崩れたビルの二階。鉄骨に挟まれながら、
一毬は平然と喋っていた。
「ふむふむ……つまり〜、いまの一毬って、“大ダメージ状態”ってやつですね? なるほど!」
肋骨が二本いってる。
左腕は脱臼してる。
顔はまあまあグシャってる。
でも一毬は、鏡代わりにスマホのインカメを起動しながら口角を上げた。
「でもでもでもッ、可愛さは健在! ってことで、これはこれで良し! ってコトでぇ!!」
画面の自分にウィンク。
左目のまぶた、腫れてて閉じねぇ。
「や〜〜、でもほんとアレですねぇ。あの人、どこからどう見ても、“人間やめてる”ですよね?」
その言い方すら、他人事みたいだった。体内で血が逆流しながら、一毬の思考はフルスロットル。
「でも、“戦った”って事実が大事なんですよぉ〜〜〜? これはポイント高い! 信用になる、はい! ボッコボコでも!」
自己分析という名の“自分語り”が止まらない。
「いやでも待ってください、一毬、逃げなかった! しかも時間も稼いだ! ね! 超えられたの、異常ってことなんですよ!」
「つまり、やっぱりこれは、“仕方ない敗北”! そう! 仕方ない! なんか変な人間兵器だったし!」
――自分を擁護しすぎて、逆に涙が出てきた。鼻の奥がツンとしたのは、痛みのせいか、悔しさか。
どちらにせよ、感情はとうの昔に麻痺してるはずだった。
「……悔しい、って、言っていいですか?」その言葉は、誰にも聞こえないように吐いた。
■通信機の向こうの声:
『ハイハイ生きてたか。報酬は出すが、そっちの“データ”は回収されるから、忘れんなよ。』
「えぇっ!? ちょっと! それ一毬のですよ!? あの術式ログ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?」
『うるせぇ、恥ずかしいのはお前の決めゼリフだ。』
「名台詞なんですよぉ〜!? やだぁもう、傷ついた上にデータ回収とか、なにそれぇ!?」
誰にも伝わらない、誇りと羞恥のせめぎ合い。
それでも、立ち上がる。
これが「一毬」という女だった。
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