほとんど自殺行為と同じようなものだ。なぜなら外には違う氏族のものや人間がいるから。「おめめ、どこ?おめめ、おめめ」聖域からかなり速い。自分は姿を消しているが、お姉ちゃんは姿を消していない。いざというときは自分が助けなければ。「わぁ! おめめ! おめめ!」なんだ? 目にふさわしいものでも見つけたのだろうか?「これ、すごい! おめめ、いい!」やはり目にふさわしいものを見つけたようだ。そもそも姉ちゃんに義眼を作ってもらえばいいものの、わざわざそんな事するんだ?「おめめ!」お姉ちゃんが声を荒げていったその瞬間に、グチョオと肉がえぐれるような音が聞こえた。「痛い! 痛い! でも、これ、新しいおめめ!」様子を見てみると、日がない方に歪な機械のようなものがえぐりこまれていた。「おめめ、これで気持ち悪くない!」そう言うと、こちらへ戻って来る。自分もそろそろ帰らなくては。
次の日その騒動は起きた。起きたときにはもう大事、周りは愛に飲まれ、民たちは暴れもがいている。トラウマだ。このゴウゴウと燃え盛る炎は自分にとってはトラウマなのだ。
「おい! セレノ! 逃げるんだ!」お兄ちゃんが自分の手を引っ張った。
「さっき騒がしいと思って起きたらセレファンが暴れていた。一体これはどういうことだ?! とにかく逃げるぞ! セレファンを止めようと争ったがだめだった! もう手遅れだ! 行くぞ!」お兄ちゃんも焦っているようだ。何が起こっているのか理解できないが逃げなければ、どこか遠くに。「お兄ちゃん! この聖域から遠いところに逃げなきゃ!」「そんなことわかっている! 行くぞ!」勢いよく自分を引っ張りオオカミへなった。オオカミのほうが早く逃げれるからだろう。自分もオオカミになった。
……遠くへ逃げた。遠くへ。
バン! 道路へ出て、安心しきっていたその時、銃声が鳴り響いた。狼ハンターだ。お兄ちゃんが撃たれた。「はは! 愚か共め! 大人しくしてろよ!」狼ハンターが言った。
男が二人だ。車に乗っていたが、今は止まっていたのでお兄ちゃんの様子を見に行った。「セレノ、俺のことはいいから、あとからついていく。死になんてしないから」といった。そんなの死ぬ前の人が言うことじゃないか。自分はお兄ちゃんのもとから離れることを惜しみ「でも!」そういったが、「いいからにげろ!」お兄ちゃんは最期の力を振り絞って声を荒げながらも言った。自分は逃げようとした。
だが……車は急に発進し、自分をひいた。とても強い衝撃を喰らい、そしてタイヤで骨を砕かれ自分の体は無様なことにグチャグチャになって朽ちた。
「セレノ!」お兄ちゃんの苦しみ叫ぶ声を最期に、自分は死んだ。
――なんだろう。不思議と頭がふわふわする。目の前の光景は、病室だろうか? それとも走馬灯で研究室にいるのか?「華さん! 華さん! 大丈夫ですか⁈ 起きれますか?」なんだろう、だれかが聞き覚えのない名前で自分を呼んでいる。意識が戻ってきた。起きれそうだ。バッと起きると、ととつもない痛みが走った。「華さん⁈ しっかりしてください! ガンなんですから、ゆっくりしてください。ご飯を用意しました。食べられますか?」自分はあまりの痛みにもう一度ベッドの上に寝転んだ。周りには看護師一人と点滴。そしてここは個室だ。「華さん。あーんです。お口を開けてください」看護師はおかゆのようなもの(当時はそれが何かわからなく、食べるの拒否しようとしました)をスプーンですくい、自分へ向けた。「あ、あーん」言われたとおりに口を開けた。「はい、どうぞ」そう言うと看護婦は自分の口の中へそっと、おかゆのようなものを入れた。咀嚼はできる。ガン、といっていたが、一体どこの? う、急に胸が痛みだした。「大丈夫ですか⁈ しっかりしてください!」その声から先は聞こえなかった。死んだのか? 結局何もわからないまま死んでしまったのだろうか? いや、なんだ? また何かが聞こえてくる……
今度はすごくガヤガヤしている。学校のようだ。「おーい! おーい! どうしたんだ。急にぼーっとして」なんだ?「ん、え、あれ? あぁ、ごめん」理由もわからず言葉を発した。「なんだよ、別に謝らなくたっていいのに。ほら、学食食いに行くぞ」学食、ということはやっぱりここは学校なのだろう。「あぁ、忘れてた! 行こっか!」不思議と言葉が出てくる。「おう!」食堂についた。そして、ご飯を食べ終わった頃、女どもに「放課後、体育館に来てね。来なかったらどうなるかわかってるよね?」と言われた。行くことにしよう。
体育館、場所を知らないはずなのになぜか勝手に体が動いて体有館へついた。そこがなぜ体育館だとわかるか、それはあの女たちが居たからだ。「あら、きたのね。ばっかみたい」女の中のリーダーらしきやつが笑いながら言った。馬鹿にするように。今すぐに噛み千切ってやる。
いや、できない。マナはあるが、オドがない。死んだから? でも今は生きてる。なんなんだ。「なんか喋りなさいよ!」叩かれた。すごい思いっきり。倒れるほどに。「雫!」「修ちゃん!」とっさに声が出た。修ちゃん? こいつの名前か?「やば」女が呟いた。ものすごく嫌な顔で。「雫! 雫! 大丈夫か⁈」女たちが逃げたから、この男が近づいてきた。すごく胸が苦しい。苦しみのあまり自分は逃げ出した。
今は屋上の端。風が自分を引き戻そうとする。きっとこの体の持ち主は前からこうやっていじめを受けていたのだろう。限界だ。
「雫! 雫、まだ早い! お前には俺がいるだろう⁈」記憶が入ってくるのがわかる。
これは、「輪廻転生」と言うやつだろう。女王様から聞かされたことがある。動物たちは輪廻し、転生すると、必ずだ。生かし生かされ続ける。さて、次の人生と行こう。次はうまくいくと、期待しよう。「しずくー!」この男は半田修司という人みたいだ。それで、自分の彼氏である。さぁ。飛び降りよう。「修ちゃん。ありがとう。来世で結婚しようね!」不思議とまた言葉がで、「あぁ!」男は泣きながら自分を見送った。
自分はまた死んだ。それから、しばらく輪廻することがなかった。このままだと、悪霊になってしまう。
きっと大丈夫だ。また輪廻する。悪霊になる前に。
周りはとても暗い。魂がうようよしている。輪廻するのを待っている。この魂たちは動植物の魂だ。人や動物だけではない。植物にも魂がある。皆ずっと待っているのだろう。そうやって見てるうちに魂が黒くなっている。もう何年経ったかわからない。そろそろ危ない。
希望がなくなってきた。何十年、何百年経ってるか、全くわからない。時の流れが全く違うのだ。周りの魂たちがどんどん悪霊へと成っている。自分と同じくらいのときにきた魂たちも悪霊に成ってきている。悪霊に成ると、ここから追い出されて生きてるものたちをたくさん無差別に殺すのだ。いくら生きてるものに憎しみがなかったとしても、殺してしまうのだ。
自分はそうなりたくない。そんな残酷なことしたくない。
でももう無理だ。魂がほとんど黒くなっている。もう少し経てば自分も悪霊に成るのだろう。そうやって考えている間にもどんどん時間が過ぎてゆく。
*
あれからまたどれだけ時間がたっただろう。悪霊に成ってしまった。悪霊に成ると相当なことがなければ輪廻することはできない。今はとてつもない生きているものへの憎しみに侵され、無差別に人間を殺している。家に放火し、人を殺す、死神のように。
そうやってニンゲンを殺し、殺してゆくと自分はやけどを覆った右目が失明してきた。やけどした頃からほとんど失明していたが。だから、いっそのこと完璧に失明する前に終わらせてしまおうと、自分の鋭利な爪でこの右目を切り裂いた……
ある人間をターゲットにしていた。そいつは自分に気づいたのかチラチラと自分の方を見てくる。そして怪しげな家へ入っていった。名前が書いてあるようだが読めない。自分が生きてた時代とはずいぶん文明が発達しているようだ。知らない文字や知らない言葉を使っている。すると男は立ち止まって「なぁ、オオカミさん。ここはお祓いをするところなんや。悪霊とバイバイするとこ」こう呟いた。なんだ? 自分が見えているのか? 「みえているよ。とてもキレイやな。君はオオカミ族かい? 一度姿を見てごらん。君は女王だったのやろうね。だけど毛が黒いよ。僕が何者かって? あんね、僕、『キツネ族』なんや。君らからしたら敵対象だけど、今はいいっしょ? んで、今は化けてるって感じ」まるでココロを読んでるみたいだ「キツネ族だと⁈ それに僕の毛が黒い? そんなわけ無いだろう!」自暴自棄に叫んだ「まぁまぁ、落ち着いて、君は今からお祓いされて成仏できるんや。いいやろ?」キツネが頭を搔きながら言った。その顔は切れ目の節目でまさにキツネみたいだ。そして家へ入っていった。「僕がお祓いするからなー。大人しくしてろよ。このまま無差別に殺しをするのはゆるさへんでー」そうやって自分を縄で縛った。すると謎の光をおび、その姿をあらわにした。九尾の狐だ。「ははっ、びっくりしたんか? もういいから祓うぞー」キツネが少し笑った。その僧たらしい節日は笑うと三日月のようになる。大人しく祓われよう。「目えつぶれよ。こんなイケメンに迫られたら恥ずかしいやろ」キツネが憎たらしい顔で笑った。たしかにこいつは美形だ。キツネ族はみな美形だ。だが恥ずかしくなどない! なぜ殺すことができない。なぜ行動ができない。これもキツネの力か?「あぁ、忘れてた。僕はキツネ族の王のホワイティス。よろしく。まぁお前とはもう会わないだろうがな」キツネ族の王、せっかく会ったのに死ぬのか。いやもう死んでいる。「大人しくしーよ、悪いことはせーへんから。幸せになれよ」そう、ホワイティスが言うと、目の前が真っ白になった。
不思議な感覚だ。死ぬのと同じようなものだが、身体がふわふわする。天に戻るような、そんな感じだ。天に戻ったら生まれ変わるための手続きをしなきゃならない。自分はオオカミ族だからフェンリルの「オオカミサマ」が対応してくれるのだろう。偉大なるフェンリル様に会うのだ。礼儀正しくしなければ。
ここはどこだろう。気がつけば病院の待合室のようなところへ居た。「番号零一七さーん! ミナ・セレノさん! 三番へ来てください!」呼ばれた、呼ばれたのか? 本当に自分なのか? とりあえず、三番受付へ行くとしよう。
「こんにちは。まだ何が起こったかわかってないようですね。セレノさんは成仏しました。敵対象のキツネ族の王に、お祓いをされました。だからあなたはここに居ます。それはもうおわかりでしょう」このオオカミは何があったか知っているらしい「まずは、ここにお名前や年齢を書いてください」といい、自分に書類を渡した。名前、ミナ・セレノ、年齢、えっと、いまは十七かな、性別、うーん、人造人間だけど、一応あるから、女、と。誕生日、自分が作られたのは霜月十五日だから、これでいいか。履歴、とは、過去のことか、えっと、僕は人造人間で、オオカミ族になり、死亡して華というガンの女の子に輪廻しました。そして、その次は雫という女の子で、今に至りますっと、
……「書けましたねありがとうございます」あれから黙々と書いていった。今頃お兄ちゃんたちもやっているのだろうか? もしくはもうやったのだろうか? まだやっていないのだろうか?「確認できました。あなたのお兄さんたちはもう新しい生命として生まれ変わっています。でも、二人くらいはまだみたいです。生まれ変わると記憶を喪失してしまいます。でもまたきっと、思い出せるでしょう。過去にもそういう人たちが居ました」「わかりました、僕、来世は上手く生きれますかねぇ?」自分はお辞儀をして言った。「きっとうまくいきます。いくら悪霊に成って無差別に人々を殺してたとしても、生前の行いが良ければ全て良しなのですよ」受付人のオオカミが優しく微笑みながら言った。「さて、オオカミサマのところへゆきましょう」オオカミは立ち上がり、自分を手招きした。「こっちですよ」
しばらく歩いた。やはりオオカミサマに会うのだ。そう簡単には会えないだろう。
「オオカミサマに会うなんて、緊張しますよね。私達も、何年もこの仕事をしてきましたが、未だに緊張します」オオカミが照れくさそうに言った。
あれからまた、山のようなところをずっと登っていった。「そろそろですよ」オオカミは疲れているようだ。
突然、目の前に巨大な門が現れた。「ここですよ」少しため息を吐くように言った。「オオカミサマ、新しい生まれ変わりの手続きをしにまいりました」オオカミがひざまずいたので自分も急いでひさまずいた。
「おやおや、これまた美しい」「履歴書でございます!」オオカミが少し震えた声でいった。「ほうほう、なんと、あなたはオオカミ族の女王だったのですね。通りで美しいこと ﹂「ありがとうございます! そう言っていただきとても光栄です」自分は急いでいった。「おやまぁ、そんなに礼儀正しくなくてよいのですよ。あなたは女王なのですから」オオカミサマがその美しい顔で自分に微笑んだ。「さて、あなたのお兄さんの話をしましょう。あなたのお兄さんは少し前にここへいらして、生まれ変わっていきましたよ。オオカミ族の王だということもあり、とても勇敢な姿でありました」さすがお兄ちゃんだ。「そして、元女王、セレフルのことですが、あの方はとてもオオカミ族の掟や歴史に深く敬意を持っていましたが、あれは大きな間違いです。オオカミたちと人間の共存そして、他の氏族とも共存することが大事でした。なのにあの方はすべてを破りました。掟を変えたのです」そうだったのか、それを自分は教えられていたなんて。「本当の掟は、他の氏族と極力かかわらないことではなく、キツネ族だけに限られていたのですよ。伝統は決して変えたりはしませんでしたが、私に対して悪いことをいったものをすべて処するということ、あれには私も流石に心を痛めましたよ、本当はあの殺し方をしたら生まれ変わったり輪廻をすることができないのですが、私が特別に生まれ変わらせてあげたのです」と言い、深いため息を吐いた。「そんなことをしてたなんて、ところで、女王陛下が自分に託したことはなにかわかりますか?」と自分は少し、口を開けたり閉じたりしながら喋った。「そうですね、これを言ったらあなたはとても悲しむでしょうが、彼女はあなたに、人間を全て滅ぼすこと、そして、オオカミ族以外の氏族は消すことの意思を継がせていたのです」なんてこと⁉︎ そんなことを自分に。「そうですよね、こんな事言われてしまったら、そんな顔にもなりますよね」オオカミサマが少し申しわけないような顔をし、目を逸らした。自分の顔に出てしまっていたらしい、申し訳ない。
「さて。時間は少ない、早くやってしまわなければ」オオカミサマが再び優しい笑顔を浮かべた。「こっちです、ここへお入りなさい。そしたら新しい人生を迎えられるますから、もちろん、人生とは限らない。他の動物になることだってある。そのときは、もうオオカミ族にはなれなくなりますよ。オオカミであればそのままオオカミ族になれますがね」と、遠くを見て言った。ここが新しい生きる道へつながるのか。とても緊張してやまない……
「またいつあなたに会うことになるかわかりませんが、また。そして最後に一つ。他の女王が早く見つかることを願います」そういうと、自分は闇へ溶けていった――
*
気づいたら幼稚園児になっていた。きっと、小さい頃の記憶がなくなったからそう思っているだけだろうが。幼稚園の頃の記憶もむしろ怪しい。小学生の頃の記憶は多少覚えている。学芸会とか運動会をして、沢山お友達を作った。この頃はまだ、記憶が戻っていなかった。だが、小学高学年の頃、少しずつ記憶が戻ってきたのだ。そして、小学校を卒業した。
中学に入った。この頃にはほとんど記憶が戻っていた。そして、お兄ちゃんたちに会ったんだ。懐かしみのあるお兄ちゃんの遠吠えが聞こえたような気がした。夢の中だった。夢の中で約束をしたんだ。そして、「俺たちやお前はマナがまだある。だからオオカミへまたなれるんだ。とにかく、人間に見られないようにオオカミになってひたすらに山へ駆け進め! 俺達にまた会いたいのならばな」オオカミになれるなんて、そうやって思ってたけど、不思議になれるような気がした。でも、いつ行けばいいんだ? 今? わからない。いまはとにかくオオカミになれるか確認でもしておこう。
沢山、試す必要はなさそうだ。身体が徐々にオオカミのようになってきている。手足が獣のようになり尻尾と耳が生えてきている。とても懐かしい感覚だ。決第に身体が大きくなってくる。ベッドがキシキシうなっている。今のうちに逃げよう。
窓を開けて外へ飛び出す。外は寒い。すぐ近くに山がある。このまま走っていけば着けるだろう。走ってるうちに身体がオオカミになりつつある。できれば山についた頃になってくれればよいのだが。そうじゃなければ人間に見つかってしまう。急がねば。
そもそも今日なのだろうか。わからないのに走り出してしまった。遠くから遠吠えが聞こえるような気がする。現在は日本に野良のオオカミはいない。だからきっとこれはお兄ちゃんの遠吠えに違いない。
どっちにしろ山に逃げなければ。山はすぐ近くだ。もう山へ入る。早くみんなに会いたい。
いつ会えるのだろう。もしこれが夢なら? 自分が厨二病ってだけなのか? 一体何を考えてるんだ? 魔法なんて使えるわけない。それに、動物にだってなれない。きっとこれは幻想なんだ。自分はその場に座り込んでしまった。
とその時。目の前にはまるで宴をやっているような光景が広がっていた。自分はその懐かしい光景に見惚れていたらあるオオカミに声をかけられた。「よぉ! 元気にしてたか?」と、とても懐かしく元気な声が聞こえた。その目の前にはお兄ちゃんがいた。「お前、なんも変わんないな! まぁ俺もだけど」と少し笑いながら自分の肩を叩いた。自分はなにも理解できなかった。今じゃないと何が起こったかわからなかった。そのとても懐かしい声に自惚れて自分は止まってしまった。「おーい。大丈夫か?」とその目の前にはまるで嘘みたいな人にオオカミの尻尾と耳を付けた半獣人が現れた。もうだめだ。頭が破裂する。ここは天国? 半獣人大好きなんだけど!「おい、これは夢でもなんでもねぇんだからな? 一度ニンゲンとして生きてきたからか? ばかばかしい、女王陛下のことはオオカミサマからきいたな? 早くオオカミ族復旧祭をやるぞ」その半獣人が呆れも入った少し悲しい声で言った。まだ話したいことがあると言わんばかりにこっちをチラチラと見てきたが自分は無視をした。自分はまだオオカミのまま。自分もあの半獣人のようになれるのか? あぁ、もうほんとうになにがなんだかわからない。「おいこっちだ! お前の部屋に行くぞ」周りはとてもガヤガヤしている。自分の部屋なんて何であるんだ? 自分の家はここじゃない。早くお母さんのもとへ帰りたい。きっとこれは夢だ。夢が覚めたらまたお母さんと友達たちに会えるんだ。ここがお前の部屋だと半獣人が手招きしている。そこにはとても懐かしく、今の家よりも安心できるような思いがふわふわと自分を囲む。ますます自分はその部屋へ入っていった。だがその懐かしい感じとは裏腹にひどいありさまが一面に広がっていた。現実へ引き戻されるように。「あー、まぁそうなるよな。俺も最初部屋に行ったとき苦しくてたまらなかった」半獣人が気まずそうに自分へ言った。まぁまぁと言うように今度は広場のようなところへ連れて行かれた。また宴のような風景が広がった。「ここもあそこのようにひどい有り様だったんだが、俺が全部直してやった! ははん、すごいだろ」半獣人はそのとても懐かしい顔でドヤ顔をした。とその後にため息もついた。そして耳と尻尾が垂れた。いつになったら思い出してくれるんだとため息をついたようだ。思い出してはいるのだ。だって来るときお兄ちゃんたちに会いたくて仕方がなかったのだから。だがこの現実を受け止めきれない。「あー、そのよお、お前も人の姿になってくれないか? もしやり方を忘れたのならば俺がやるが」と頭を搔きながら言った。と、結局お兄ちゃんが自分をニンゲンにしてくれた。とても美しいドレスを着ている。「よし、お前の名前はミナ・セレノだ。本当はわかってるのだろう?」たしかにわかっているのだが「早く復旧祭をしようか」疲れた声で言われた。そろそろ落ち着こう。そうだこれは正真正銘の現実。今はそう思うことにしよう。
目の前にはひざまずくものも居れば不思議そうな目でみてくるものもいた。すこし怖い。自分がちゃんと女王としての仕事をすることは生前なかったのだ。あまりオオカミ族の詳しいことも知れてない。どんなことをすればいいのかもわからない。
さてそろそろ準備をしなければ、呼吸を整えて、ゆっくりと。
「皆さん! こちらは女王セレノでございます! 今から……えぇっと」「宴を始める!」耳元でお兄ちゃんが言ってくれた。「あ、あぁ! 今から宴を始めます! 皆さん! 存分に楽しんでください! また皆さんと集まれて光栄です」自分は少し動揺したがすぐに落ち着いて言った。と、庶民達が速やかに静かになり、宴の準備を始めた。あるものは料理を用意し、あるものは装飾を、あるものはうちらの席を用意していた。
「なんだ、できたじゃないか? はぁ、全くお前は有耶無耶したやつだなぁ?」すこし呆れ笑いをした。笑止千万なやつだとでも言いたいのだろうか? はぁ、まだこの世界のことなんてわからない。オオカミ族のことも、他の氏族のことも。「おい。ぼうっとしてないで楽しもうぜ? 庶民どもが俺らの机と椅子を持ってきてくれた」お兄ちゃんが不意に憎たらしい笑顔で額にシワを寄せた。とっても美味しそうな食べ物と、素敵な机と椅子がたくさん並んでいる。席につくと皆でいただきますをして食べる。自分の手には自分が来たときと同じ、クロワッサン生地のバターロールがあった。とても嬉しくて尻尾をぶんぶん振った。たくさん口に頬張ってブラウンシチューを飲んだ。あっつあつのブラウンシチューとバターロールで満たされている自分の頬は今にもはち切れそうだった。他にもでっかいサーモンの刺身、鹿肉に鴨肉があり、自分は再び尻尾を振った。あっという間に時間が過ぎ、ごちそうさまをして皆と解散した。まずい! もう朝日が上がっているじゃあないか! 早く家に戻らなきゃ!
――それからしばらくニンゲンの暮らしをし、お兄ちゃんたちに会うことはなかった。だがまた夢でお兄ちゃんが自分を呼んだ。要件は、「今の魂をなくさないためにカセットを作ったんだ!」だそう。一体どういうことなのか? カセットというとなんだかゲームを思わせるが、魂をそこへ閉じ込めようということか? そこへセーブデータを保存すると、まあそれは見てからだな。
お兄ちゃんのところへついた。「おぉ、久しぶり。これはいいぞ! これがある限り俺らは死なない!」自信満々で、うちらを直りかけの部屋へ招待し、それを見せた。少し大きめのチップのようなものだ。保護された猫とかにいれるマイクロチップのよう。「これを頭へいれる。脳へ直接な! これには魔力を入れてある。それによって記憶がこのチップの中へ入る。そしてこれは取り出し可能だ。脳の真上、まぁ簡単に言えば頭上をトンと軽く叩いた刺激でチップが出てくるようになってる。もう検証済みで俺の中にすでにある。だがな、デメリットがあるんだ。本来体の中へ入る魂をチップへ強制的に入れてるから、チップが取れると、電源をオフにしたロボットのように動けなくなってしまう。だから――つまりはこのチップは機械でいう電池みたいなもんだ!」ほお、なんだかややこしいがいいものを作ったみたいだ。「まずは、誰がいれる? そんな難しいことじゃない。チップを頭上に乗せてぐぐっと入れるようにすると勝手に入っていくから」ぐぐっと、なるほど? わからん。まあなんとかなるだろう。「ほらよ」お兄ちゃんからチップを渡された。ぐぐっと、ぐぐっとしたらいいのだ。頭上に乗せ、チップをぐぐっとする。……あぁ、なんだか変な感触だ。気持ち悪い、だが、痛くはないな。「どうだ? 見た感じ入ったみたいだな。これで大丈夫だ。もしセレノの身に何かあったら俺の方に連絡が行くようになっているんだ。チップが破損した場合の予備も沢山コピーしてある、記憶のデータもしっかり記録されてあるから大丈夫だぞ」はあ、本当に銀治屋なのか、鍛治屋というかなんか違うぞ。いつの間にそんなすごいもの作って、本当にお兄ちゃんは優秀な王だな。一方自分は何もできやしない、「そんな暗い顔してどうしたのさ? さて、私達もチップが入ったし、もう帰ろうかな」姉ちゃんが言った。「もう帰るのか? でもうちょっと居たっていいじゃんかよー」お兄ちゃんが姉ちゃんが言う間もなく言った。そして「もう、私達だって暇じゃないの! あんたは一体何してるのよ、セレノは学生であたしはちゃんと社会人だし、姉さんもデザイナーとしてちゃんとしてるのよ! 全く、あんたはちゃんと仕事しなさい!」姉ちゃんが言った。すると「仕事してるしー? 今だって、チップを作ってやったじゃないか!
けー、全くお前はホント生意気だな!」と頬を膨らまして兄貴が言った。その裏には何か複雑な事情があるみたいだった。「はぁ⁉︎ うるさいわよ! それとこれは別! わかった?」姉ちゃんが声を荒げて言って、その場を去った。
「しょぼーん、そんな怒んなくてもいいじゃーん」兄がしょぼーんとしているのをお姉ちゃんは苦笑いしながらみて、「あはは、ウチ、もう帰るからね? またネ」そういいお姉ちゃんも帰っていった。残るは自分。さてどうしようか、「セレノ! セレノは居てくれるよな? な?」兄貴がわざと目をうるうるさせて自分を見つめてきた。「あぁ、えっと、まぁ夜が明けるまでは居てあげる」自分はとりあえずそう答えたが、正直すごく眠い。「やったぜ! さすが俺の可愛い可愛い妹」はぁ、シスコン兄め、うんざりするよ。 「じゃあ、眠そうだし、一緒に寝るか?」微笑んできた。眠そうだとわかっているなら帰らせてくれ、「そんな顔すんなって、一緒に寝ようぜ?」今の年齢で兄責と一緒に寝るというのか? いやだいやだ「別にいいじゃねえかよお」兄貴が再びウルウルした目で見てきた。「い、いや、でも自分ももう年頃だしさ? ちょっとそういうのは」「ええ、兄弟だからいいじゃん。もしかして、俺のことそういう目で見てんのぉ? やだぁ」うざい。なんて面倒くさい兄なんだ「もう帰る。嫌だから。一人で寝てよね」自分は冷たく言った。「ええん酷い、いいよん一人で寝るもん」なんだこいつは、はあ、自分は呆れながらも微笑み、手を振り帰っていった。
*
あれからまた、ずいぶんと時が過ぎた。オオカミ族もしっかりと元通りになった。だが、一つだけ良くないことが知らされた。監獄が破壊されたことから囚人たちが逃げ出したらしい。それに、凶悪犯罪集団たちだった。庶民であったため、名前はなかった。その中の一人はは特に危険な狼である。だが他に新しい氏族たちのルールができた。それは、「一年おきに氏族同士で戦争をし、位を決めること」である。戦争をする。それを決めたのはまだ誰なのか知らされてないが、きっとあのライオン族とかだろう。ばかばかしい、オオカミ族はおそらく敵対象のキツネ族と戦うことになるだろう。そしたらまたホワイティスに会えるだろうか? いや、なにを考えてるんだ! 相手は敵対象のキツネ族の王だというのに……
「今は携帯があるから夢でなんかわざわざ伝える必要はなくていい」と兄貴が言っていた。そして、毎日のように一人称を変えろと言ってくる。「一人称を変えれ! 僕じゃなくて、私とかウチとか自分とかあるじゃないか!」その日はそう言われた。そしてびびっときた。
「自分」その一人称に自分は惹かれた。そして、慣れないけど「自分」という一人称を使うようになった。元々は「僕」だった。だから今も間違えて僕と言ってしまう時がある。特に理性が保てないときとか、不意に話しかけられたりすると「僕」になってしまう。まあ、そんなことはさておき、戦争は今年初めてやる。だからそのためにたくさんの群狼たちを集め、軍隊へ加入させている。お姉ちゃんは軍服を一生懸命作っている。お兄ちゃんは武器を。姉ちゃんは薬品、自分は軍の者たちを集めて訓練をしている。本当はやりたくないけど。まぁでもしょうがないことだ。これはオオカミ族を守るためのこと、自分たちの強さを見せつけてやる!
そして当日。
自分たちは戦場へ向かった。同時にキツネ族も来た。オオカミ族は前方に自分達で後方が庶民どもだった。そこは失敗だと思った。キツネ族は前方に庶民どもを、後方に王を配置した。それぞれ前方のものが氏族の入れ墨が書いてある旗を掲げた。たくさんの銃撃に爆撃で死んでいくものは両方とも沢山あった。その戦はなんとも残酷で、逃げ出すものもいた。キツネ族と逃げる者もいた。最終的に、軍の者と自分達だけ残った。他の庶民どもは怖くて逃げ出したり死んだりしていなくなった。自分は自慢の翼で上空へ飛んで援護していた。お姉ちゃんは不参加だ。姉貴は疲れ果てた軍の者達のために治癒していた。自分は、ホワイティスを見つける暇もなく、あっけなく勝った。
お見事! 無事にオオカミ族が勝ちました!
けっきょく、ホワイティスとは会えないで終わってしまった。
……この戦争に勝つと負け組になんでも言うことを聞いて貰えるのだ。
うちらが勝ったのでオオカミ族のみんなで何をしてもらうか決めている。
お兄ちゃんは武器を売買しようとしている。姉ちゃんは医療品を、お姉ちゃんは服を作るための色々な材料だという。庶民たちは飲食物だと。
一方自分は、ただ、ホワイティスに会いたい。
……結局自分の願いは叶わず、お兄ちゃんたちや庶民の願いが叶った。
毎日毎日、キツネ族が我らの聖域に出入れし、たまには泊まっていったりとしてものを運んでいる。
自分は正直、キツネ族となぜ仲が悪くなってしまったのかわからないから、キツネ族とは仲良くしたいと思っている。狐狼という言葉があるようにキツネとオオカミは近しいものだと思うのだ。
きっと昔になにかあったのだろうが、今は仲良くしてもいいのではないだろうか?
「やほ! なにぼうっとしてんの」なんだ⁈ ビックリして目を開けた。「俺に会えなくて寂しかったやろ」とあの憎たらしいキツネが目の前でそう言った。ホワイティスが会いに来てくれたのか!「おぉい、なんか言わんか? 僕寂しいて」「ほ、ホワイティス王、だよな?」「なんや、﹃久しぶり! あの時はありがとう! ﹄とかか思たわ、なんや、ホワイティス王だよなて。そうに決まってるやろ?」と、少し悲しげに返してくれた。「じ、じぶ! 自分、貴様に会いたかった!」自分は、顔を赤らめながらも正直に本心を伝えた。「なんや、それ。可愛すぎるやろ、反則やわ」なにを言うんじゃこいつは!「こっち来てよ。俺の家、行こか?」憎たらしい顔で微笑んできた。「え、あ、あぁ。構わない。では案内してくれ」少し戸惑いながらも自分はその憎たらしい顔に微笑み返した。「こっちやで」と、自分の腕を少し強く掴んで言った。幸い、誰も見ていなかったからホワイティスが殺されることは無かった。﹁安心しぃ、なんも、セレノが思ってる怖いことなんてしやんから。腕、強く握っちゃったね、ごめんごめん ﹂と、優しい笑顔を浮かべた。﹁セレノ、僕の家に行ったらなにをしたい? 食事とか? ﹂何をしたいと言われても、特にない。﹁特になかったら、お茶でもしようや! いい茶を手に入れたんでね ﹂と言い、さりげなく手を繋いできた。﹁ それなら、ホワイティスの家に行かなくても良くはないか? ﹂﹁ やだなぁ、オオカミ族に見られたらまずいでしょー? ﹂と、苦笑いをした。確かにそうだな。早く行って早く済ませてしまおう。「ねー、セレノなんかしたいことないのー? 僕だけ一方的にしたいことしてるじゃーん」面倒臭いやつだな。そんなの知るかよクソめ。「あー、怒った? 心配なんだよ、許してー?」ちっと舌打ちをしてやった。「もうちょっと! ごめんて、ほら着くよ」ふふ。おちょくるのも面白い。「ねぇ笑ってない⁈」ふふ、あっはは! やっぱ、ホワイティスは面白いな。家に着いたみたいだし入ろう。「おっじゃましまーす!」「どうぞー」ホワイティスの家。ここは、氏族の中での家では無いな、よく考えたら全く違う感じだ。人間界の家だろう。非常に充実している。「そんなじっくり部屋見られたら恥ずかしいて」少し照れくさそうに憎たらしいキツネ野郎は言った。「ここに座っといてね」ホワイティスが椅子を引いて自分を座らせた。直ぐに台所へ向かい、棚から茶らしきものを取り出した。じっくり見ておこう。なにか入れられるかもしれない。「ふんふふんふふーん」呑気に鼻歌を歌っている。ていうか、よく考えたら半獣人のまんまだが、大丈夫だったのだろうか?
「出来たよー。これはね、リーフティーなんだ」ふむ、とってもいい香りがする。紅茶は大好きだから嬉しい。さて、頂くとするか。香りが良い上に味も良い上質な紅茶だ。「美味しい?」ホワイティスがこちらを見つめている。「とても美味しい、この紅茶はどこで手に入れたんだい?」自分も欲しいものだ。「これはね、知り合いがやっている御茶屋でしか手にいれられないのだよ。その知り合いはね、ネコ族なのだけど、カラカルと言う、ほとんど見かけることのできない者達なのだよ。見つけられても殺される可能性が高い」カラカル! 自分はその猫を知っているぞ!「どうやら知っているみたいだね」ホワイティスが茶の箱を目つめながら言った。「さて、茶も嗜んだし、次はセレノのしたいことでもしようか」チリリリリ! 自分の携帯が鳴った。お兄ちゃんから電話だ。「ホワイティス、お兄ちゃんから電話だからちょっと静かにしてて」自分がそう言うとホワイティスが縮んだ。そして電話に出ると「おい! どこにいるんだ! キツネ族の王もいないって騒ぎになってるぞ!」お兄ちゃんがそう言った途端、ホワイティスが携帯を奪い取ってお兄ちゃんにこう言った。「お宅の妹さんなら俺の家で一緒に茶をしてますよ。安心してください、何も変なものは入れてませんから。あ、後俺のクソ女に『ホワイティスは大丈夫』って言っといてください。ありがとうございます」そしてすぐに電話を切って自分に返した。ひどく煽っていた。これで確実に殺される事が決まった。「どうしたん、そんな顔して。大丈夫やて」大丈夫なわけがない。自分は恐怖で椅子から倒れた。「おわっ、そんな、本当に大丈夫だって。僕を信用できない?」「できるわけがないだろう! 所詮は敵対象のキツネ族の王だぞ⁈ 怖い、お兄ちゃんに殺される、殺されなくても絶対に追い出されちゃうよ」自分はパニックで頭が働かなかった。この頃お兄ちゃんは言われた通りにホワイティスの女に事情を説明し、すぐにどちらにも危害を与えないよう頼んでいた。全てホワイティスの思い通り。「セレノの兄さんはきっと君を殺せないさ。僕にはわかる。君も落ち着いたらわかるさ」ホワイティスは奇妙なほどに落ち着いている。自分は深呼吸をした。そうだお兄ちゃんが自分のことを殺せるはずがないじゃないかと、自分に言い聞かせた。しばらくするとお兄ちゃんが来た。再びパニックになりそうだったが、ホワイティスが落ち着かせてくれた。「さて、キツネ族の王よ。俺の妹を返せ」それはとても怒っている様には聞こえなかったが、その奥に恐ろしく怒った感情が入っていた。「おやおや、わざわざ来てくれてありがとうございますねぇ。ところで、俺の妹ではなく、うちの女王を返せの間違いではないですか? あなた達は所詮セレノのことを大事に思っていないのでしょう? ましては家族だなんて」急にありもしないことを言ったもんだから「何を言っているんだこのクソギツネ! 俺らはちゃんとセレノのことを大事に思っている! それに家族だとも思っている! お前に俺らの何がわかると言うのだ!」とお兄ちゃんは激怒した。でも正直、ホワイティスの言っている事が本当な気がしてきた。だって本当の家族でないし、お兄ちゃんが自分のことを愛す意味なんてないし、「おやおや、セレノが不安そうな顔をしていますよ? と言うことは、本当は愛していない事がバレバレなのではないんですかぁ?」お兄ちゃんが、歯を食いしばった。途端に台所から包丁を持って来てそれをホワイティスへ刺した。「ぐあっ」ホワイティスが倒れた。包丁は脇腹に刺さったままだ。「己ぇ! 許すまい!」お兄ちゃんがホワイティスにのしかかってさらに深く刺した。「ホワイティス⁉︎ どけよぉ⁈」目の前にいたその黒い狼を思いっきり突き放した魔力でレラ病院へ瞬間移動し、すぐさまホワイティスを運んだ。「おっセレノ、戻ってきたのか。セレガンったらすごく心配してたぞ、って、やったなぁ、セレガン」この病院は姉貴のセレナが医院長であり、その姉貴はすぐに事態を把握し、ホワイティスを手術室へ連れて行った。すると後ろからお姉さんのセレファンが来て、話を聞いてくれた。「セレノちゃん、大丈夫? ウチ話聞くヨ」お姉さんはとっても優しくて、自分が落ち着くまで待っててくれた。自分が話し出すとお姉さんは優しく相槌を打ち、それから背中を撫でてくれた。しばらくするとお兄ちゃんが戻ってきた。「セレノ、ホワイティスはどうした、様子を見たい」なんて言うもんだから自分は虫をして睨んでやった。「こらこらセレノちゃん、セレガンも落ち着いてるみたいだし、教えてあげよっか?」姉さんに叱られた。しょうがないからクソ兄貴に教えてやることにした。「ホワイティスなら今あっちで手術を受けてる。行ってもいいけどホワイティスに何もしないでよね」強く言った。「あぁ、ありがとう、俺さ、間違ってた、確かに、ホワイティスの言うことも間違ってないなって、さ。謝りたいんだ。謝って許されることじゃないのは知ってるさ、だけどせめて謝らないとなって、セレノも許してくれるか?」お兄ちゃんたら涙目で言ってくるものだから許してしまった。本当は許しては行けないのだろうけど、なんて、そんなこと考えていたら姉貴とホワイティスが戻ってきた。
ホワイティスは苦しそうだ。その辛そうな目で軽くお兄ちゃんに微笑んだ。いつもの憎たらしい顔では無い。「あ、ホワイティス、大丈夫か? 本当に申し訳ないことをした。お前の言っていることは正しかった、ホワイティス」今までに聞いたことない声色で言った。「そんな気にしてへんで、僕も、いきなりあんなこと言って申し訳へんわ、お兄さん」ホワイティスは息が切れている。「いやぁ、セレノがもし包丁を抜いていたら致命傷になってたよ。まぁ、そうでなくとも、内臓は大いに傷つけられてるし、息も浅くなる。いくらあたしが魔法で治癒できると言ってもたかがしれてるんだから、セレガン、ホントにこういう騒ぎはやめてね。全くもう」姉貴は誰よりも平気そうだ。それからお兄ちゃんが奇妙な提案をしだした。「キツネ族とオオカミ族で平和条約を結ばないか?」との事。とても珍しい事だ。お兄ちゃんはとてもキツネ族を嫌っているから。「平和条約? それじゃあ獅子族から戦争をしろと言われた時はどうするんや?」確かに一理ある。「それは、殺し合いにはしないようにしよう、それでいいだろう?」殺さないように、それは難しい様な気がする。「殺さないように、かい、まぁ何となく分かった。いいよ。結ぼうや。その条約」ホワイティスは意外にも快く許可した。
「ホワイティス。あなた、それはやめた方がいいと思うわよ」実態は見えないがそれがキツネ族の姫であることはわかった。「あのなぁ。そのくらい良いだろう? これ以上殺し合うのも愚かだ」少し怒っているようだ。「あなたねぇ! 本当にいい加減にしてくれませぬでしょうか? ここではダメです、キツネ族の栖へ行きましょう」姫はとても怒っているようで車椅子ごとホワイティスを連れていった。「キツネ族と和解するのは無理そうだな」お兄ちゃんがため息と共に言いこの場を去っていった。
*
あれから数日経った夜に姫が自分の元を訪ねてきた。「ホワイティスは本気で平和条約を結ぼうとしてるの。そうしたら戦争でホワイティスが死ぬ恐れは無くなるでしょ? だから殺して欲しいの。あなた、ホワイティスと仲良いみたいだし騙して殺せるでしょう?」と、それを聞いてついキツネ族の姫を平手打ちしてしまった。すると一瞬姿を現したがそれはとても美しかった。顔を覚えられるほどの時間は見れなかった。それから静かになったから恐らく居なくなったのだろう。ホワイティスには仮があるし、命の恩人である。だから絶対に殺せない。
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次の日、お兄ちゃんが正体不明の奴に半殺しにされた。その夜に姫がまた来た。「今朝お兄さんを半殺しにしたのは私。お兄さんを殺されたくなかったらホワイティスを殺して」などと人質までとってホワイティスを殺してと言ってくるから「どうしてそんなに殺して欲しいのだ? 何か理由があるのだろう?」と聞いてみた。「えぇ、そうよ、そう。ホワイティスには散々されてきたの。これを聞いたらきっと殺したくなるわ。彼はね、私を姫に任命した癖に私に『姫など辞めてしまえ。お前は用無し』だとか、『死んでしまえ。お前みたいな不細工なやつ』とか、沢山言ってきたの。これだけならまだ耐えられたわ。でも、今度は私に手を出してきた。おかげで私はみんなの前で姿を見せることが出来なくなったの。『そんな顔二度と見せるな!』って言って私に熱湯をかけてきたの。そのお湯、普通の熱さじゃなくてまるで溶岩のように熱かったわ。そんなことありえないのだけどね。それから、『お前が死ななきゃお前の両親を殺す』って言って脅して来たの。さっき私があなたにしたように。だから私は両親の為に死のうとした。だけど死ねなかったの。そしたら本当にホワイティスが私の両親を殺したの。つい最近のことよ。戦争の前夜。ホワイティスはこれを善意だと言ってきたわ。『これでお前の弱い足でまといの父が戦死しないですんだな』と。そんなの酷いわって、私本当に辛かった。だから、だから殺して欲しいの。本当は私がこの手で殺してやりたかったけど、火傷で物も握れないの。だから今朝のは部下達にやって貰ったわ。お願い、本当はあなたのお兄さんを殺したくないわ、私と同じように辛い思いなんてして欲しくないもの」姫は、気づけばその姿を露わにして泣いていた。顔から下を火傷していて、下半身も半分火傷しているようだった。自分は、ホワイティスに対しての怒りが止まらなかった。今すぐにでも殺してやりたかったが明日の朝にすることにした。
朝にホワイティスを呼び出して一緒にお茶をしようと言った。するとすぐ馬鹿みたいに来た。だから自分はすぐ隠れさせている姫へ合図を送り気づかれないように銃を用意するとすぐにその頭へ撃ってやった。苦しまないように頭を撃ってやった。本当は、苦しんで死ぬようにしたかったがそれは出来なかった。助けてくれた思いが残っていたから。それからホワイティスの死体を焼いて証拠隠滅をした。
と次の日、次の戦争についての会議が知らさせた。それにはお兄ちゃんが行くことになっている。お兄ちゃんは姉貴のおかげですっかり治っていた。